小樽巡り地獄変~闇~

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社長は電話を切ると、突然僕に頭を下げた。

「カーリーさん、お願いがあります」
「なんだよ」
「今電話してきたのは俺の友人なのですが、飲み会をしているらしくて」
「君はそこに行きたいというわけか?」
「まあ、そんなんですけどね」
「いいよいいよ。
僕はここで留守番してるから」
「いや、どうせだから一緒に行きませんか?
飲み会メンバーの中に、作家志望の奴がいて、カーリーさん如き吹けば消えるような零細ラノベ作家でも話をしてやれば奴らもちょっとは、ほんのちょっとくらいは参考になると思うんですよね」
「もうちょっとやんわりとした言葉遣いで僕を形容してくれないか……」
「ね? 
来てくれませんか?」

社長が強く僕に迫るので、僕はかばんからタバコの箱を取り出した。
そして火をつけて煙を吐き出した。
……。

「……行ってもいいよ」
「マジですか!」
「ちょっと話するくらいなら別に」

                              ※

というわけで一緒に飲み会へ行くことになった。
社長はヒラ子を置いて行くつもりだったが、ヒラ子が猛烈に行きたがり、連れて行くことになった。
社長は子供を連れて居酒屋に行くのはどうかという顔であったが、ちょっと行ってすぐ帰ればよいだろうと考え直したようだった。
僕は、荷物を部屋に置いて、二人と一緒に外に出た。
荷物は置いて行ったが、一応カメラだけは持った。あと一応僕の著作も。宣伝は大事である。

社長とヒラ子、そして僕は、近所のチェーン店の居酒屋『魚民』に向かった。

魚民00

店内に入ると、まだバスガイドの格好をしたままのヒラ子が言った。

「こちら魚民で~ございます。
社長は、酒を飲むといったらたいていこの辺りに~来ます。
このあとカラオケに行くのが~お気に入りコースだ~そうです」

だからなんで社長の情報を――いやもういい。

キャラ3

とにかく、そこには三人の学生らしき男たちがいた。
一人は髭面で帽子をかぶった男。
一人はメガネの真面目そうな男。
そして最後の一人はなにやら陰鬱な空気を漂わせる男であった。

僕はこれからちょっと話をしようというわけだが――。
少し不安だった。
髭の学生とメガネの学生は、どうみても泥酔しており、理性を保っているようには見えない。
残りの陰鬱そうな彼は僕に興味などなさそうだ。

社長が彼らに声をかけ、僕も含めて全員座ると、社長が言った。

「こっちの髭は明津と言います、おい、挨拶しろ明津」
「うう、吐く、吐いてしまうぜ……」

明津君は口を押さえながら顔を青くしている……。

「こっちのメガネは大塚と言います、おい、挨拶しろ大塚」
「ピンク色の象さんが見える……」

大塚君は赤い顔でふらふらと揺れながら虚空を眺めている。

「こっちの暗いのが池野中です」
「どうも……」

池野中君は面倒くさそうに僕に頭を下げた。

僕も彼らに自己紹介した。
が、社長とヒラ子と池野中君くらいしか僕の話を聞いているようにはみえなかった。
しかも池野中君は無表情だ。とてもつまらなさそうに僕を見ている。
気まずい。気まずいぞ。僕は歓迎されてないんじゃないか、これは?
社長が困った笑顔を浮かべながら言った。

「おいおいみんなどうしたんだよ。
せっかく来てもらったんだぞ……」

誰も答えない。
明津君は無言で立ち上がり、吐き気を催したのか口を押さえてトイレに駆け、大塚君は揺れ続ける。

「……」

池野中君は無言で前のめりに倒れた。
僕は彼の隣に座っていたので、驚いてのけぞってしまった。

「こ、これはどういうことだ!?
大丈夫か、君!!」

社長がタバコに火をつけながら、苦笑した。

「あー、どうも池野中もかなり酔ってたみたいですね。
こいつ飲んでも顔色変わんないんですよ……」

そして結局、明津君はずっとトイレに、大塚君は気付くと眠っており、池野中君は突っ伏してぶつぶつ呻いているという、微妙な状況が訪れた。
僕は……結局、誰のために来たんだ……というか来た意味はあったのか……?

社長はうつむき、ヒラ子は無言でテーブルの上にあった唐揚げを食べる。
それにしても気まずい……気まずすぎる……。

社長が沈黙に耐えきれず言った……。

「ま、まあ、飲みましょう、カーリーさん!
今夜は飲みまくりましょう!」
「……そうだね、もう飲むしか、ない……よね……」

僕はもう半ばやけになり、社長と酒を飲んだ。
悲しい気分を吹き飛ばすため、必死に飲んだ。
ヒラ子はひたすら「おいしい、これおいしいよう! 初体験の味!」と唐揚げを食べていた。
きっと久しぶりのタンパク質だったのだろう……。
それとも鳥の唐揚げを食べるのは初めてだったのだろうか……。

僕はひたすら酒を飲みまくり、徐々に意識がもうろうとし始め――しばらくすると僕の記憶は途切れた。

                              ※

山

あまりの寒さに僕は目を覚ました。
目を開けるとたくさんの木々が見えた。
地面は落ち葉で覆い隠されている。
まるで山の中のようだ――というか山の中だ。
――山?

「……!?
どこだ、ここは」

僕はがたがた震えながら体を起こす。
服が泥まみれであった。
だが手にはしっかりとカメラを握っている。
その上僕が寝ていた場所は、どこかの山の中だった。
……意味がわからなかった。
僕は記憶の底から昨晩のことを引っ張りだす。
そう、社長と魚民に行って、三人の学生に会い、酒を飲んで、それから――それから?
……思い出せない。

「……ぐうっ!」

頭が痛んだ。
二日酔いだ……。
しかもどうやら記憶が飛んでいる……。
僕にしては珍しいな、記憶が飛ぶほど酒を飲むなんて。
たいてい記憶が残る程度でやめるんだけどな……。

それにしても、こんな情けないことになっているのは久しぶりだ。

「しかし、寒い……! 
まったく、なんで山の中にいるんだ!」

僕は自分で自分を抱きしめるようなポーズをとりながらがたがた震えた。

「と、とにかく、ややや、山から出ないと……」

僕は落ち葉の下はぬかるんで滑りやすい斜面を、草木をつかんで支えにして登った。
山から出るなら下るべきかとも思ったが、斜面の上の方に看板が見えたのである。
看板があるなら、道があるかもしれないと僕は思ったのだ。

「うううう、寒い。
くそう、こんなことなら飲み会になんて行かず、社長の家で寝てればよかった……」

てっぺんまで登ると――。
そこには小さな建物があった。

旭展望台

「どこだここは……」

僕は看板を見る。
そこは旭展望台だった。
旭展望台……小樽の観光スポットの一つだ……。
山の上にある小さな展望台で、そこからは小樽と海が見渡せる。

『建設兄弟!』一巻には出さなかったので、昨日はここまで足を延ばさなかったが……。 

「なんで僕は旭展望台にいるんだ……?」

僕は必死に昨晩の出来事を思い出そうとしたが、思い出せなかった。

とにかくそこには誰もいなかった。
とりあえず山を降りてしまおう。
僕はそう決めて、節々の痛みを我慢して歩きだした。

つづく。




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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