ゆらりゆらり

「お前らあれね! アレに夢中で自分達の子供が卵から孵っても気づかないのね! 全くこの先この子の人生が思いやられるわ! ネグレクト! ネグレクトって言うんでしょ現世では!」
 小鬼が赤ん坊を抱き、あやしながら叫ぶ。赤ん坊はいつの間にか産湯につかり綺麗サッパリ深紅のおくるみに包まれキャッキャッ笑っている。
「俺だって鬼ジャン!? こんな姿誰かに見られたらイメージダウンジャン!? でも仕方ないジャン!? 赤ん坊が泣いてたんだから! 可愛かったんだから! その横では激しい情事の最中だったんだから! 産湯にだって入れたわ! おしめだってしたわ! おくるみだって俺のお気に入りのバスローブ裂いて作ったわ! 現世に行って薬局で粉ミルク買って来たわ! 店員に驚かれたわ! 思わずポイントカード作ったわ! 訳分からず勧められるままに色々新生児グッズ買ってしまったわ! おしゃぶりは歯の形が変形するからあまり良くない事を初めて知ったわ! 男の子なのに「女の子ですか? 可愛いですねー」って言われて嬉しかったわ! 何で108の鬼を束ねる俺がこんな事までしなくちゃなんないのよ!」

 俺、正座。
 元河童も正座。

「良いんだよ! 俺は良いんだよこの子の為に俺が勝手にした事だから! でもさ! お前ら親でしょ!? お前が孕ませてお前が産んだんでしょ!? つまりは責任があるわけでしょ!? この子が一イッパシの大人に成るまで育てる義務が有るわけでしょ!? 大丈夫なの!? 育てられるの!? ナニの途中にこの子泣いたら中断できんの!? 子作りばっかして子育て出来ないんならシッカリ避妊しなよ! 生まれてくる子が可哀想だわ! こんなに小さいんだよ! この手! こんなに小さいんだよ! こんなに小さくても生きてて、これから必死で生きてこうとしてるんだよ! 何でこんな小さい可愛らしい命を無視できるの!」
 ヤバい、ウルトラ眠い。
「ねぇ! 聞いてんの! 真面目な話をしてんだよ! この子、人間と鬼のハイブリッド(ド?)だよ! 子供の世界は意外と残酷なんだよ! 虐めとかあるかも知んないジャン! 大丈夫なの!? お前らこの子の事守って行けんの!? 俺も陰ながら見守っちゃうけどやっぱりメインでこの子を守っていくのはお前らになるワケジャン! 心配ジャン!? ホントに心配ジャン!? お前らホントに信用ならないジャン!? どーしたら良いんだよー!!!! どーしたら俺は安心できんだよー!!!! あ、俺、現世行こ。現世行ってこの子と暮らそ。それしかないわ、この気持ちに決着つけるには」
へ?
「コトブキ~小鬼のオジちゃんいつまでも一緒でちゅよ~べんべろば~」
「何だコトブキって?」
「この子の名前でしょうが! 寿鬼って書いてコトブキ。縁起が良いでしょ~」
いや名前って。




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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