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2013年06月

エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【8】

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Disc2 第8話『DT捨テル』



 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある部屋の扉を開けた。
 部屋のなかでは、ベーシストの小松孝弘がヘッドフォンを装着している。縦揺れで曲に乗っており、弦人が入ってきたことにまったく気づいていない。
 とりあえず弦人は孝弘の背中を蹴り飛ばした。
「うお、ゲンちゃん! なにすんだよ、いきなりー!」
「なに聴いてんだ、小松」
「え、謝罪も言い訳もなし? そのままスルーの方向?」
「俺を無視する奴が悪い」
「うわー、まさかの俺様理論ー」
 孝弘は口先で騒ぎながら、自分が聴いていたMP3プレイヤーを弦人に渡す。
 弦人は表示されている歌手と曲の名前を見て、眉をひそめた。
「ゴールデンボンバー……?」
「知らない? いま流行りのヴィジュアル系エアーバンドだよ」
「エアーバンド? なんだそれ?」
「エアーギターってあるでしょ。ギターを持っている振りをして、演奏するパフォーマンスをするってヤツ。それをバンド全体でやるってこと」
「えーと……」
 弦人は理解するのにしばらく時間が必要だった。
「つまり実際には演奏してないってことか?」
「そういうこと。っていうかゲンちゃん、ほんとに知らないの? 去年の紅白にも出てたじゃん」
「あー……そういえば名前は聞いたことがあったが……」
「まー、まー。とにかく聴いてみなって、良い曲いっぱいあるんだから。あ、これとかおすすめかな」
 弦人が片耳にヘッドフォンを当てているそばで、孝弘はMP3プレイヤーを操作する。
 派手に打ち鳴らされるドラム。聴く者を煽るようなコーラス、重厚感に満ちたヘヴィメタルを思わせるギターのサウンド。
 エアーバンドと言うからどんなものかと思ったが、曲自体はきちんと演奏している。なんだ、結構マトモな曲じゃな――。
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【7】

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Disc2 第7話『遥か彼方』



 ある日の昼休みのことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある部屋の扉を開けた。
「やっぱり日本はきちんと授業に導入するべきなんですよ! ケンドーやジュードーとおなじくらい、大事な日本の伝統芸能じゃないのですか!」
「だからエヴァ……アンタが言ってんのはファンタジーだから……」
 部屋のなかではエヴァと京子が弁当を食べながら、討論をしている。
 すると弦人に気づいたエヴァが、すがるような目でこちらを見た。
「ゲントはどうですか! やっぱり授業の科目に取り入れるべきですよね!?」
「なんの話だ?」
 エヴァは興奮気味に言った。
「ニンジャの話です!!」
 あー。
 弦人はなんとも言えない気持ちになりながら、京子と視線を交わす。京子は「あとは任せた」と言わんばかりに肩を竦めながら、机の上に置いていた少年ジャンプを手に取る。
 フジヤマ、ゲイシャ、ニンジャ。
 外国人が古くから日本に抱く、三大イメージ。
 弦人の両親には外国人の友人がたくさんいるのだが、多かれ少なかれ、彼らはみな似たような幻想を日本に抱いている。
 エヴァはアニソン好きであることを除けば、その種の偏見は持っていなさそうに見えたのだが、やはり憧れはあったらしい。
「ケンドー、ジュードーがあるのですから、ニンドーだって取り入れるべきです! 『タエガタキヲタエ、シノビガタキヲシノブ』がニンジャのモットーのはずです!」
「忍道なんて科目はないし、その言葉は忍者とまったく関係ない。第一、いまの時代に忍者は存在しない」
「そんなことないです。きっと彼らはいまも現代日本のなかで隠れ潜んでいるのです! まったく、ゲントはニンジャというものがわかってないですね!」
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【6】

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Disc2 第6話『タッチ』



 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある軽音楽部の部屋の扉を開けた。
 冷たい風が部屋のなかから入り込んでくる。見ると、エヴァが窓を全開にしながら、窓枠に顔をもたれかけていた。
 寒いから閉めろ、と声をかけようとした弦人は外から聴こえてくる演奏に気づく。
 力強い金管楽器のハーモニー。腹の底に響くような低音。ポップなのにどこか哀愁を帯びた耳に残るメロディー。おそらく吹奏楽部が練習しているのだろう。
 演奏に合わせて、エヴァは気持ちよさそうに鼻歌を口ずさんでいる。
 さすがの弦人もエヴァがなにに反応しているのかはわかった。
「この曲、『タッチ』だよな?」
 エヴァが意外そうに振り返る。そしてにっこりと笑った。
「やっぱり有名なんですね、この曲」
「まぁな。甲子園の試合でもよく演奏されてるし」
「たしか応援歌の定番なんですよね。うんうん、アニソンが国技の応援歌に使われるなんて、さすがは"アニソンの神様"のいる国です!」
「野球は国技じゃないぞ」
「え、ちがうんですか?」
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【5】

