小樽巡り地獄変~怪~

ロゴ改

「……」

僕は驚愕していた。 
展望台から地獄坂まで続く道に、わけのわからない物が転がっていたからだ。

「な、何事……!?」

そこにはおそらく、大塚君、明津君、池野中君、そしてデシ子と思われる四人が頭から茂みに刺さっていた。
昨晩何があったのか……僕は頭を抱えて叫んだ。

「お、おかしいぞ、なにが起こっているというのだぁああ!」

その時、ヒラ子が「うう」と苦しげな声を上げながら呻いた。
僕はヒラ子を茂みから引き抜いた。

「ヒ、ヒラ子、生きているのか!
どうしたんだ、これはいったいなにがあったんだい!?」
「ここ、は、旭展望台に……続く道で……ございまーす……。
商大生は……グ、グハッ……酔っ払うと……集団で……展望台か……埠頭に……行くと……お兄ちゃんが……ゴホッゴホッ!」
「ヒ、ヒラ子、よせ! もうしゃべるな! あとガイドじゃなくて状況説明してほしいかな!?」
「び、びじねすぱーそんたる誇りを守って死ねるなら……本望! グ、グハッ!」
「ヒ、ヒラ子ぉぉぉ!」

ヒラ子はそう告げると、白目をむいて失神した……。
ドラマチックな展開だったが、全員引き抜いて、地面に寝かせると普通にいびきをかいていたりして、けっこうみんな元気そうなのであった。


                             ※

ミスタードーナツ00

全員、意識を取り戻してわかったのだが、みんな記憶が飛んでいた。
お酒を飲んでいないはずのヒラ子までなぜか二日酔いになっており、状況は混沌を極めていた。
なので状況を確認すべく、僕たちは駅前のミスタードーナツで会議していた。
そこには大学生から近所にお住まいなのであろうご老人まで、多種多様なお客さんがいた。
コーヒーおかわり可、日によってはドーナツが百円という素敵な店は小樽に少ない、らしい。

「ここはミスタードーナツでございまーす。
駅前のロッ●リアが潰れて以来、駅前でたまれる場所は、ここか、居酒屋の笑笑だけでございまーす。
というかロ●テリアが潰れたのは絶対ミスドにお客を奪われたからだと――これ以上言わないほうがいいような気がしたので、伏せまーす」

ヒラ子の、相変わらず興味をそそらないガイドを聞き流しつつ、僕たちはコーヒーをすすった。
ちなみに店員の女性は僕らを不審者を見る目で見た。
それも仕方がないことだ。
明らかに二日酔いの、目の濁った、薄汚れた格好をした男が四人に泥まみれの幼女バスガイドが座っていれば、眉もひそめようものである。
我々はまごうことなき不審者であったのだ。

明津君が言った。

「で、この中に、どうしてこうなってるか覚えてる奴はいるのか?」

大塚君が続けて言った。

「うっすらと昨日のことは覚えているんだけども……酒のせいではっきりとしないんだよ。
みんなはどうなんだ?」

池野中君がそれに答える。

「僕もだね、ぼやけてる」

誰も昨晩のことを覚えていなかった。

僕も口を開いた。

「ならこうしよう。
みんな、昨晩の覚えていることを断片的にでもいいから言っていくんだ。
もしかしたらみんなの情報で昨晩のはっきりしない記憶が補完できるかもしれない」

三人は無言で首肯した。                  
                             ※

結果、わかったのは以下のようなことである。

僕、社長が酔っ払い、正気を失う。
ヒラ子は水と間違えて日本酒を飲む。
そうヒラ子も酒を飲んでいたのだ。
これに誰も気づかなかったのは問題だった。
やはり未成年を居酒屋になど連れて行くものではない。
その後、大塚君、明津君、池野中君、復活。
そして飲み会再会……テンションの上がった僕らは誰が言い出したのか「月と競争しようぜ!」という気の狂った発言に乗り、月を追いかけて店の外へ走り出す(だが、かろうじて理性を保っていた池野中君が会計だけは済ませたらしい)。
そして気がつくと社長の姿だけが消えていた……。

                             ※

バカバカしい、なんてバカバカしい話だ……。
酔っ払ってへまをしただけの夜だったわけだ。 

「こんなことなら、社長の家でおとなしく寝ていればよかった……。
原稿だってやらなきゃいけないのに……」

すると明津君と大塚君が僕を見て、首をかしげた。

「原稿?」
「原稿って……カーリーさん、なにやってる人なんですか?」

「僕かい? 
一応、作家だけど……」

二人がずいっと身を乗り出してきた。
そして声をはもらせ、僕に尋ねてくる。

『作家だって?
なに書いてる人ですか!』
「け、『建設兄弟!』ってラノベだけど」

二人は無言で、椅子に座った。そして目をそらしながらコーヒーを飲んだ。
目に見えてテンションが下がっているのを感じた。

「聞いたこともないタイトルだぜー……」
「ラノベは守備範囲外なんですよね……」

なぜだろう。
どうして僕は小樽に販促の写真を撮りに来ただけなのにこんなに傷つかなきゃならないんだ?

僕は最後の希望を込めて、池野中君を見つめた。
池野中君が陰鬱な顔で言った。

「僕も読んだことはないですね。
すいません、僕、本読まないんで」
「ああ、そう……」

しかし、ふいにヒラ子が口を開いた。

「ウンガー、キッズ・ナー、ジェリコ……」
「……!?」

僕はかっと目を見開いた。
なぜならヒラ子が口走った名前は、『建設兄弟!』(一巻)の登場人物の名前だったからだ!

「あれ?
なぜだか、『建設兄弟!』を読んだ記憶が、あれ?
昨日の夜、どこかで読んだのかな……たしか居酒屋で――あ、頭が痛いよう」」
「それはきっと二日酔いだね。そんなことより!
読んだの? マジで? え? どうだった、ねぇ感想は? どうだった? 面白かった?」
「え、えっと……よ、読みやすかったといえば読みやすかった、です……」
「それだけ? なんか他には――。
ちょっと待って、なんで目をそらすの?
どういうことなのそれ……!」
「でもあれ?
なにか、思い出しそうな……。
『建設兄弟!』を読んだ後……テンションが上がって……なにかしたような……コトノハムシで……」
「なにかとかいいから僕の小説の感想言ってくれよぉおお!」

かたくなに目をそらし続けるデシ子の肩をつかんで揺さぶっていると、遠くから爆発音が聞こえて、僕らはすくみ上がった。
窓がびりびりと震え、僕と明津君と大塚君は小動物の素早さでテーブルの下に隠れた。

「な、なんだ?」

僕がつぶやくと、椅子に座ったままの池野中君が言った。

「なんだかわかりませんが……運河のほうですね」

つづく。




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

http://award2010.konorano.jp/
http://konorano.jp/
http://twitter.com/konorano_jp


---------------第2巻発売決定!予約受付中!--------------
伝説兄妹2! 小樽恋情編 (このライトノベルがすごい!文庫)伝説兄妹2! 小樽恋情編 (このライトノベルがすごい!文庫)
著者:おかもと(仮)
宝島社(2010-12-10)
販売元:Amazon.co.jp

--------------------------------------------------------------