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2010年10月

君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第15話(第二部)―  大間九郎


家に帰ると河童はいなかった。あったのは滅茶苦茶に荒らされた部屋と鋭い何かで付けられた三本線の引っ掻き傷が無数、そして部屋中を真っ赤に染める血液痕。
何があったと言うのか。
部屋の中を見渡す、河童が抱卵していた大きな座布団の上には血液痕は無い。そして卵も無い。引っ掻き傷、4~50センチあるし三本線の間隔が10センチ程ある。深さは2,3センチあり、こんな傷を付けられるのは地上で熊ぐらいだろう。しかし三本線、熊ではない。では何か? 河童か? 河童には爪が無い、こんな傷は作れない。
やはり人外と考えるほかあるまい。
これだけの血液、人が一人死んでてもおかしくない量だ、しかしこの血液は河童のモノではない。河童の血液は青い。一度喧嘩して額をせん抜きでかち割った時、青い血が噴いたから良く覚えている。河童の血は青い。
では誰の血液なのか?
河童を襲った人外の物だろうか?
分からない。
電気が消えた。部屋の片隅が薄ぼんやり光っている。目を細め見るとそこには青白く光る小さなアマガエルがいた。
「ついていっては駄目」
アマガエルが俺に話しかける。
「ついていっては駄目、それしか望みが無くとも」
「何について行くって言うんだ」
「ついていってはブジャァァ」
「おやおやこんな所にカエルがいましたか、踏んでしまいました。カエルを踏んで2000ドルした革靴が台無しです」
カエルがいた部屋の片隅にはイブニングを着た男が立っている。男? 男だろう。スラリと背が高く細身だが肩幅が広い。男と考えていいだろう。
男の顔は山羊だった、黒山羊、額に五芒星の傷があり血が滴り落ちている。
「申しおくれました。わたくしブラフと申します。以後御見知りおきを」
ブラフは慇懃に頭を下げる。
「では参りましょうか」
「何処にだ」
「何処って決まっているではないですか、貴方が今一番行かなければならない所にですよ」
「河童のもとにか?」
「貴方がそう望むなら」
ブラフが部屋の窓を開ける。窓の外は真っ黒な闇、一センチ先も見えない。
「参りましょうか」
ブラフは窓を通り闇の中に消える。俺の足元で肉片と化したアマガエルが俺に縋り付く。
「いっては駄目」
肉片青白い光を放つ。



※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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『君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君』第二部スタート

本日より、
栗山千明賞受賞『ファンダ・メンダ・マウス』の著者・大間九郎の
連作短編「君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君」
の第二部がスタートです。

第一部最終話は以下URLより。
http://blog.award2010.konorano.jp/archives/1165109.html

第一部第1話は以下URLより。
http://blog.award2010.konorano.jp/archives/992585.html

第二部第1話は以下URLより。
http://blog.award2010.konorano.jp/archives/1291865.html

第二部からの怒涛の展開をお見逃し無く!


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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第14話(第一部完)―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんな


7月某々々日
河童の抱卵。
一日中卵を抱いている河童、飯も食わない。話かけても返事は無く、体に触ると気だるそうに威嚇してくる。
もう三日目。
「河童、俺は友達と飲み行くけどなんか帰りに買ってくるか?」
返事は無い。
ドアを閉め、家を出る。

少し飲み過ぎたらしい、梅雨が明け夜でも熱く酒が回るのが早い気がする。
大岡川の川縁に腰掛け空を仰ぐ。
いろいろあった、この半年ぐらいでいろいろあった。俺は小説家になるらしい。ライトノベル作家だ。半年前この川縁を歩いていた時そんなことが想像できただろうか? ガキもできた、まだ顔も見ていないが、俺は父親になるらしい。
人生ローリングストーンだわー。
一寸先はマジで読めないわー。
でも俺の人生捨てたもんじゃないかも。
タバコに火をつける。吐き出す煙が湿気を含んだ大気に溶け込んでいく。
転がり続ける石には苔がつかない。
転がり続ける俺には苔がつかない。
転がれ俺、立ち止まるな俺、アンビシャス俺。
血反吐はいても、アイワナビ! アイワナビ! って叫び続けろ俺。
うぬぼれろ俺、ピノキオみたく鼻を伸ばせ俺、気にいらない奴にはキスマイアス! キスマイアス! って叫び続けろ俺。
喰らいつくせ俺、くだらない奴には唾を吐きかけろ俺、分からない奴には力ずくで分からせろ俺。
倒れる時は前のめりだ俺。
支えてくれる奴がいるんだから
手を差し伸べてくれる奴がいるんだから
差しのべられた手には水掻きがついてるけど。
「帰りますか」
 立ち上がり、ケツをはたく。
タバコの吸い殻を指で弾く。
今日は河童の横で寝よう、そうしよう。

―――第一部―― 完





※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

※怒涛の展開!
狂気の第二部は10月18日よりスタート予定!
ご期待ください!

