ランジーンビザール

【2】
「うんにゃ、それは許されねえ」
 けっこう大きな声がしてビクッてなって目を覚ます。抱きかかえられている感覚、きっとファウストさんだと思う、臭うし、焦げた感じの最初に会った時から感じていた独特の臭いが臭うし。
「その娘ッコロはオウヴァ・ラヴァの腹ん中にいたガキんちょだろうが? 管轄はワシらにあるっぺ、わしらはオウヴァ・ラヴァ、スメル・リトルと協定を結んでこの自治区を管理してんだっぺ、そんな外のことは知らないっぺ、外の事情なんて知らないっぺ」
「ですがこの子はオウヴァ・ラヴァが管理していた子供ですよ? この自治区に市民権があります。この子の保護は自治区に責任があるはずだと思いますが?」
「準・市民権だっぺ、『ランジーン』の家族、パートナーなどが自治区内で生活するときに与えられる準・市民権だっぺ、市民権があるオウヴァ・ラヴァが死んだんならそのガキんちょの準・市民権も剥奪されるっぺ、自治区内にいる人間の処遇は自治区で決められる、それが自治区の特権だっぺ、そのガキんちょ煮るなり焼くなりわしらの勝手だっぺ」
「しかし、」
「保安官さんよう? 今回の暴動鎮圧には感謝してるっぺ、多くの仲間が死んだっけど生き残った仲間も多くいるっぺ、だからわしらはこの第四『ランジーン』自治区を立て直さなくちゃいけないっぺ」
「しかし、」
「確かにそのガキんちょはオウヴァ・ラヴァの孤児だっぺ、それは分かってるっぺ、でもそのガキんちょはオウヴァ・ラヴァじゃないっぺ、ただ腹の袋ん中に入ってただけの人間だっぺ、これだけ人間に仲間殺されて自治区内の反人間感情は今最高潮だっぺ、受け入れられないっぺ」
 私は薄目を開けて周囲を見る。知らない部屋の中、やっぱりファウストさんに抱っこされている。チラッと『だっぺ』さんを見る。マッチョで、でも身長は私くらいしかない髭を生やした人、あードワーフマンさんだ。そうかこの人が私が住んでいた自治区のトップなんだって思う。そして今までの話からすると私はこの自治区の中には残れないってことか、しょうがないか、私『ランジーン』じゃないし、私はママの子供だけど『ランジーン』じゃない、ママはオウヴァ・ラヴァって『ランジーン』でお腹に大きな袋があってその中で子供を育てるんだけど、私はママの子で袋の中で育ってたわけだけど袋があるわけじゃないし、袋をつけたいとも思わない。ここは『ランジーン』の土地だ、私はママの娘だからここにいられたわけだ、もうママが死んじゃって私はママの娘ってポジションを失ってこの土地じゃただの人間になっちゃったから、もういられないんだ。そうか、もういられないのか。
 でもどこへ行こう? こまったー。
「それではこの子に寛大な対応をお願いいたします」
 ファウストさんが私を床に置く。あーやっぱりファウストさんはこれから先の面倒までは見てくれないか、しかたがない、ここから先はなんとか一人で生きていきます、助けてくれただけでも感謝、感謝です。
 なんとなく意識を取り戻したことを隠してしまったから今さら目を開けてファウストさんの手を取って「ありがとうございます! 感謝! 感謝です!」ってこととかできないけど心の中では涙を流しながらハグしてチューしてます。ありがとうファウストさん、そしてさようなら。
 少し涙をこらえて寝転がっていたら『だっぺ』さんが私のお腹を思いっきり蹴とばしたのでゴロゴロゴロって感じでお腹を押さえながら床を転がり壁に激突した。
 ウベー、また吐いちゃった。
「汚いっぺ、連れていくっぺ!」
 私の体は二人の背の低いゴツゴツしたドワーフマンに両脇を抱えられズリズリ引きずられていく、今気がついたんだけど私、靴を履いてる。ファウストさんが履かせてくれたんだ、気絶していた私の足に靴を履かせてくれるなんてやっぱりファウストさん良い人、感謝、感謝です。
「痛いです、私は一人で歩けます」
 ピシャッと言ってやった。どうせここから追い出されるんだ、もうこのチビッ子たちの言いなりになる必要はない、今までだって言いなりになったことなんてなかったけど、今だってなる必要はない、だって私とこの人たちとはもう関係がないんだから。
