小樽巡り地獄変~運河に潜む者~
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運河00

運河には悲鳴と狂騒が充満していた。
逃げ惑う人々は「怪獣がでた!」「緑色の化け物が!」などと叫びながら走っていく。
運河沿いの店が一軒、炎上しており、何か巨大な物で壁を破壊されたような跡があった。
人々は逃げ惑い、続々と集結するパトカー、これは大事件である。(ちなみに写真にはその様子は映っていない。何故ならこれは昨日撮ったものであるからだ!)

「こ、これは何事だ!」

僕が頭をかきむしりながら叫ぶと、ヒラ子が僕の前にずいっと出て、片手を運河に差し向けた。

「右手をご覧ください~、運河です。
かつて小樽では運河闘争という市民と国の戦いが繰り広げられー、市民は長い闘争の果てにこの運河を守り切ったのでーす……頭が痛いよう、二日酔いだよう」
「……それどころじゃなくない?」

デシ子は二日酔いに苦しみながらもガイドをしていた。
けなげな幼女であったが――絶対それどころじゃないと思う。

その時、群衆の一人が運河を指さして言った。

「あ、あれはなんだ!」

僕らはそちらを見やる。
運河の水面が盛り上がっていた。
水の下に、なにか巨大な生命体の影が見える!
水しぶきをあげて、巨大な何かが水面から身を露わす!
舞い散る水玉のむこうに巨大な生命体の影!
その全身に緑色の藻をまとった丸っこいその姿、藻の奥底に光るつぶらな瞳!
僕はその姿を知っている。ああ、この場にいる誰よりも知っている!

「な、な、なんということだ!」

僕は頭をかきむしりながら叫んだ!
運河から姿を現した謎の巨大生命体、それはまごうことなき、僕の小説に出てきた怪獣!

「ウ、ウンガーじゃないか!」

僕は叫んだ!
そしてウンガーの頭の上に誰かが頭から刺さっているのを見つけた。
服から察するに社長であった! 社長がウンガーの頭から生えている!
なぜだ!

明津君と池野中君と大塚君が順に叫んだ!

「柏木だ!
ということはこの騒ぎは奴のせいだな!」
「人間のクズめ。なにかっていうと問題を起こす奴だ、柏木は」
「ちくしょう、妹でしかも幼女と同棲なんかして恨めしい!」

約一名言っていることがおかしかったが、僕は聞かないふりをした。
しかし、確かにウンガーの頭に社長が刺さっているのは謎だが、なぜそれだけでこの騒ぎが社長のせいになるのだろう。
社長はどれだけ友人たちから信用がないんだ。
過去になにかしたのだろうか。
ちなみにデシ子は相変わらず二日酔いでへろへろしていた……。

                                    ※

ウンガーは「ウンガー!」と叫びながら、口から怪光線の如く運河の水を吐き出して、観光客やパトカーをなぎ倒した! 
でも水なので怪我人はいないようだった! 
だが運河の水は臭かった!

「な、なんてことだ。
どうしてウンガーが……」

なんてことだ、これは大惨事になるぞ……。
僕は一人おののいた。
でもウンガー……ふふ可愛いじゃないか、マスコット的な魅力があるだろうこれ、なんでウンガーは人気なかったんだろう。ちくしょう、あれか、僕の描写力不足のせいか……ちくしょう! なんだよ萌えって! 僕にはわかんねーよ! 可愛いモノに萌えるというのならウンガーにも萌えろよ! ちくしょう、世知辛い、ラノベ業界はまったく世知辛い! スレとか読書メーターとかラノベマップ見るといつもへこむ! なんか僕の感覚ずれてね!? あれか!? ウンガーが幼馴染とかだったらみんな萌えるのか!? じゃあ今日からウンガーは幼馴染っていう設定にしてやる! 部屋のベランダに出ると、時折ウンガーの着替えるシルエットがカーテン越しに見えるとかどうだろう! しかも毎朝ウンガーは主人公を起こしにやってくるんだ! テスト前なんかは「もう、いっつも最後はあたしに頼るんだから。……今回だけなんだからね?」とか言って勉強を教えてくれるんだ! これ行けんじゃね? ザ・竹さんに相談してみようかな!

苦悩する僕に池野中君が言った。

「カーリーさん、あれを知っているんですか?」
「ああ、知っているとも。あれはね、僕の『建設兄弟!』に出てきた運河の守護獣『ウンガー』だ!
かつて小樽の景観を守ろうと戦った小樽市民の闘争心が運河の底の藻に乗り移り顕現した大怪獣なのだよ!
でも見たまえあのつぶらな瞳! 可愛いだろう!?」
「なんて禍々しい化け物なんだ」
「……禍々しいとかひどくね?」
「デシ子、あれをなんとかしろ」

池野中君は僕の主張を無視し、デシ子に命令した。
一方僕は首をかしげた。
なんでただの幼女にそんな命令をするのだろう。
平社員のデシ子――略してヒラ子にそんなことができるとは、僕には到底思えない。

「いや、池野中君、彼女にあれをどうにかする力はないんじゃないかな」
「デシ子にはできますよ。
ただの幼女じゃないんです」
「そうなの?いやそんな馬鹿な」
「はやくやれデシ子」

だが池野中君の期待とは裏腹にデシ子は頭を押さえてうずくまっている。

「気持ち悪いよう、吐きそうだよう」

デシ子は立ち上がれなかったのだ。
二日酔いのダメージでデシ子は使い物にならなかったのだ。
大塚君がそんな彼女の背中を優しく撫でながら「大丈夫? 排水溝のところ行く?」と語りかけているが、なんだろう、その優しさの向こうに犯罪的なものを感じる……。
デシ子に接するときの目がなんかおかしいんだよね、彼は……。

そうこうしている隙にウンガーが口から勢いよく運河の水を噴出した!
濁った濁流は、僕らを吹き飛ばし、僕は地面に頭をしたたかにぶつけてしまった!

揺れる視界の中で、ウンガーは「ウンガー!」と叫び、頭の上の社長の下半身がぶらぶらと揺れる。
もう、もうダメだ……、あのつぶらな瞳のウンガーに街は蹂躙されてしまう……。
僕は絶望に押しつぶされそうになった。

しかし、その時である。

どこからか、重低音の、野太い、男らしい声が聞こえてきた……。

「兄者、どうやら間に合ったようだぜ……」
「そのようだな、くく、今回の工事は派手になりそうだぜ……」
「おいおい兄者、俺たちの工事って奴が派手じゃなかったことなんてあったかい?」
「こいつぁ一本とられたな……俺たちの仕事が派手じゃなかったことは一度もねぇ。
どれも命がけの死闘だったな」
「そうだな……いつだって死闘って奴は俺たちをつかんで離さねぇ……」

こ、この声は……聞いたことがないのに、僕の中の誰かとイメージの重なるこの声は……。

僕は声の主を見る。
そこにいたのは、腕を組んで仁王立ちする二人の巨漢……。
一人は顎の割れた、筋肉質のタンクトップ男。
もう一人は、豊かな青い髭をたくわえ、タバコを咥えた筋肉質の作業服の男。
この野獣の如く男らしい様は、間違いない!

「キッズ・ナーとジェリコじゃないか!!
うっひょう! 僕の小説のキャラが現実に!」

頭を打ったダメージなどどこ吹く風で、狂喜乱舞する僕の傍ら、明津君と大塚君がウンガーによるダメージに苦しみながら「誰……得……」とつぶやいたが、僕の耳には届かなかった。

つづく。




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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