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2012年09月

エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【Bonus Track】

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BONUS TRACK『鉄腕アトム』

 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように高田馬場駅のホームへと続く階段を昇ろうとした。
「ゲント! ちょっと待ってください!」
 追いすがる声に、弦人は後ろを振り返った。見ると、エヴァ・ワグナーが人混みを掻き分けながら、こちらに駆け出している。
 追いついたエヴァは息を切らしながら、弦人にしかめっ面を向けた。
「もう、ひどいじゃないですか! わたしたちを置いてけぼりにするなんて! 一人でどんどん進まないでください!」
「お前らの歩くのが遅いんだろ。『先に行くぞ』って断ったはずだが」
「先に行くなんてダメです! これから練習場所に向かうのですから、メンバー全員で足並みを揃えないと! こういうところから団結力が問われるんですよ!」
「団結力ねぇ……」
 弦人はちらりと後方に目を向けた。自分とエヴァから離れたところに、うるさく騒いでいる団体が見える。
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【10】

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第10話『Don't say "lazy"』

 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある軽音楽部の元部室の扉を開けた。
「……あれ?」
 いつもは騒がしい部屋は無人でほかのメンバーの姿もない。机の上には置き手紙と共に部屋の鍵が放りだされていた。
『ちょっとわすれ物してきました! すぐもどります! Eva』
「一番乗りはアイツか……」
弦人は鞄と一緒に持ってきていたギターケースを床に下ろす。適当に椅子に座りながら、なにげなく部屋のなかを見回した。
 今日はこれからメンバー合同で演奏練習を行うことになっている。とある事情によりこの部屋での演奏は禁止されているので、いったんこの部屋に集合してから練習場所へ向かうのが、このバンドの日課になっていた。
 わざわざこの部屋に集まる理由もないと思うのだが、バンドのボーカル曰く、まずはここでメンバーの顔合わせをしないと気が落ち着かないらしい。
 宙を見つめていた弦人だが、不意に胃が痙攣し、空腹を訴え始める。今日は弁当を忘れ、購買でも目当てのパンを買えなかったため、ろくに食事を摂っていなかった。
 練習場所へ向かう前に、コンビニでおにぎりでも買っておくか。そう考えながら、いまの空腹を紛らせるために弦人は鞄からMP3プレイヤーを取り出した。
 アニソン初心者である弦人のために、バンドのボーカルが貸してくれたプレイヤー。無理やり押し付けられた代物なのに、最近はこのプレイヤーの曲ばかり聴いている気がする。
 弦人はしばらくプレイヤーを眺めてから、おもむろに部屋に放置されていたスピーカーに接続する。
 そしてプレイヤーの再生ボタンを押そうとするが、寸前で伸ばした指を止めた。
 弦人の耳は些細な音にも敏感に反応する。だから、部屋に向かっている足音についてもすぐに察することができた。
 バタバタと階段を駆け上る足音、いつも浮足立ちながらアニソンを求めてかけずり回っているバカの息づかい。
 どうせ再生するなら、あのアニソンバカの到着を待ったほうが良い。
 大きくなった足音は扉の前で止まる。そしてガラッと音を立てて扉が開かれた。続きを読む

エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【9】

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第9話『INVOKE』

ある日の放課後のことだ。

入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開けた。
すると鼻の奥をツンと刺激するような匂いに襲われる。
「京子先パイ……そこはテープでマスキングしないとだめだと思います……」
「え? ここって青一色でいいんじゃないの?」
「いえ……画像を見ると、白のパーツもありますね……」
「ほんとに? もう、メンドーねぇ」
 見ると、九条京子と宮坂琴音が机の上に新聞紙を広げ、なにかの作業に勤しんでいる。
鼻を突いた刺激臭はどうやら塗料が原因らしい。弦人は床に打ち捨てられていた箱を拾い上げた。
『宇宙戦士フリーダムガンボーイ――総員出撃! 奴らは群れでやってくる!』
 やたらレトロなデザインのタイトルロゴにキャッチコピー、そしてアニメには無知な弦人にも伝わってくる“コレジャナイ”感にただただ唇を引き攣らせる。
「……なに、これ」
「エヴァが持ってきたパチモンのプラモ。ドイツにある日本の玩具専門店で売ってたんだって」
京子がパーツから目を逸らさないまま答えた。琴音が隣で頷く。
「さっきまでエヴァ先パイも一緒にやっていたのですが……面談があるとかで途中で職員室に行っちゃって……」
「面談?」
「交換留学生として、ってやつ。留学センターの職員の人と交えて学校生活の報告だってさ」
「なるほどな」
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【8】

