このライトノベルがすごい!文庫 スペシャルブログ

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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第13話―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんな

6月某々日
「どなたか! 車内にお医者様はおられませんか!」
深夜、高速バス、名古屋行き。
「腹が……腹が裂けるわ…………」
だから言ったのだ、臨月に本場味噌煮込みうどんを食べたいなど無茶だと。
「俺は一応医者だが」
チュッパチャップを咥えた男が近づいてくる。
「なんだ産気づいたのか」
「腹が……腹が……」
「どれ見せてみろ……河童!」
男が仰け反る。
「先生! 河童を助けてください!」
「しかし河童って!」
「いいからなんとかしろこの野郎!」
首根っこを掴み河童の股ぐらの前にしゃがませる。
「ふ、しかたない俺の新しい伝説がここで生まれるらしい」
男はジャケットのポケットから赤いルージュを取り出し唇にあてる。
「化粧などしてる場合か!」
ルージュを手の甲で弾き飛ばす。
「あーこれには意味がー」
オタオタ転がるルージュを追いかける男。
「う~ま~れ~る~」
河童の腹が凹み、胸が出っ張る。胸が凹み、喉が出っ張る。喉が凹み、口が大きく開かれ、緑と青と黄緑で彩られた直径30センチ程の球体がゴトリと高速バスの床に落ちた。
「…………河童…………これは?」
「べーべーべーべーん、ん、ん? 愛の結晶ではないか人間」

思ってもみなかったわ――

―――我が子誕生




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第12話―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんな

6月某日
「イラストレータ全然決まんないわ!」
 T氏が我が家のちゃぶ台を叩く。外は雨、梅雨はまだ明けず。
 俺はトンカツを揚げる。カツで勝つ、必勝祈願、なんの? 芥川賞、今回こそ頑張れシリン・ネザマフィ!
「作品見せると誰も描きたがらないわ! 当たり前だこんな駄作! 誰がイラスト描きたいか!」
T氏は俺の書いた直し原稿を投げ捨て大の字に寝転がる。原稿の束がT氏の頭の左上に落ちる。こっちから見ると大の字ではなく犬の字だ。
「この人に描いて貰えば良かろう」
河童は『このライトノベルがすごい!2010』の表紙を指さす。表紙には女の子が文庫本を顎先にあてたイラスト。
「バカか河童! このイラストを描いたヤスダスズヒト先生は超売れっ子でこんな駄作にイラスト描いてくれないわ!」
「ほぅ、超売れっ子か」
「そうだ超売れっ子だ!」
「ならばこの人がイラストを描けば売れるわけか?」
「こんな駄作でも間違って買ってくれる人がいるかもしれん」
「それでは決まりだな」
河童が立ち上がり、雨がっぱを着る。
「2時間後ヤスダスズヒトに電話しろ、必ずOKが出るはずだ」
河童は雨と暗闇に紛れ部屋を出て行く。
「Tさんトンカツ揚がったけど食べてきます?」
「大間、俺、なんかすんごい悪い事してんのかな?」
「良い悪いの基準は自分の中にあります。自分の心に素直にTさん、今あなたがしなければいけない事は何ですか?」
「この本を売る事だ」
「ならばそのためにする事は全て良い事ではないでしょうか。判断はTさんの心が決めます。世間ではありません。Tさん貴方は澄んだ瞳をしています」
「そ、そうか? そうだよな! 自分の心に素直に! それが正解のはずだ!」
T氏はトンカツが溺れるほどウスターソースをかけ、かぶりついた。
自分の心に正直に、良い悪いの判断は自分の中、人はこれを詭弁と呼ぶ。

―――イラスト、ヤスダスズヒト氏に決定




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第11話―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんな

6月某々日
河童は意外と雨が苦手。
「なっはははははっ鼠が! 鼠が逃げ回っておるわ!」
外は雨。河童は朝から『トムとジェリー』デラックスDVDを見て大笑いしている。何分あんだこのDVD、我が家のテレビは朝からずっと『トムとジェリー』だ。
ジリリリリ。呼び鈴が鳴る。立ち上がり玄関を開ける。
「河童、お前栗山様に何をした」
雨でズブ濡れになったT氏が玄関前に立っている。
河童は視線をテレビから外(はず)さず答える。
「何もしておらんよ。まぁしいて言えば挨拶程度」
「栗山様がいきなり電話で大間の作品に栗山千明賞を付けたいと言い出した。何をした河童! 栗山様は泣いていたぞ!」
 T氏は土足のまま部屋の中に入り河童の胸ぐらをつかむ。河童素知らぬ顔。
「何をした!」
「まぁしいて言えばトムジェリ遊びよ。俺がトムで栗山千明がジェリー、俺はこの猫のようにしくじりはしないけどな」
河童はT氏の目を見ていやらしく笑う。
「Tお前このままでいいのか?」
「な、何の事だ」
「自分が担当した作家が大賞を取れず、売り上げもパッとしなかったらお前どうする?」
「そ、それは……」
「社内の立場も悪くなるのではないのか?」
「お、お前には関係ない事だ」
「大丈夫、俺に任しておけ。お前を一番にしてやる」
「な、何を……」
「大間に乗っかれT、この馬はお前をさらなる高みに連れて行ってくれる勝ち馬だぞ」
「…………………………」
T氏は河童の胸ぐらを放し、俺の前に正座する。三つ指をつき、頭を深々下げる。
「大間先生。栗山千明賞、受賞おめでとうございます」

河童の目が真っ赤に光る。

―――「このラノ大賞」銀賞から栗山千明賞へ変更




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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