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Disc2 第5話『オリオンをなぞる』



 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある部屋の扉を開けた。
「怪人コマーツめ! 人質を離すです!」
「ぐははは、仮面ワグナー! 貴様の命運もここまでだー!」
「え、ええと、う、うわー、エヴァ先……仮面ワグナー、タスケテー………あの、小松先パイ、ちょっとくっつき過ぎです……」
「そんなこと言われても……監督が決めたことだし……」
「いいわよー、琴音も小松もそのまま、そのまま。琴音の嫌そうな表情と小松のいやらしい顔のおかげで、いい感じよー」
「キョーちゃん、それはイジメではないですか!」
「もう許せません! この仮面ワグナーが成敗してくれます! さぁ、イッツショータイムですよ!」
 颯爽と決めポーズをとる金髪のドイツ人少女。
 鼻眼鏡をかけて対峙する茶髪の男子生徒と、人質設定らしいショートヘアの少女。
 メガホンを掴みながら、偉そうに椅子に踏ん反り返っている女子生徒。
 コホンと弦人は小さく咳払いした。
「すいません、部屋間違えました」
「ちょっと、ゲント! なんで帰ろうとしてるんですか!」
 ドアを閉める前に、仮面ワグナーことエヴァ・ワグナーが足をかける。弦人は仕方なく、部屋のなかへと入った。
「……いつからここはヒーローショー同好会の部室になったんだ?」
「違います! これはわたしたちのPVです!」
「PV?」
「ネットで宣伝する用の動画よ」
 代わりに監督をしていた九条京子が説明を引き継ぐ。
「演奏シーンだけ繋いだのをアップしても味気ないし。やっぱりここは遊び心とか必要じゃない? せっかくエヴァみたいなキャラの立った子もいるんだからさ。そうして議論に議論を重ねて出た結果が……」
「昼休みに、十秒で決まったよね。キョーちゃんの思いつきで」
「う、うっさいわね! いいのよ! こういうのは勢いが大事なんだから!」
「練習の予定もなかったし……面白そうだからやってみようって話になりまして……」
「だからって……」
 なぜヒーロー?
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【4】

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Disc2 第4話『君が好きだと叫びたい』



 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある軽音楽部の部屋の扉を開けた。
「いきますよー、タカヒロ! えいっ!」
 ポン、パシュッ。
「エヴァちゃーん、もっと回転かけたほうがいいよー。そのほうがボールの勢いもつくから」
 ポン、パシュッ。
「むむ、なかなか難しいですね……」
「大事なのは手首のスナップだよ、スナップ。こう指先でボールに触れる感覚で……」
「なにやってんだお前ら?」
「あ、ゲント!」
 部屋のなかでは、エヴァがバスケットボールを抱えたまま、こちらに手を振りかけている。ベース担当の小松孝弘が口を開いた。
「見ての通りパス練だよ、ゲンちゃん。今度の体育の授業、バスケだからさ」
「ここで練習するな。機材に当たったら、どうするんだ……」
「大丈夫です! そんなへまはしません! すこしプレッシャーをかけたほうが上達だって早いです!」
「そんなプレッシャーはいらん」
 弦人はエヴァからバスケットボールをひったくる。「ゲント、取らないでくださいよっ」とエヴァは抗議するが、無視する。
 しばらくむくれていたエヴァだが、「そういえば……」と急になにか思い至ったように口を開く。
「日本のバスケットボールクラブはすごく盛んなイメージがありますけど、プロリーグの試合ってあんまり見たことないですね」
「JBLとか、実業団のチームとかあるけどね。野球やサッカーと比べたら、全然かなぁ。姉ちゃんがバスケやってたから、ウィンターカップなら見たことあるけど」
「ウィンターカップ! 【黒子のバスケ】の舞台ですね!」
「うん。そういう漫画のタイトルがすぐに出てくるあたり、さすがエヴァちゃんだね」
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【3】

