《3》
卵焼きは置いておく。次に立てた作戦は傘だ。
雨の日に傘をさして登校したものの、その傘が帰りには無い、なんてことになっていたらどうだろうか。空はまだ雨模様で傘が無ければ困ってしまう、なのにどこかの誰かが持っていってしまったようで、弱っているところへクラスメイトがやってきて「どうしたの酒己さん。え? 傘を盗まれた? それは大変、私の傘に入って一緒に帰りましょう」とくれば、鉄のハートも溶けるというものではないか。
幸いにして季節は梅雨時だ。作戦の立案後二日で空はぐずつき始め、登校風景では色とりどりの傘が並び、鬱陶しい雨を嘆き合う生徒達の中で香織は一人ほくそ笑んでいた。
登校時間を達子に合わせ、さらに玄関前でだらだらと時間をかけて靴紐を結び直したり雨露を払ったりして時間を調整し、達子が来るのを確認してから教室に向かった。達子の傘、傘立てのどこにさしたかをしっかりと確認した。これで準備は万端だ。
授業中、気分が悪いと手を上げて心配されながら教室を後にし、誰にも見られていないことをしっかりと確かめた上でレイン・ポゥに変身、玄関に走って達子の傘を下駄箱の隙間に押しこみ、次は保健室前に走って変身を解除、その後は三十分間保健室のベッドで横になっていた。