このライトノベルがすごい!文庫 スペシャルブログ

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2013年01月

特別短編『娘々@N市』③

特別短編タイトル8

《3》

 引退してからどれくらい経ったのか。陽真理は「魔法少女育成計画」によって、自分が「@娘々」だったことを思い出した。
 肌の質感、肌理細やかさ、筋肉と骨の柔軟さ、チャイナドレスを基調としたコスチューム、座る時は尻尾を寝かせてからにしないといけないことまで失われた記憶の向こう側から甦ってきた。まだなにか忘れているような気もしたが、とりあえず今は置いておく。
 記憶を失っていた理由は知っている。引退していたからだ。魔法少女を辞めたいと魔法の国に申し出、意外に呆気なく受理された。魔法に関するあらゆる記憶を消され、「@娘々」ではない、ただの棚橋陽真理として生きてきた。
 志望校にも合格した。友達もいる。親と不仲というわけでもない。それなりに順調に人生が進んでいるのではないだろうかと思う。
 それでもどこか物足りなさを感じる時があった。ふとした時に寂しさを覚え、胸の内にぽっかりと空洞が空いているようで、その正体が掴めない。
「こういうことだった、と」
 魔法少女としての自分を失い、胸の内の欠落を感じていた。
 引退した自分が「魔法少女専用」のゲームに参加させられていることに疑問を覚えたが、そういえば「魔法の国」はそんな無茶を押し通すようなところがあった。
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特別短編『娘々@N市』②

特別短編タイトル8

《2》

 四年前に行われた大合併により、近辺最大規模となった港湾都市、N市。最大規模といっても地方でのことなので、東京近郊から特急でやってきた陽真理は「ああ、田舎だなあ」という印象を受けた。
 H市で納入を済ませ、鈍行に揺られてN市へ向かう。電車に乗っていると修学旅行を思い出し、修学旅行を思い出すと嫌でも美千代と昌子を思い出す。修学旅行では九州に行った。夜にホテルから抜け出し、水着に着替えて海で泳いだ。もう冬だったのに、ガタガタ震えながら海に浮かんで見上げた夜空の美しさは今でも忘れられない。
 ほどなくしてN市に到着する。魔法の端末に送信された地図を確認し、陽真理は高波山へと向かった。

「ようこそようこそ、よく来てくれたぽん」
 高波山の山頂近く、建設途中で打ち捨てられたと思しきリゾートホテル、現廃墟のロビーにぽつんと魔法の端末が置いてあり、そこから立体映像が浮かび上がっていた。右が黒、左が白に分かれた球体に蝶のような羽が生えている。陽真理は首を捻った。
「どこかでお会いしたことありましたよね?」
「いや? 初めて会ったと思うぽん」
 会ったことはない、という。なのに、どこかで見たような気がしてならなかった。
「ファヴは量産型だから。同じタイプのマスコットキャラクターと会ったことがあるんじゃないぽん?」
「ああ……そうかもしれません」
 マスコットキャラクター「ファヴ」は、新しい魔法の端末は可愛らしさも機能も以前の比ではないと得意げに話した。無表情ながらとても楽しそうで、まるで我が事のようだ。
「それじゃ各魔法少女の拠点教えるから。配布よろしくお願いするぽん」
「えっ?」
「マスターがいればマスターにやってもらうけど生憎留守ぽん。ファヴは物を持つとかできないし、親切な魔法少女ならやってくれるぽん? どうせ交通費は『魔法の国』から支給されるぽん?」
「はあ」
「それと魔法少女達には試験について教えちゃダメぽん。試験があるってことを知らないと抜き打ち試験にはならないぽん。やっぱり試験やるなら抜き打ちでないと」
「はあ」
 仕事が、増えた。 
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特別短編『娘々@N市』①

特別短編タイトル8

《1》

「すっげえ! 魔法少女だって! マジすげえ!」
「名前決めんだってさ、名前。どうすんよ?」
「はーいはーい! 一番、棚橋陽真理(たはなし・ひまり)! 目を瞑って選択した文字を魔法少女名に入れまーす!」
「陽真理ぱねえ!」
「よっしゃ、やれやれ! 糞とか蝿とかそういうの出しちゃっていいのよ!」
「それじゃルーレットスターット! でででででで……ぽちっとな!」
「なに出た? なに出た?」
「ええと……@(アットマーク)?」
「ぶははははははは! やってくれた! この娘さんはやってくれましたよ!」
「陽真理さっすがー!」
「じゃあ次みっちーね」
「えっ……あたしは昌子にパスで」
「おっと昌子そのパスを華麗にスルー」
「きったね! きったね! なんで私だけにやらせてんですかおい!」
「だってさー、陽真理ってそういうキャラじゃん?」
「そうそう、あたしらは陽真理のキャラを確立させるためにだね」
「アイヤー! そんなのないアルよ!」
「ないのかあるのかはっきりしなさい、はっきり」
「あははははは、マジだ、はっきりしないわ、あっはははははははは……」
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特別短編『娘々@N市』公開!

