このライトノベルがすごい!文庫 スペシャルブログ

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2012年01月

ランジーン×ビザール テイクトゥ④

ランジーン002

◆4----------------------------------------------◆

 身元確認のため姉の死体を見たレディオは涙も出なかった。そこにあったのは姉とは似つかわしくもない肉の固まりで、この固まりを姉と思うことはレディオにはできなかった。
 上肢は肩関節、肘関節、手関節を強い牽引力で割断され、割断された器官は絞り込むような捻じれの力によって捻転されている。
 下肢は股関節、膝関節、足関節を強い剪断力によって解離させられ、解離した器官は上下からの圧力により粉砕している。
 体幹には直径二ミリほどの穴が数百と空いている。出血の痕からまだ生きている間に太い長さ十五センチほどのニードルで体幹を数百回と突き刺されたことが分かっている。
 そして右手の人差し指、ミライザが唯一体の外に内部情報を発露できる器官が毟り取られている。
 レディオは姉がどのように殺されたのかを検死官から説明された。数十回と顔面部を殴られ、逃げたり、抵抗する意思をそがれレイプされる(精液は検出されていない)。レイプされたまま、体に何百回とニードルを刺される(死亡原因はこの時ニードルが肝臓門脈に刺さり、出血多量によるショック死)。まだ生きているうちに数十ヶ所を噛まれ、引き千切られる(引き千切られた肉片は発見されておらず、犯人が食べてしまったものと考えられる)。死亡した後犯人は上肢を関節ごとに引き千切って捻じり、下肢を関節ごとに引き千切って潰す。
 なんだこれは? レディオは説明を受けながら、姉におきた恐怖を少しずつ受け入れ始めていた。姉の死体を見た時はあまりに直接的過ぎて理解できなかったが、言葉として整理されて、情報として入力された真実はあまりに残虐で悲劇ではなく完全にホラーだった。
 警察署の廊下の長椅子に腰掛けレディオは床を見つめていた。まるで何も考えられない、この先のこと、この先何をすればいいのか、まるで何も考えられない。
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僕と姉妹と幽霊の聖夜③

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 安田さんの軽い口によって、藍子とクロが言い知れぬ関係だと噂が流れてしまった。もう学校に行きたくないとか思ってる間に、冬休みに突入した。休みの間に、変な噂も消えているだろうと楽観的に考えるしかない。とにかく今は白い目から解放されて、ほっと一息だった。
 その日、クロが唐突に緑池の存在を思い出したのは、今日が緑池のこだわっていたクリスマスイブだったからだ。
 あの事件以来、腹が立っていたのもあり、緑池に会いに行ってなかった。
 昼下がり、クロは上着を着込んで部屋を出た。階段を下りて、玄関へとたどりつく。
 気は重いが、様子は気になる。
 聖夜にこだわっていた彼が、ずっと一人でその日を過ごすのはやはり寂しいだろうと思う。
 玄関の上がり口に座って、もそもそとスニーカーを履く。その手つきはやはり緩慢になってしまう。とことん付き合うと決めたが、自分が行ったところで、結局彼の願いは叶えてやれない。
「お兄ちゃんどこ行くの?」
 背後から声をかけられて、クロはびくりと背筋を伸ばした。
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僕と姉妹と幽霊の聖夜②

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 翌日の学校が終わった後、クロはカバンを持って、再び『呪いの泉』へと足を運んでいた。
 並ぶ木々はすっかり葉を落とし、乾いた土の上には枯葉が一面に敷き詰められている。クロは無言でざくざく枯葉を踏み分けて、目的の場所へと向かう。
 昨日と変わらずに陰気な雰囲気をかもしだす、池の淵に立った。
 空気が冷たくて、頬が凍りつきそうだった。巻いていたマフラーに顔半分を埋め、半眼に池を見下ろす。
「いるんだろ、緑池」
 クロが言うと、幽霊の緑池が、池の中ほどからむくりと姿を現した。
 緑池はどんよりと黒雲を背負ったような表情で、昨日最初に見かけた時より、更に陰鬱な雰囲気だ。
「……藍子さんは?」
 生気のない瞳が、それでもきょろきょろと周囲を探る。クロは深く白い息を吐き出した。
「俺だけだよ」
「じゃあいいや。さよなら」
「オイオイちょっと待てって。成仏の手伝いするって言っただろ?」
 背中を向けて池の中へと戻って行こうとする幽霊の男子を、クロは慌てて呼び止める。そうすると、恨みがましい視線だけが振り向いてきた。
「藍子さんがいなきゃ、成仏できない。藍子さんを連れてきてくれよ」
 クロは頭をおさえ、再びため息をついてしまう。
 昨日あっさり藍子に振られた緑池は、どうやらまだ藍子に固執している様子だ。しかし昨日あれだけキッパリと拒絶の意志を示した藍子を、この場に連れてくるのは難しいだろう。
「藍子さんは、来ない」
 だから事実をそのまま伝えるしかない。
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僕と姉妹と幽霊の聖夜①

