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特別短編『レインボーフレンドシップ』③

特別短編タイトル12










《3》

 卵焼きは置いておく。次に立てた作戦は傘だ。
 雨の日に傘をさして登校したものの、その傘が帰りには無い、なんてことになっていたらどうだろうか。空はまだ雨模様で傘が無ければ困ってしまう、なのにどこかの誰かが持っていってしまったようで、弱っているところへクラスメイトがやってきて「どうしたの酒己さん。え? 傘を盗まれた? それは大変、私の傘に入って一緒に帰りましょう」とくれば、鉄のハートも溶けるというものではないか。
 幸いにして季節は梅雨時だ。作戦の立案後二日で空はぐずつき始め、登校風景では色とりどりの傘が並び、鬱陶しい雨を嘆き合う生徒達の中で香織は一人ほくそ笑んでいた。
 登校時間を達子に合わせ、さらに玄関前でだらだらと時間をかけて靴紐を結び直したり雨露を払ったりして時間を調整し、達子が来るのを確認してから教室に向かった。達子の傘、傘立てのどこにさしたかをしっかりと確認した。これで準備は万端だ。
 授業中、気分が悪いと手を上げて心配されながら教室を後にし、誰にも見られていないことをしっかりと確かめた上でレイン・ポゥに変身、玄関に走って達子の傘を下駄箱の隙間に押しこみ、次は保健室前に走って変身を解除、その後は三十分間保健室のベッドで横になっていた。
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特別短編『レインボーフレンドシップ』②

特別短編タイトル12










《2》

 香織を魔法少女「レイン・ポゥ」にしてくれたトコは、同時に様々なことを教えてくれた。戦い方も生き方も、外国語やテーブルマナーに至るまで、種々雑多でいつ必要になるのかもわからないことまで全てを叩きこんでくれた。
 だが「誰かと友達になる方法」はそこに無かった。
「わたしってさー。友達が必要だったことってないんだよね」
「トコってぼっちなの?」
「孤高なのよ、孤高の妖精。つるむ相手が必要ないの」
「でも同窓会には呼ばれなかったんだよね?」
「『良さそうな魔法少女候補を見つけたら絶対トコに見せるな』とか『トコが美味しそうな話持ってきても聞いちゃダメ』とか『トコは半径五メートル以内に近寄るな』とか、そういう誹謗中傷を受け続けてもくじけることなく頑張り続けたのがトコさんよ」
 その流れでなぜドヤ顔になるのかよくわからない。寂しい一人ぼっちなのではなく、孤高の嫌われ者であるといいたいのだろうか。
「というわけでレイン・ポゥは頑張って友達になってね。わたしはその間に他の子を見ておくから」
「頑張ってっていわれてもなあ」
 習いはしなかったが、友達を作ることができないわけではない。各種成績を調整し、クラス内での立ち位置を整え、羨ましがられず、妬まれず、馬鹿にされず、笑われず、それでいて空気にならず、自分も相手も不快にならないポジションにつく。人間関係についてなら師匠であるトコよりも上手くやってのけるという自信はあった。
「ええっと、名前は酒己達子……だっけ。一年生なんだよね? どこのクラスの子?」
 トコがおかしなものを見るような顔で香織を見返した。
「レイン・ポゥと同じクラスだから頼んだんだけど……」
「え? マジで?」
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特別短編『レインボーフレンドシップ』①

特別短編タイトル12










《1》

 上段回し蹴りを避けることができなかった。
 虹を出すことはできない。つまり虹で攻撃を防ぐことはできない。必死で腕を顔の横まで上げる。頭部を刈り取らんと放たれた一撃は、腕一本挟んだくらいで勢いを殺しきることができず、ガードもろともに跳ね飛ばされた。
 背中でブロック塀を砕き、それでも止まらず、ゴロゴロとコンクリートの上を転がる。虹さえ出すことができればガードもできたし反撃もできた。無様に転がることもなく虹で身体を支えることだってできた。当たり前のようにできていたことが、今はできない。
 出ろ。走れ。何度念じても虹は出ない。真っ暗闇の中で自分の姿さえ見ることができない。それでも虹が出ればわかる。出ていないのも当然わかる。
 空気の揺らぎと落下音を感じて腰を曲げ身を縮めた。
 一瞬前まで頭があったところをなにかが通過し、コンクリートの路面に打ちつけられた。破片が飛び散って顔にぶつかる。打ちつけられたなにかに手を伸ばすが、するりと抜けられた。気配が闇に溶ける。音も聞こえない。
 視線だけは感じる。相手が一方的にレイン・ポゥを見ている。
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