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第8話『マジLOVE1000%』

 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開けた。
「そういえばドイツって、AKB48とかジャニーズみたいなアイドルっているの?」
「うーん、どうなるでしょうねぇ。ドイツにもアイドル的な人気のある歌手はいますけど、日本のアイドルとはちょっと違う気がしますので……。というか日本に来て、アイドルの多さにびっくりしましたね。ケータイのゲームを通じてアイドルに寄付できるとか、本当に日本のポップカルチャーは先の時代を行ってます!」
「先パイ、それ寄付じゃないです……。課金という名の、恐ろしいトラップです……」
 エヴァ・ワグナー、九条京子、宮坂琴音。アニソンバンドの三人娘が席に座って姦しくおしゃべりをしている。
 どうやら今日はアイドル談義で盛り上がっているらしい。アニソンに詳しくない弦人は、アイドル文化にも疎い。このバンドで自分が入っていける話題なんてほとんどないのでは? と最近思い始めている。弦人が入ってきたことにも気づかず、三人は話を続ける。
「でもでも、日本のアイドルは本当にみんなカワイイですよ! わたし、日本に来てからももクロにハマりましたし!」
「ももクロ良いよね! アタシは母親の影響で韓流も好きだけど。最近だと、CNBLUEとかがおススメ! 今度、聴いてみてよ!」
「琴音は……最近だとアフィリア・サーガ・イースト推しですね……」
「なるほど、これはまだまだ名前が出てきそうですね。ここにゲントとタカヒロがいたら、また違う趣向のアイドルが出てきそうな気がしますが……」
「ここにいるぞ」
「お、ゲント!」
 顔をあげたエヴァが嬉しそうに弦人に尋ねる。続きを読む

エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【7】

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第7話『only my railgun』

ある日の昼休みのことだ。

入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開けた。
「もうちょっと! もうちょっとだけでいいから! ワンチャンください!」
「まだ続けんの? もうめんどうくさいんだけど……」
「ここから! ここからが本番なの! ぼくの戦いはこれからなんだよ!」
「そんな連載漫画の打ち切り回みたいなこと言われても」
 小松孝弘が九条京子にしつこく食い下がっている。どうやらなにかを必死に頼み込んでいるらしい。十中八九、面倒な事態とみて間違いなさそうだ。
 そっと弦人は開いた扉を閉めようとする。が、閉まる直前、扉の端を足で押さえられる。
「入谷ぁ、なーに逃げようとしてんのかしらぁ?」
「え? おっ! ゲンちゃん! ちょうどいいとこに来てくれた!」
 弦人は渋々、部屋のなかへと戻る。孝弘は顔を輝かせながら、弦人のもとに近づいてきた。
「いやーじつはさぁ、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど!」
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【6】

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第6話『太陽曰く燃えよカオス』

ある日の放課後のことだ。
   
 入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開けた。
瞬間、むわっと埃の舞った空気が弦人の身体を包みこんだ。
「ケホケホッ! ……なんだ?」
 部屋のなかはいつもとすっかり有様が変わっていた。
 机や床の隅にはガラクタが山積みになり、戸棚もあちこち動かされている。そんな混沌とした状況のなか、マスクをつけた三人組が掃除用具を持ってせわしなく動いている。
「あ、琴音。その戸棚のなかもよく拭いておいて。アタシはこっちの裏側見てみるから」
「は、はい……わかりました……」
「よろしくねー。……で、エヴァ。アンタはおんなじ場所をいつまで拭き続けてるの?」 
「……徹底的に掃除しなくては……徹底的に掃除しなくては……徹底的に掃除しなくては……徹底的に掃除しなくては……」
「……ダメだ、こりゃ」
 九条京子はハタキを持って戸棚の上を拭き、宮坂琴音は雑巾でガラスをこすっている。そしてエヴァはなぜか目を血走らせながら床の一点を拭き続けていた。
「おー、入谷。ちょうど良いとこに来た」
 弦人に気づいた京子が声をかける。
「……今日、大掃除の予定なんかあったか?」
「うーん、ちょっとね。精神保安上の理由で」
「なんだそれ? ただの大掃除だろ?」
 わけがわからないでいると、突然エヴァが動きを止めた。
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【5】

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第5話『ムーンライト伝説』

 ある日の昼休みのことだ。

入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開け――ようとして、ドアノブを握る手を止めた。
部屋のなかからのんきな鼻歌が聴こえてくる。
不審に思った弦人はしゃがみこみ、扉の隙間からなかを覗き込んだ。
すると部屋のなかで一人の少女が、机に置いた鏡に向かって懸命に髪を結わえていた。
実った麦の穂のように豊かな黄金色の髪を束ねて、頭のてっぺんに奇妙な団子を二つこしらえようとしている。
しかしなかなか納得いく形にならないのか、何度も首を傾げて髪を解いて結い直す。
相手の仕草に合わせて、弦人もおなじように首を傾げた。
――なにやってんだ、エヴァの奴。
ドイツから来た留学生、エヴァ・ワグナーの珍奇な行動に弦人は戸惑いを隠せない。
なんとなく部屋に入りづらい空気を感じ取り、弦人はそのまま事の成り行きを見守ることにする。
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【4】