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 どこにでもある『学校の七不思議』。それは星霊学園にも存在している。
 その一つに、『呪いの泉』と呼ばれるものがある。
 広大な面積を誇る学園敷地内の、ひとっこ一人も寄り付かないような外れ、欝蒼と茂る雑木林に深く立ち入って行くと、その泉はある。泉というより、濁った池だか水溜りという呼称がふさわしい。
 噂はよく耳にしていたが、実際目にしたのは始めてだった。
 整備されている様子もない。緑色の水藻がユラユラと日陰の池前面を覆っているので、魚一匹の姿も見えない。
 このうっすら不気味で寂れた場所が、『呪いの泉』などと不穏な呼び方をされている所以はというと……

「す、好きなの……っ! 結城君!」

 七不思議について巡らせていた思考、要するに現実逃避を遮られ、『呪いの泉』を背にして立つ結城クロは、力なく顔を上げた。
 クロの目の前で頬を染め、潤んだ瞳で見上げてくるのは、この場所に似つかわしくない華やかな雰囲気の女生徒だ。
 クロとしては返す言葉も見つからず、つつつー、と目を泳がせるしかなかった。
「ほらぁ、もうすぐクリスマスでしょぉ? 彼氏作っとかなきゃ寂しいしぃ、結城君最近競争率低いから狙い目かなぁってぇ」
 期末テストも無事に終わり、冬休みを目前に控えた今日この頃。
 空気が凍えるように冷たい中でも、目の前に立つ彼女の頬は熱く火照り、くねくねと身をよじらせている様は全く寒さを感じさせない。
 自然にがくりと、肩が落ちる。
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特別短編『僕と姉妹と幽霊の聖夜』公開!

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『僕と彼女と幽霊の秘密』の発売を記念して、
喜多南先生による特別短編
スペシャルブログで公開します!

クリスマスの星霊学園を舞台にした、コミカルなショートストーリー。

現実とはちょっと時期がズレてしまいましたが、
第1作『僕と姉妹と幽霊の約束』と、第2作『僕と彼女と幽霊の秘密』の
間のお話となります。

今回クロたちはどんな幽霊と出会い、どんな騒動が巻き起こるのか?
ちなみに第2作を読んでなくても大丈夫ですよー。


それでは、さっそくこちらからどうぞ!

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僕と彼女と幽霊の秘密 (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫 き 2-2)僕と彼女と幽霊の秘密
著者:喜多 南
販売元:宝島社
(2012-01-13)




僕と姉妹と幽霊の約束 (このライトノベルがすごい!文庫)
僕と姉妹と幽霊の約束
著者:喜多 南
販売元:宝島社
(2011-09-10)