特別短編タイトル8

『魔法少女育成計画restart』ご好評感謝企画特別短編、
いよいよラストの第4弾です!

今回の物語の主人公は「@娘々
第一作『魔法少女育成計画』の物語が始まる、少し前のお話です。


魔法少女として活躍していた@娘々の姿と
彼女が出会った人々についての物語をお楽しみください!

特別短編第4弾、『娘々@N市』はこちらからどうぞ!

なお、特別短編第1弾『マジカルデイジー第二十二話』はこちらから!
特別短編第2弾『チェルナー・クリスマス』はこちらからどうぞ!
特別短編第3弾『ワンダードリーム』はこちらからどうぞ!

以前の『魔法少女育成計画』特別短編は、以下からお楽しみください!
第1弾『ねむりんの冒険』
第2弾『ロボットと修道女』 
第3弾『天使をプロデュース』
第4弾『ゾンビウェスタン』

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魔法少女育成計画 restart(後) (このライトノベルがすごい!文庫)魔法少女育成計画 restart(後)
著者:遠藤 浅蜊
販売元:宝島社
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特別短編『ワンダードリーム』③

特別短編タイトル7

《3》

 設定を練り、ヒーローっぽい挙措を体得し、戦闘訓練、さらに魔法の精度を上昇させるために様々な物体に魔法をかけた。
 夢の中の体験は、目が覚めてしまえばもう忘れている。だが全く身についていないわけではない。身体が、そして心の奥底が覚えている。
 魔法少女がどういう活動をするのか、なんとなく理解できるようになっていた。酔っ払いの世話、ゴミの片付け、さらに落書きを消したりする。
 分別されていない空き缶をゴミ箱から取り出し、掌の上に置き、重化と軽化を精妙なバランスでコントロール、瞬き一つする間にスチール缶を押し潰し、直径二センチメートルほどの球体に丸めた。習い覚えた記憶のない技術に首を捻り、燃えないゴミのコーナーに放り入れた。
 唯一不満足な点としては、戦うべき敵の不在があげられる。物語の主人公達が邁進していた「宿敵との対決」が、現実世界には存在しなかった。
 一度だけ、本当にたった一度だけ、チャンスがあった。塾帰りと思しき中学生が、ガラの悪そうな若者数人に囲まれていたのだ。泣き出しそうな顔でつつかれていた中学生には見覚えがあった。クラスの男子だ。
 マスクド・ワンダーは、まず電柱の上にまで登り、そこから飛び降りることで颯爽とした登場を演出した。間を与えず、コンマ数秒、人数分のパンチで顎を打って気絶させ、唖然とする男子を置いてそそくさと立ち去った。追い剥ぎか通り魔のようだが、心中ではガッツポーズを決めている。なるだけ目立たないように、というのが魔法少女の建て前だが、襲われている人を助ける時までそんなことを気にしてはいられない。
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特別短編『ワンダードリーム』②

特別短編タイトル7

《2》

 好は、とても「夢の中っぽい」空間にいた。真っ白な雲が絨毯のように敷き詰められ、それが果てしなく続いている。地平線でもなく水平線でもない、雲平線とでもいうのだろうか。前後左右どちらを見ても雲だけが占めていた。
 夢らしい夢だなぁ、と夢を自覚し、ふと足元を見るとテレビとDVDプレイヤー、それとラックの中に積み上げられたDVDが置いてあった。
 なにもしていないのに、それどころかコンセントの所在さえ定かではないのに、テレビとプレイヤーに電源が入り、ラックからすうっと持ち上がったDVDのケースがぱかりと開き、中身がプレイヤーにセットされた。テレビの前の雲が持ち上がり、ソファーのような形を作った。座れ、ということだろうか。
 好は雲のソファーに腰掛け、DVDの再生が始まった。
 魔法少女のことばかり考えて眠ったので、てっきり夢でも魔法少女のDVDを観るのだろうと思っていたが、違っていた。DVDは昔の特撮ヒーロー物だった。好の父親が生まれる前に放映していたくらいに古い。
 悪の組織に捕らえられた青年が、改造、強化され、さらに洗脳されようとしたが、あわやというところで逃れる。改造された身体を武器に、青年は組織に立ち向かっていく。
 好はDVDを観続けた。再生が終わると新しいDVDに入れ替えられ、最終話が終わり、スタッフロールが流れ、好は自分が涙を流していたことに気がつき、目が覚めた。
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特別短編『ワンダードリーム』①

