《3》
引退してからどれくらい経ったのか。陽真理は「魔法少女育成計画」によって、自分が「@娘々」だったことを思い出した。
肌の質感、肌理細やかさ、筋肉と骨の柔軟さ、チャイナドレスを基調としたコスチューム、座る時は尻尾を寝かせてからにしないといけないことまで失われた記憶の向こう側から甦ってきた。まだなにか忘れているような気もしたが、とりあえず今は置いておく。
記憶を失っていた理由は知っている。引退していたからだ。魔法少女を辞めたいと魔法の国に申し出、意外に呆気なく受理された。魔法に関するあらゆる記憶を消され、「@娘々」ではない、ただの棚橋陽真理として生きてきた。
志望校にも合格した。友達もいる。親と不仲というわけでもない。それなりに順調に人生が進んでいるのではないだろうかと思う。
それでもどこか物足りなさを感じる時があった。ふとした時に寂しさを覚え、胸の内にぽっかりと空洞が空いているようで、その正体が掴めない。
「こういうことだった、と」
魔法少女としての自分を失い、胸の内の欠落を感じていた。
引退した自分が「魔法少女専用」のゲームに参加させられていることに疑問を覚えたが、そういえば「魔法の国」はそんな無茶を押し通すようなところがあった。