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ランジーン×ビザール テイクトゥ③

ランジーン002

◆3----------------------------------------------◆

 サイレント・タン。ミライザ・エステルの変わり果てた姿がそこにあった。

 サイレント・タン、言葉を必要としない『ランジーン』。
 彼らは情報をアウトプットする時、言葉を使わない。空気を振動させない。すべて右手人差し指で何かをなぞることによってのみアウトプットされる。二十四時間、睡眠中も人差し指は動き続け、三センチ角の平面に、彼らでしか理解できない言語サインで、永遠にアウトプットされる情報はいまだ解明できず、彼らの中でしか理解されない。
 ファミリーの中でしか彼らの出す情報は解読できず、ほかの『ランジーン』、まして人間とは意思の疎通をとることができない。
 レディオは姉の発する情報を、感情の発露を全く理解することができなくなっていた。
 医師との面談、レディオの感情は爆発した。
「サイレント・タン? 『ランジーン』? ふざけるな! 姉さんはもう成人しているのだぞ! 成人してからここまで完璧な『ランジーン』になることが可能なはずはないだろうが!」
「そう言われますがこれが現実なのですよレディオさん」
 医師はMRIと脳CTの画像をデスクの上のモニターに表示しながら冷静に言い放つ。
「お姉さまの脳はこの画像から見ても完全に『ランジーン』です。つまりは感染と発症、このタイムラグだと私は考えています。お姉さまはもうずいぶん前から『ランジーン』、サイレント・タンだったのでしょう。サイレント・タンでありながら、人間として暮らしてきたのでしょう。
 このような事例を見ることは私も初めてなのですが、感染症にはよくあることですよ。つまりはキャリア、お姉さまは『ランジーン』キャリアだったのです」
「ふざけるな!」
 レディオは怒りに任せ医師のデスクに拳を叩きつけるが医師は無表情で電子カルテを立ち上げる。『ランジーン』申請書。医師は一枚の紙をプリントアウトしレディオの前に差し出す。
「これが申請書です、診断結果を書き込んでおきましたので二十日以内に行政機関に提出してください」
 レディオは申請書を医師の手から奪い引き裂いて投げ捨てる。
「ふざけるな!」
 医師はため息をつき、今までかけていたメガネをはずす。椅子に深々と座り直し足を組み左手で拳を作り顎に当てる。立ち上がり憤るレディオを下から見上げ、蔑むように言葉を放つ。
「ではどうするのですか? あなたは何を望んでいるのですか? お姉さまは『ランジーン』だ、これは紛れもない事実なんですよ? これは私のせいですか? それとも誰かほかの人間のせいですか? 違うでしょう? 現実を見てください。あなたがいくら憤っても現実は変わらないのですよ? あなたのお姉さまミライザ・エステルは『ランジーン』になった。これは事実です。抗いようもない事実なんです」
 レディオは泣きながら膝から崩れ落ちた。
 レディオは姉の治療を懇願したが受け入れられなかった。
 治療以外『ランジーン』から人に戻る方法はない。
 しかしミライザはこの治療を受けることができない。アメリカ合衆国では治療は法律で禁止されている。「『ランジーン』には『ランジーン』である権利があり、これは何人たりとも拒むことはできない」これは「『ランジーン』保護とその人権の保障についての法律」の最初に書かれている一文で、これにより『ランジーン』は『ランジーン』であることを拒めなくなった、家族でも、親子でも、恋人同士でも、自分自身でも。
 ミライザは海外でも治療を受けることができない。ミライザは感情の発露をファミリー内でしか行うことができない。ミライザの右手人差し指から発せられる情報をサイレント・タンしか理解できないからだ。海外で治療を行うには本人の意志確認が必ず必要で、ミライザの意思確認はサイレント・タンしかできず、サイレント・タンはサイレント・タンとしか情報交換できないため誰もミライザが治療を受けたいのかどうか確認する術がないのだ。だからミライザは治療が受けられない。
 ミライザを『ランジーン』から人間に戻す方法はないのだ。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ②

ランジーン002

◆2----------------------------------------------◆
 
 ミライザ・エステルはよく働く女だった。朝はコーヒーショップでウェイトレスをし、夜は0時まで車の製造工場でプレス機械の前に立っていた。
 ミライザがよく働くことには訳がある。
 ミライザには両親がいない、生活保護と奨学金でハイスクールは卒業できたがお金がかかる大学進学は諦め働くことを選んだ。両親がいない理由はたいしておもしろい話ではないのでここに記することはない、それより重要なこと、彼女がなぜよく働くのか? その答えは彼女の一人だけの家族、八歳離れた弟レディオ・エステルが天才児であることに由来する。
 レディオは天才児だった。八歳の時に小学校の過程を全て終了し、十二歳のときには大学入学を果たせるだけの単位を全て取得していた。大学では情報処理技術と言語解析を専攻し、いくつかの論文は科学系雑誌でも取り上げられ、デトロイトの低所得者層から出た天然物の天才と一部では持て囃されたりもした。
 ミライザはレディオが大好きだった。いつもパソコンの前でキーボードを打っている横顔が知的に見えて大好きだった。生意気な口ぶりで食事の最中に情報の拡散と収束について熱弁する口元が可愛くて大好きだった。頭のいい弟がいて誇りだったし、レディオを扶養していることに心から優越感を抱いていたし、なによりレディオが毎日、自分のベッドに潜り込んで胸に顔を埋め、スヤスヤ寝息を立てるその瞬間が大好きだった。スヤスヤ寝息を立てるレディオの生を感じると、こんなに可愛らしい生き物がこの世にいていいのかと、自分の手元にいていいのかと、こんな幸運の中にいていいのかと、幸せを感じすぎて恐怖するほどだった。
 だからミライザはよく働いた。朝から深夜まで、少しでもレディオにいい暮らしをさせたいと、彼の才能が、輝かしい未来が、その強い自尊心が、貧困によって奪われることがあってはいけないと、彼女はレディオのため朝も夜も毎日毎日レディオのために働いた。
 ミライザ・エステル、彼女はよく働く女だった。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ①

