小樽巡り地獄変~決着~

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観光地

僕たちは、意外に足の早いウンガーを追って観光地を走っていた。
ちなみに柏木社長は、かなり体力が衰弱していたので、置いてきた。

「う、うっぷ……。
み、右手をご覧ください……はぁはぁ……。
か、堺町本通、でござい、ます……」

デシ子は二日酔いとたび重なる移動で瀕死だったが、それでも必死にガイドを続けた。

「土産物屋等が立ち並び……平時は観光客であふれ……今日はびっくりするほど閑散としてますが……うう、普段はうにとかカニとか、売ってるけど……高いし……でも美味しいと言えば美味しい……。
は、吐きそうですよう……もうちょっとゆっくり移動しましょうよう……」

バスに乗らない幼女バスガイドは口を押さえながら主張した。
しかしデシ子というこの幼女、なんというプロ根性か。
いや、プロではないけれど、己の役割をきっちりこなす、なかなかの気概を持った幼女であった。

そして、ウンガー……。
ウンガーは不屈の生命力で致命傷を負いながらも必死に逃げていた。
だが、さすがのウンガーもついに体力が切れ、倒れ伏した……。

メルヘン交差点00

「う、うぐう。
ひ、左手をごらんください……メ、メルヘン交差点で、す……。
社長はかつてここで……ビジネスを……今日は人はいませんが……時折……どこかの民族風な、格好を、した人たちが、ここで、演奏したり……うぐうう、気持ち悪いよう……」

苦しげなデシ子のガイドは続く。
僕はついに、我慢できず叫んでしまった。

「も、もういい。しゃべるな、しゃべるんじゃない!
無理しないでくれ、休むんだ!」
「今のデシ子は柏木観光の平社員、ヒラ子ですから……義務を、びじねすぱーそんとしての義務を果たさずには死ねません!」
「死ぬんじゃない! 生きろ!」

僕がデシ子の身を案じていると、池野中君が僕の肩を叩いた。

「どうした?」
「どうやら、ウンガーとあの二人組、決着がついたみたいですよ」
「え?」

見ると、ちょうどジェリコがダイナマイトでウンガーに止めを刺したところであった。
キッズ・ナーとジェリコは勝利のハイタッチをしていた。

ウンガーはもはや戦う力はなく、「ウ、ウンガー……」と苦しげに鳴いている。

なんてこった! いいところを見逃してしまった!

「コイツ、まだ生きてやがるぜ、兄者」

ジェリコがウンガーに完全な止めを刺すべく、次のダイナマイトに火をつけようとしたが、キッズ・ナーがそれを止めた。
原作ではこの後、キッズ・ナーが、実はウンガーは小樽の景観を守るために戦っていたことに気付き、ジェリコを説得し、戦いをやめることになっている。
そしてウンガーは運河の底へと帰ってゆくのだ……。

僕はほろりと涙をこぼした。
完璧だ、完璧な再現だ……。

キッズ・ナーがウンガーに歩み寄り、口を開いた。

「コイツはコイツで守ってる物があったようだぜ、ジェリコ。
見ろよ、あれだけ大暴れしたのに街には傷一つねぇ……。
ジェリコ、コイツはきっと、ただ街の景観を守りたかっただけなのさ……」
「兄者……」

僕はうんうんと頷きながらキッズ・ナーのセリフを聞いた。

「見た目はこんなだが、コイツもまた――」

僕が感動にうち震えていると、池野中君がデシ子に言った。

「デシ子、もういいからアイツラを消せ」
「あ、はい」

セリフがいいところなのに、ウンガー含む僕の小説のキャラクターはあっけなく消え去った。
僕はその場に崩れ落ちた。
この世には神も仏もいないのか。

つづく。




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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