ゆらりゆらり

 

「申し訳ありません大間さん、担当を変更させていただきたいのですが~」

宝島社から電話。

「はぁ、なんでですか?」

「いやぁ~申しわけありません。お恥ずかしい話なのですが大間さんを担当させて頂いていたTが失踪しまして~何処を探しても見つからんのですわ。此処から色々出版に向けて立て込んでくる時期なのにあのバカ何処に行ったのか~」

 俺はT氏が何処に行ったか知っているがここは沈黙、この質問の正しい答えは沈黙だ。

「そのような事情なら担当の方が変更になるのは致し方ありません。私としては此処までT氏と作り上げてきた作品を一緒に発表出来ないのは断腸の思いですが、我儘は言いません。宝島社様の仰る通りにいたします」

「そうですか~いやありがたい。Tもこんなに優しい一般常識のある作家さんほったらかして罰が当たるわ。今日新しい担当そちらに挨拶に行かせますが宜しいですか?」

「はいお待ちしています」

電話を切る。

「担当が変わるのか?」

 元河童が何故か蓑を背負い包丁を研いでいる。

「そうらしいな」

俺はマグカップにコーヒーを入れ小鬼の横に置く。小鬼は凶悪な爪の付いた三本の指でコトブキの足をさすりながらニコニコお馬のお歌を歌っている。

「馬はとしとし鳴いても強い。馬が強けりゃお武家さんも強い」

「馬が強くてもお武家が強いとは限らんだろう」

「うるさい烏! コトブキが混乱するだろうが! お前は黙ってつまらない小説でも書いてろ!」

鋭い爪で切り裂かれそうになる。

「この歌は今日行ったベビーマッサージ教室で習ったのだ! コトブキが一番アッパーになるこの曲を愚弄すると俺が許さんからな!」

スンゲー妖気、ここは引こう、殺されかねん。

「元河童」

「何だ人間?」

「T氏今頃どうしてるかな?」

「命までは取られまい、それ以外は保障できんが」

「ま、命さえあればいいか、命あってのモノダネだしな」

ピンポーン。はーい。新しい担当さんかね? 玄関に出る。

「宅急便でーす。ハンコかサイン下さい」

 かなり大きな大きな段ボール、サインをして部屋のなかに運ぶ。かなり重い。

「おー来たか来たか。コトブキの玩具にと鬼界から送ってもらったんだわ」

小鬼が段ボールを開ける。

中にはT氏が入っていた。




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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