ランジーン002

ランジーン×コード・インスパイテットストーリー
ランジーン×ビザール
テイクトゥ


ランジーン・デッド・ラン


◆1----------------------------------------------◆

「それじゃ今日もはじまったぜオーディエンス! 月一回のお楽しみ! 荒れ狂う暴力と興奮とアドレナリンと異能バトルの一夜がやって来たぜ!
全てのシーンがクライマックス! 
瞬き禁止のハイスパットバトルエンターテイメント! 

『ランジーン・デッド・ラン』!!!!!!!!!!!!

この放送はTKJ全てのキー局を通じて全米中に生放送だぜ!
始まったら全てがクライマックス! CMあけたらTVから目を放すなよ!」

選手控室でテレビ映像を垂れ流しながら、それでもレディオスタは集中していた。
背中一面に貼られた三センチ角の圧力伝達フィルムから来る三十六個の圧力情報を全て理解し、その全てを総合し結論を出す。レディオスタはその作業に集中していた。
『ランジーン・デッド・ラン』
『ランジーン』の中でも規格外の身体能力や特殊能力を持つファミリーから選抜された猛者たちが、最上の『ランジーン』を目指し競い合う全米最大のショウ。その今年一番の注目レース『キング・オブ・デッド・ラン』、毎月行われる予選でポイント上位四名により競われる年間チャンピオンを決めるレース。レディオスタは『キング・オブ・デッド・ラン』の選手控室で背中からくる情報を理解し総合し結論を出す作業に集中していた。
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ランジーン×ビザール プロローグ

ランジーン002

◆プロローグ----------------------------------------------◆
 アマンダ・テールノーズは声を聴いた。朝起きて顔を洗い、歯を磨いて鏡を見た瞬間の出来事だった。
 聞いた声の内容は口では言い表すことができない、しかしアマンダ・テールノーズはその声の内容を理解した。ああそうなのかと思った。私は選ばれたんだなと思った。
 私は改変のため選ばれ、死ぬのだなと。
 そして声が止んだ時アマンダ・テールノーズは精神的に消失していてそこには改変のために作られた言葉の獣『ラビット』だけが存在した。
 改変のために作られた言葉の獣『ラビット』。
 彼女はほかの『ランジーン』とは全く違う。
 彼女は『イゲンシ』を増やし種を拡張するための存在ではない。
 彼女は自己以外の『ラビット』を望まない。
 彼女の脳に、DNAに『イゲンシ』に記憶されている使命は一つだけ、

『…………の国を作りなさい』

 そう、彼女は特殊な存在、改変の獣、種の生存戦略を放棄したそれこそ生命体である存在意義を放棄した存在。
 それだけに意義ある存在。
 アメリカ合衆国『ランジーン』社会を作った最初の『ランジーン』は、厳密に分類すれば種を拡大させる生物の根幹を失っている時点で『ランジーン』ではなかった。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ公開! 

ランジーン002

ランジーン×コード・インスパイテットストーリー
『ランジーン×ビザール
 テイクトゥ』

を本日より、スペシャルブログにて公開!

1月2月の連続刊行でいよいよクライマックを迎える『ランジーン×コード』を
『ファンダ・メンダ・マウス』の大間九郎氏が強力バックアップ!

『ランジーン×コード』のDNAを受け継いだ大間氏によるランジーン。
先月公開された『ランジーン×ビザール テイクワン』に続く、新章の幕開けです!

“ランジーン・デット・ラン”
能力の極限を突き詰めた、
ランジーンたちの死のレースが今始まる!


本日より5日間連続連載!

↓↓第一話へはこちらのバナーから↓↓
ランジーン001_B

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ファンダ・メンダ・マウス (このライトノベルがすごい!文庫)ファンダ・メンダ・マウス
著者:大間 九郎
販売元:宝島社
(2010-09-10)





ファンダ・メンダ・マウス2 (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫)ファンダ・メンダ・マウス2
著者:大間 九郎
販売元:宝島社
(2011-03-10)

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