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Disc2 第3話『DAYBREAK'S BELL』



 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開けた。
「あ、入谷先パイ……」
 ちょうど部屋にいた宮坂琴音が顔をあげる。キーボード担当の後輩は困ったように眉をひそめていた。
 部屋のなかにはもう一人、エヴァが窓際に座っていた。いつものハイテンションは鳴りをひそめ、いまはなぜかぼーっと窓の外を眺めている。
「どうしたんだ、エヴァの奴」
「わかりません……琴音がここへ来たときには、エヴァ先パイあの状態で……」
 琴音が困惑するのも無理はない。いつもうるさい奴が静まり返っている光景というのはなかなか不気味な空気を漂わせるものだ。
 と、いきなりエヴァは外を眺めながら深々とため息をついた。
「どうしてこの世界からは争いがなくならないのでしょうか……」
 弦人と琴音は思わず顔を見合わせた。
「……いまのどういう意味ですか? 世界平和か、あるいは新手の宗教とかに目覚めたちゃったんですか……?」
「あいつはとっくに入信ずみだろうが、アニソン教に」
「いえ、そういう意味ではなく……」
「気にするな。どうせ大した話じゃないだろ。争いつったって、近所の猫が喧嘩したとかそんなレベルの……」
「ああっ!」
 エヴァはさらに嘆きを深めた。
「本当にわかりません……。二十一世紀になっても人はわかりあえないなんて、そんなの悲しすぎます……」
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【2】

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Disc2 第2話『メリッサ』



 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開けた。
「おー、グーテン・ターク。ゲント」
「おっすー、入谷」
 すでに部屋には、エヴァ・ワグナーと九条京子がテーブルについている。なぜか京子は紅茶入りのティーカップを手に持っていた。
「……いつからお茶飲み同好会になったんだ、ここは」
「こないだお店を回っていたら、ハーブティーを見つけまして! 試しに淹れてみたんです!」
「ふっふっふ。こないだ発掘したお湯のポットが早速役に立ったわ」
「ほんとになんでもあるんだな、この部屋」
「はい。ゲントもどーぞ。おいしいですよ!」
 にこりとエヴァが笑いかける。弦人はティーカップの取っ手を持ち、紅茶を口元へ運ぶ。
 レモンのような清涼感のある匂いが鼻をくすぐった。
「ふーん、レモンバームティーか」
「え、アンタ、紅茶の種類とかわかんの?」
「ああ、母さんがよく淹れてたからな」
「はー。このサッパリした味と香り、本当にクセになります!」
 エヴァは心から幸せそうな顔でお茶を飲む。
 どうでもいいが、エヴァだけはなぜか湯呑みだった。
 京子もまったりした顔でうんうんと頷く。
「このちょっとした甘味とレモンの香りがほどよく合って……ああ、これ良い……兄貴の入れる濃すぎる麦茶よりずっと良い……」
「麦茶って水にパックを入れるだけだよな?」
 それでもエヴァの淹れたお茶が美味しいことは、弦人も同意だった。
 なぜだろう。
 たかがお茶なのに……すごく、心が安らぐ……。
「よくドイツでも飲んでたんですよー。夏に飲むと爽やかな気持ちになれて良いんですよねー。高血圧、頭痛、ストレスなどの改善にも作用し、脳の活性化や若返りにも効果があると言われている、長寿のハーブなんです。まさに紅茶界の"賢者の石"です!」
「はー、これが賢者の石かー……そうねー……お茶一つでこんなに安らいだ気持ちが得られるのなら……等価交換なんてあってないようなもんよねー……」
「そうです……なにかを犠牲にしなくても……人はこうして賢者の石を手に入れられるのです……」
「なんの話してんの、お前ら」
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エヴァ・ワグナーのアニソン三昧!Disc2【1】

名称未設定-2



Disc2 第1話『Get Wild』


 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある軽音楽部の元部室の扉を開けた。
「おー、グーテン・ターク(こんにちは)、ゲント!」
 瑠璃色の瞳を輝かせ、エヴァ・ワグナーが元気よく挨拶してくる。なにか返事をしようとした弦人だが、視線はそのままエヴァが広げているものへと吸い寄せられた。
 東京近辺の路線図だ。
「なんでお前、路線図なんか広げてるんだ?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました、ゲント。これはわたしのトーキョー攻略記念地図です!」
「攻略地図?」
「ヤー(はい)!」
 エヴァはいつものテンションで返事をする。
「わたしがいままでに制覇した駅名にチェックをつけているのです! このペースなら日本にいるあいだに完全制覇できそうですよ!」
「またわけのわからないことを始めやがって……」
 地図を見ると、エヴァの言うとおり、駅名のあちこちに×印がつけられていた。
 渋谷、原宿、秋葉原、高田馬場、新大久保、巣鴨……。どうやら山手線沿いに攻めているらしい。
 全攻略するなら、地下鉄や中央線沿線、あるいは私鉄はどうなるのかという疑問が頭をよぎったが、所詮はエヴァ・ルールのもとに作成されている攻略図である。突っ込むだけヤボというものだろう。
 それでも一つ、弦人は気になる点があった。
「なんで新宿にはチェックを入れないんだ?」
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