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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第13話―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんな

6月某々日
「どなたか! 車内にお医者様はおられませんか!」
深夜、高速バス、名古屋行き。
「腹が……腹が裂けるわ…………」
だから言ったのだ、臨月に本場味噌煮込みうどんを食べたいなど無茶だと。
「俺は一応医者だが」
チュッパチャップを咥えた男が近づいてくる。
「なんだ産気づいたのか」
「腹が……腹が……」
「どれ見せてみろ……河童!」
男が仰け反る。
「先生! 河童を助けてください!」
「しかし河童って!」
「いいからなんとかしろこの野郎!」
首根っこを掴み河童の股ぐらの前にしゃがませる。
「ふ、しかたない俺の新しい伝説がここで生まれるらしい」
男はジャケットのポケットから赤いルージュを取り出し唇にあてる。
「化粧などしてる場合か!」
ルージュを手の甲で弾き飛ばす。
「あーこれには意味がー」
オタオタ転がるルージュを追いかける男。
「う~ま~れ~る~」
河童の腹が凹み、胸が出っ張る。胸が凹み、喉が出っ張る。喉が凹み、口が大きく開かれ、緑と青と黄緑で彩られた直径30センチ程の球体がゴトリと高速バスの床に落ちた。
「…………河童…………これは?」
「べーべーべーべーん、ん、ん? 愛の結晶ではないか人間」

思ってもみなかったわ――

―――我が子誕生




※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第12話―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんな

6月某日
「イラストレータ全然決まんないわ!」
 T氏が我が家のちゃぶ台を叩く。外は雨、梅雨はまだ明けず。
 俺はトンカツを揚げる。カツで勝つ、必勝祈願、なんの? 芥川賞、今回こそ頑張れシリン・ネザマフィ!
「作品見せると誰も描きたがらないわ! 当たり前だこんな駄作! 誰がイラスト描きたいか!」
T氏は俺の書いた直し原稿を投げ捨て大の字に寝転がる。原稿の束がT氏の頭の左上に落ちる。こっちから見ると大の字ではなく犬の字だ。
「この人に描いて貰えば良かろう」
河童は『このライトノベルがすごい!2010』の表紙を指さす。表紙には女の子が文庫本を顎先にあてたイラスト。
「バカか河童! このイラストを描いたヤスダスズヒト先生は超売れっ子でこんな駄作にイラスト描いてくれないわ!」
「ほぅ、超売れっ子か」
「そうだ超売れっ子だ!」
「ならばこの人がイラストを描けば売れるわけか?」
「こんな駄作でも間違って買ってくれる人がいるかもしれん」
「それでは決まりだな」
河童が立ち上がり、雨がっぱを着る。
「2時間後ヤスダスズヒトに電話しろ、必ずOKが出るはずだ」
河童は雨と暗闇に紛れ部屋を出て行く。
「Tさんトンカツ揚がったけど食べてきます?」
「大間、俺、なんかすんごい悪い事してんのかな?」
「良い悪いの基準は自分の中にあります。自分の心に素直にTさん、今あなたがしなければいけない事は何ですか?」
「この本を売る事だ」
「ならばそのためにする事は全て良い事ではないでしょうか。判断はTさんの心が決めます。世間ではありません。Tさん貴方は澄んだ瞳をしています」
「そ、そうか? そうだよな! 自分の心に素直に! それが正解のはずだ!」
T氏はトンカツが溺れるほどウスターソースをかけ、かぶりついた。
自分の心に正直に、良い悪いの判断は自分の中、人はこれを詭弁と呼ぶ。

―――イラスト、ヤスダスズヒト氏に決定




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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第11話―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんな

6月某々日
河童は意外と雨が苦手。
「なっはははははっ鼠が! 鼠が逃げ回っておるわ!」
外は雨。河童は朝から『トムとジェリー』デラックスDVDを見て大笑いしている。何分あんだこのDVD、我が家のテレビは朝からずっと『トムとジェリー』だ。
ジリリリリ。呼び鈴が鳴る。立ち上がり玄関を開ける。
「河童、お前栗山様に何をした」
雨でズブ濡れになったT氏が玄関前に立っている。
河童は視線をテレビから外(はず)さず答える。
「何もしておらんよ。まぁしいて言えば挨拶程度」
「栗山様がいきなり電話で大間の作品に栗山千明賞を付けたいと言い出した。何をした河童! 栗山様は泣いていたぞ!」
 T氏は土足のまま部屋の中に入り河童の胸ぐらをつかむ。河童素知らぬ顔。
「何をした!」
「まぁしいて言えばトムジェリ遊びよ。俺がトムで栗山千明がジェリー、俺はこの猫のようにしくじりはしないけどな」
河童はT氏の目を見ていやらしく笑う。
「Tお前このままでいいのか?」
「な、何の事だ」
「自分が担当した作家が大賞を取れず、売り上げもパッとしなかったらお前どうする?」
「そ、それは……」
「社内の立場も悪くなるのではないのか?」
「お、お前には関係ない事だ」
「大丈夫、俺に任しておけ。お前を一番にしてやる」
「な、何を……」
「大間に乗っかれT、この馬はお前をさらなる高みに連れて行ってくれる勝ち馬だぞ」
「…………………………」
T氏は河童の胸ぐらを放し、俺の前に正座する。三つ指をつき、頭を深々下げる。
「大間先生。栗山千明賞、受賞おめでとうございます」