特別短編タイトル7

《1》

 一人の少女を中心に、扇の形で散開していた黒服の男達が一斉にマシンガンを抜き放った。
「貴様もこれで終わりだ! せいぜい念仏を唱えるんだな!」
「申し訳ないけど神も仏も信じていないわ」
「だったらそのまま死ぬんだな……やれっ」
 リーダー格の合図に従い、部下の黒服達がマシンガンを乱射する。木箱を破壊し、コンクリ壁を穿ち、窓ガラスを割り、跳弾が十メートル四方の部屋を飛び交い、その内一発がリーダー格の太股を貫き、悲鳴があがり、鮮血が迸った。
「撃ち方やめえっ! ストップ! ストップ!」
 太股を押さえて転がっているリーダー格の指示に従い、男達は引き金にかけていた指を緩めた。硝煙が徐々に晴れ、輪郭さえはっきりしていなかった人の影が露になっていく。
「神も仏も信じちゃいない。だけど私は私の正義を信じている。私が……マスクド・ワンダーが正義を貫く限り、銃弾程度で死ぬことはない」
 転がる薬莢の中、マントを翻し、何者にも屈することなく一人の女性が立っていた。その身体には傷一つついていない。
「ち、ちくしょう! 化け物女め!」
「観念しなさい! 抵抗すれば痛い目見るわよ!」
 その言葉を発してからナイフを抜いた男達を叩きのめすまでに要した時間は二秒半。秒殺だ。部屋の中央に倒れた男達をまとめ、ふぅとため息を吐いたところでパチパチと拍手の音が聞こえた。窓の外に女の子がいて、一生懸命に拍手をしている。
「いいね! 素晴らしい! かなりスーパーヒーローっぽかったよ!」
「ありがとうございます」
 女の子は満足げに何度も頷いた。好も……マスクド・ワンダーも頷いた。
 訓練が始まってからすでに一ヶ月。訓練前の自分から見るとまるで別人のようになった。
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特別短編『ワンダードリーム』公開!

特別短編タイトル7

年をまたいですっかり遅くなってしまいましたが、
今年もよろしくお願いいたします!


というわけで『魔法少女育成計画restart』
ご好評感謝企画特別短編の第3弾です!

今回の物語の主人公は「マスクド・ワンダー
『restart』の物語が始まる前のお話です。


マスクド・ワンダーの秘められた努力と
彼女を陰ながら支えた存在についての物語をお楽しみください!

特別短編第3弾、『ワンダードリーム』はこちらからどうぞ!

なお、特別短編第1弾『マジカルデイジー第二十二話』はこちらから!
特別短編第2弾『チェルナー・クリスマス』はこちらからどうぞ!

以前の『魔法少女育成計画』特別短編は、以下からお楽しみください!
第1弾『ねむりんの冒険』
第2弾『ロボットと修道女』 
第3弾『天使をプロデュース』
第4弾『ゾンビウェスタン』

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魔法少女育成計画 restart(後) (このライトノベルがすごい!文庫)魔法少女育成計画 restart(後)
著者:遠藤 浅蜊
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魔法少女育成計画 restart (前) (このライトノベルがすごい! 文庫)魔法少女育成計画restart(前) 
著者:遠藤 浅蜊
販売元:宝島社
(2012-11-09)




魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)魔法少女育成計画 
著者:遠藤 浅蜊
販売元:宝島社
(2012-06-08)

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モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(妄想)の女の子

motenaki
ノンストップ・ハイテンション修羅場ラブコメ!
3連発!!
「モテ泣き」シリーズ初の短編集
<日常修羅場編>登場!


世界の危機より目先の女難! 女と見ればオートで口説くゲス男・砕月の、ビョーキ炸裂な<日常修羅場編>登場だ! どんどん増える女の子たちと加速する修羅場、そして悪化(?)するビョーキ。砕月のライフはラストまで持つのか!? 「僕だって、苦しいんだよ!」「「黙れゲス!!」」。なんだかんだでモテモテな砕月君には今回、ノンストップで修羅場っていいただきます!!  公式サイト掲載「エピソード0」も同時収録!
「ゲツ君の日常って、見てて飽きないね☆(タマ)」



『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(妄想)』
著:谷 春慶/イラスト:奈月ここ


moteso_soukan_c
ちなみに主人公・望月砕月(種族人種を問わず女と見れば口説きまくるビョーキ持ち)を取り巻く状況はこんな感じ→(相関図参照)。女キャラ多すぎ!とかつっこみが怖いので、ここで「モテ泣き」をぞんぶんに楽しむための、「モテそう」登場の女性キャラクターを攻略データ付きで一挙紹介!!
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