ゆらりゆらり

「あれは河童の様に見えて河童じゃないんだよ。遠野とかに居る由緒正しき河童とは違う。はぐれ者さ。あれの祖先は沙悟浄という鬼さ、天帝の器を割ってしまったばっかりに天界を追われ、七日に一度は脇腹を鋭い刃物で突かれる罰を受け、苦しさと、痛みと、怒りで鬼になった哀れな天上人のなれの果てさ。
俺達は人間の感性に引っ張られて姿形を変えちまうから、沙悟浄は河童と思う人間が増えたせいであれは河童の姿になっちまった。もとは鬼、姿は河童、鬼からも河童からも忌み嫌われ相手にされず、亭主の俺にすら心を開かず、あろう事か人間相手に尻尾を振って卵まで孕んじまった。哀れな哀れな生き物さ。
哀れだろう? 滑稽だろう? 俺の女房は良かったかい? 俺はあんな河童もどき、手だって握った事も無いよ。いくら中身は鬼だって俺はあんな醜い容姿の者を抱く気になんてなれないよ。気持ちが悪いし汚らわしいじゃないか、あの蛙の腹の様な肌、指の間にある水掻き、触ると軟らかい口ばし、烏、お前は本当に凄い男だよ、あれ相手に孕ませる程抱けるなんて狂っているとしか思えないね。
この先の話をしようか、お前とあれの話さ。お前は俺の女房に手を出したんだそれなりの罰を受けてもらうよ。そうだね肝を抜かれるぐらいは覚悟して欲しいね。あれはもう駄目だ。あれは鰐にでも食わして俺は新しい女房でも貰うとするよ。今度は純粋な鬼が良い、俺だって孕ませるほど抱きたいからね。卵だけどもうすぐ孵るらしいじゃないか、赤子の肉はうまいし肝は不老長寿の妙薬だからありがたく使わせてもらうよ。人間と河童もどきの間の子。なかなか食べ応えがありそうじゃないか。今から楽しみだよ。
ほら、そんな顔するなよ。
そんなに睨むなよ。
そんな目で俺を見るなよ。
ゾクゾクしちゃうじゃないか。
俺の中の何か外れちゃうじゃないか。
お前をここで一飲みにしても良いんだよ。
なんの力も無い人間風情が粋がるんじゃないよ。
明日、お前の目の前で河童を鰐に食わせてやろう、赤子もお前の目の前で俺が骨の髄までシャブッてやろう。人間。お前にはこの世の絶望を全てプレゼントして現世に帰してやるからありがたく思いな。
明日を楽しみにしてるんだな人間、ゴミ屑が」

 ドアが開き、小鬼が出て行く。俺は手足を鎖で繋がれ、体中を殴られたため体中が熱い。
「これが貴方の望んだ結果?」
部屋の角が薄く光り、肉片が俺をなじる。




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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