第1話『残酷な天使のテーゼ』
ある日の昼休みのことだ。
入谷弦人はいつものように五階にある軽音楽部の元部室の扉を開けた。
「おお! グーテン・ターク(こんにちは)、ゲント! 今日は早いですね!」
部屋にいた少女が流暢な日本語で挨拶してくる。
黄金色の髪に、瑠璃色の瞳。そして陶磁のように滑らかで白い肌。どこからどう見ても西欧人である彼女の名前はエヴァ・ワグナーという。
アニソンバンドを組むためにわざわざ日本へ留学してきた生粋のアニソンバカであり、弦人をアニソンバンドへと引きずり込んだ元凶でもある。どうやらいまの時間、エヴァ以外のメンバーは来ていないらしい。
「ゲント、ちょうど良いところに来てくれました!」
きらきらと目を輝かせるエヴァを見て、弦人は嫌な予感を覚えた。
この留学生の“ちょうど良い”が、弦人にとって“ちょうど良かった”試しがない。
「ゲントのために作ってきたものがあるんです! 受け取ってもらえませんか?」
「俺の、ために?」
「ヤー(はい)。……頑張って、作ってきたんですよ?」
そう答えるエヴァは上目遣いをしながら恥ずかしそうに顔を俯けた。弦人はエヴァを見やりながら、ぶっきらぼうに返事した。
「……別に、いやだとは言わないが」
「本当ですか!? じつはこういうのなんですけど!」
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