河童の目が真っ赤に光る。

―――「このラノ大賞」銀賞から栗山千明賞へ変更




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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第10話―  大間九郎

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6月某日
目の前には河童、そしてT氏。河童は小さな靴下をカギ針で編んでいる。
「そんなわけで銀賞です」
河童がカギ針をT氏の手の甲に突き立てる。
「に~~~~~~~~!!!!!!」
「おいT、この代償どうしてくれるんだ? 俺はお前に大賞にしろと命じたはずだぞ? どうする? 24時間耐久河童相撲でもするか? それとも差額の400万お前が払うか?」
「!!!!バカか! 俺に受賞作を決める権限などあるはず無かろう! 銀賞でもありがたいと思え! こんな本に100万なんてドブに捨てるのと一緒だわ!」
「T~物は考えようだ。お前の目が節穴でこの作品は金を産む卵かも知れんぞ?」
「選考委員の先生方がお決めになられたのだ! その方々の目は節穴ではないわ!」
「誰が酷評していた?」
「そんなこと言えるはず無かろう!」
「T~~~~」
カギ針を深くまで突き立てグリグリする河童。涙を流しながらも口を割らないT氏。暴力には屈しない、これが宝島魂なのか!? よく分からんけど。
「まぁ良い、次の一手は考えている」
河童が今までに見せた事のないほど悪い顔で笑う。空いている手で『このライトノベルがすごい!2010』の表紙をめくる。
「コイツも審査員であったよのぅ」
「バカ! 今この人に何かあったら俺の編集人生終わるわ!」
「ほぅ、つまり一(いち)蓮(れん)托(たく)生(しょう)」
「どこがじゃ!」
河童が指さした先には女性の写真、「特別選考委員・栗山千明(女優)」
「この人にお話を伺うとしよう」
河童の目が真っ赤に光る。

―――「このラノ大賞」銀賞受賞




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作者への質問大募集!

第1回『このライトノベルがすごい!』大賞受賞作品が9月10日に刊行されました!
刊行から3週間が経過したというころで、各作者への質問を大募集します!

大賞 『ランジーン×コード』 大泉貴
金賞 『僕たちは監視されている』 里田和登
栗山千明賞 『ファンダ・メンダ・マウス』 大間九郎
特別賞 『伝説兄妹!』 おかもと(仮)
優秀賞 『暴走少女と妄想少年』 木野裕喜

langenekanshiMausu







bousoudensetsu






気になるあのキャラクターのことや、創作のきっかけなど、
あなたの、聞きたいあの質問を作者に聞いてみませんか?

このエントリーの下部コメント欄に自由に質問を書き込んでください。
質問内容は作者全員でも個別の作者への質問でもOKです。
※個別作者への質問の場合はコメントに誰への質問かを明記してください。
締め切りは10月中旬頃を予定。
質問及び回答は後日このブログで公開予定。

皆様からの質問待ってます!

※ いただいたコメントの中から質問事項を編集部で選択させていただき作者に届けます。
質問は、後日、著者からの回答とともに掲載いたします。

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君の止まり木はたぶん俺で俺の止まり木は必ず君―第9話―  大間九郎

そんなこんなそんなこんなそんなこんなそんなこんなそんな

5月某日
宝島社、でっかいビルだわー。何? ここ全部? ワンフロアとかじゃなくて? 警備員がいる! ずっと見てる! 走って逃げようかな? 土下座すれば許してくれっかな?
「人間。早く入れ」
「バカか、警備員がお前の事めっさ見てるわ。なんでついてきた河童」
「人間。ここからが勝負だ、お前ひとりでは心もとない」
「まぁ確かに俺ひとりでは心細い」
「入るぞ」
「お、おう」
「警備員。俺はここに用がある、このラノ編集部のTを呼べ」
「アポイントは?」
「いいから連絡しろ、大間が来たと伝えれば分かる」
「…………」
警備員が電話で誰かと話している。
「中へどうぞ」
「うむ」

◆ ◆ ◆

「河童!」
「ほう、俺の事を覚えているのかT」
「覚えているわ! 毎晩俺の枕もとで四股踏みやがって! 『大間だ~大間を通せ~』って毎晩! 毎晩!」
T氏は泣いている。よほど怖かったのだろう。
「大間を通しただろう! まだ何か俺に用か!」
「今日は大間の付き添いだ」
「畜生! やっぱりグルか!」
 いや、それはそうだろう。なに? 今まで気付かなかったの? 
河童を睨むT氏、不敵に笑う河童。
河童はペコリと頭を下げる。
「この度は三次通過させていただき、誠にありがとうございます。これからも末長く大間にご指導、御鞭撻ください。宜しくお願いします」
 河童! 
「あら? 何? いやいやいや頭上げてください。この河童、良い河童? なんか俺感動して涙出そう」
 いやいやいやいやT氏、アンタ、それは。

―――「このラノ大賞」三次通過・宝島社訪問




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