そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんな
6月某々日
「どなたか! 車内にお医者様はおられませんか!」
深夜、高速バス、名古屋行き。
「腹が……腹が裂けるわ…………」
だから言ったのだ、臨月に本場味噌煮込みうどんを食べたいなど無茶だと。
「俺は一応医者だが」
チュッパチャップを咥えた男が近づいてくる。
「なんだ産気づいたのか」
「腹が……腹が……」
「どれ見せてみろ……河童!」
男が仰け反る。
「先生! 河童を助けてください!」
「しかし河童って!」
「いいからなんとかしろこの野郎!」
首根っこを掴み河童の股ぐらの前にしゃがませる。
「ふ、しかたない俺の新しい伝説がここで生まれるらしい」
男はジャケットのポケットから赤いルージュを取り出し唇にあてる。
「化粧などしてる場合か!」
ルージュを手の甲で弾き飛ばす。
「あーこれには意味がー」
オタオタ転がるルージュを追いかける男。
「う~ま~れ~る~」
河童の腹が凹み、胸が出っ張る。胸が凹み、喉が出っ張る。喉が凹み、口が大きく開かれ、緑と青と黄緑で彩られた直径30センチ程の球体がゴトリと高速バスの床に落ちた。
「…………河童…………これは?」
「べーべーべーべーん、ん、ん? 愛の結晶ではないか人間」
思ってもみなかったわ――
―――我が子誕生
※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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