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第4話『おジャ魔女カーニバル!!』

 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人は、いつものように五階にある軽音楽部の元部室へと向かい、扉を開けた。
「おー、ゲンちゃん。やっほー」
明らかに染めたとわかる茶髪頭に浅黒い肌をした男子生徒が一人、ベースをチューニングしている。その手首にはミサンガが巻かれている。
小松孝弘、弦人が所属するアニソンバンドのベース担当である。ちなみに孝弘が手にとっているベースは漆黒のスティングレイだ。
「珍しいな、お前が一人でこの部屋にいるなんて」
「軽音楽部の部室掃除をやるとか言い出してさー、もーメンドーだから逃げてきちった。せっかくのこのスティングレイに埃を被せたくないじゃん?」
「いや、ケースにしまっとけばいいだろ」
「ははは、これだから素人は。名器の価値ってのがわかってないなー!」
「傷だらけの中古だろうが」
「おい、中古をバカにするな。ぼくがこいつを手に入れるのにどれだけ苦労したと思ってんだよ」
「手に入れた苦労より練習の苦労を語れ。大事なのは楽器じゃなくて音だろ」
「うわぁ、出たよ。相変わらずの天才キャラ発言。楽器に愛がなくちゃ、音は奏でられないでしょうが!」
「愛よりも技術だと思うがな」
「ちっちっち、わかってねーなー、ゲンちゃんは」
「……なにが?」
 半分投げやりに弦人は返事をする。

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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【3】

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第3話『irony』

 ある日の昼休みのことだ。

 入谷弦人は、五階にある軽音楽部の元部室の扉を開けた。
「あ……入谷先パイ……こんにちは……」
 カチューシャをつけたショートヘアの女子生徒がぺこりと頭を下げる。たれた目と小柄な身体は、どこか子犬を連想させる。制服のリボンタイは一年生を示す緑色。さっきまで耳に着けていたのか、首にはヘッドフォンがかけられている。
 宮坂琴音、弦人が所属するアニソンバンドのキーボード担当である。なにかの作業中だったのか、机の上でノートパソコンを開いていた。
「宮坂、一人だけか?」
「た、たぶん……。琴音が、鍵で入ってきたので……」
「そうか」
 弦人はそれだけ言って机の上に鞄を置く。琴音も気遣わしげに弦人を見るが、やがてパソコンに向き直り、キーボードを叩き始めた。弦人も特に話しかけたりはせず、椅子に座る。
 静かな時間が部屋にゆっくり流れていく。
 お互いにそれぞれのテリトリーには踏み込まない。ほかの騒がしいメンバーとは違い、琴音はあまり積極的に向かってくるような人間ではない。なので、弦人にとっては心地よい距離感を保てる相手でもあった。
 こういう時間もたまにはいい。
 騒がしい奴もおらず、アニソンから離れてこうしてゆっくり過ごすのも……
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!【2】

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第2話『COLORS』

 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人は、五階にある軽音楽部の元部室の扉を開けた。
「あり? 入谷が来た」
 素っ頓狂な声を出したのは、部屋に一人でいたセミロングの女子生徒だ。
勝ち気そうな瞳と、口元から覗いた可愛らしい八重歯が特徴的な彼女の名前は九条京子、弦人が所属しているアニソンバンドのドラム担当である。
「珍しいわね、アンタが用もないのにここへ来るなんて」
「そうか? わりと来ているほうだと思うが。もともとここに入り浸っていたのは俺だし」
「ははは、それもそうね。にしてもいま考えてみれば贅沢な話よね、この部屋を一人で占有するなんて」
「大人しく明け渡してやっただろ、文句を言われる筋合いはない」
「なんでアンタはいつも無駄に偉そうなの……。あ、ちょっと待って」
 京子は鳴りだした自分の携帯電話を取り出し、着信に応じる。
「ハイハーイ、沙希? うん、いま部室。どしたの? え? あー、貸してた数学の教科書ね。いいよー、明日でも。……課題がわからないから教えてくれ? アンタねー……。わかった、いまそっちに行くから。うん、うん。それじゃ」
 電話を切ると、京子は鞄を持って立ち上がる。
「つーわけだから、ちょっと出てくるわね」
「そうか。お前も大変だな……」
「まー、このポジション、アタシはけっこー気に入ってるからね。んじゃ、また」
 京子は不敵に笑って見せてから、扉を閉めて出て行った。続きを読む
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