 私は人間で、この人たちは『ランジーン』なんだから。
「放してください」
 私が自分の足で立って左右掴まれている手をふり払おうとすると思いっきりお腹を殴られる。
 ウベー、また吐いちゃった。なんで? なんで殴られるの? もう関係ないんでしょ?
「お前なに粋がってんだっぺ? お前は人間、今からこの第四『ランジーン』自治区に関係ない人間はみんな首吊りだっぺ!」
 え? なに言ってるの? そりゃ今は人間であなた達とは関係ないけど昨日まで私ここで暮らしてたんだよ? ママのお腹の中で暮らしてたんだよ? いわば お隣さんだよ? なんで首吊りされるの? 出てくから! 今すぐ出てくから! それでいいでしょ! なんで私殺されなくっちゃいけないの!
 思いっきり暴れてみたけどドワーフマンはすごい力で私を抑え込んでズリズリ外に連れ出して外の広場まで引きずって行って手を縄で縛って縄の先を杭で地面に打ち付けた。
「お前ら人間は一人一人首吊りにしてその後燃やしてやるっぺ、それが我々『ランジーン』を襲った罰だっぺ」
「私が襲ったわけじゃない!」
「お前は人間だっぺ、人間はみんな同じ、今我々は人間の死を望んでいるっぺ」
「私は人間だけどあなた達『ランジーン』と、ママと、一緒に今まで暮らしてきました!
 私はママと一緒に襲われました! 助けてもらわなかったら私も死んでた! 私はこの自治区を襲った人間の仲間じゃない! むしろ敵です! なんで殺されるんですか!」
「うるさいっぺ」
 顔を蹴り上げられる、痛いけど痛いより悔しい、なんで死ななきゃいけないんだろう? こんなのはおかしい、襲われて助かったら殺される、こんなのやっぱりおかしい! こんな所でこんなおかしいで殺されたくない! 悔しい! 悔しい! 悔しい!
 泣いていると『だっぺ』は肩をいからせてズンズン歩いてどこかに行った。悔しすぎて、声を出して泣くのも負けたみたいで悔しすぎてシャツの袖を噛んで声 が出ないように泣いた。悔しい、死にたくない、いつか死ぬにしても今この状態で死にたくない、だって間違ってるもん、私ここで殺されるようなことしてない もん、殺されるようなことをしたのなら諦めもつくけど、私なんにも悪くないもん、
 おかしい!
 殺されたくない!
 今死にたくない!
 私はシャツの袖を噛み声を殺して溢れ出る涙を反対のシャツの袖でぬぐいながら反対のシャツの袖でぬぐいながらすごく恨んだ、誰を? 決まってる『ランジーン』をだ。
 私は悔しいを通り越して恨んだ、そして怨んだらすごく視界がスッと開けた、恨んでそして死ぬのはなんか嫌だなって急に思えた。
 恨んで死ぬくらいなら、恨まずに死んでやる。
 アンタらなんかクズクズクズ、クズなんだからアンタらのせいで死ぬわけじゃないんだからって思って死んでやる。
 無視してやる。アンタらのことなんて無視してやる。
 私が死ぬのは生贄です。
 神がこの世界を壊すか、私をその傍らに置くか、それを人類に選ばせた結果です。
 人類は崩壊ではなく、私を生贄にすることを選んだ。
 それはしかたがないこと、私はシャーマンとしてその使命を全うします。
 
 おぉ主よ! 子羊たちを救いたまえ! 私はあなたの御許に行きます。
 
 おぉ主よ! 怒りを収めたまえ!   私はあなたと共にいます。

 おぉ主よ!
「うるさいんだけど!」
 え?
「さっきからすごくうるさいんだけど! 死を待つ時ぐらい静かにしてほしいんだけど!」
 振り向くとそこに小さな男の子が私と同じように手を縛られて地面に拘束されてた。まったく気がつかなかった、クルリと丸まって動かない物体を私は人間だ と認識できなかった、精神的に私もいっぱいいっぱいだしね、男の子もまったく動いてなかったし。この子私よりも小さいかな? 私が十二だからこの子は十歳 くらいかな?
「私声出してた?」
「バリバリ出てたよ、おお主よ! おお主よ!ってお祈りかと思って邪魔しないようにって思ったけどなんか違うでしょ? なんか空想っぽいでしょ? そんなの聞きたくないよ死ぬ前なんだからさ、静かに死ぬまでの時間を過ごさせてよ」
「うーごめんなさい」
「いいよ、でも静かにしてね」
「分かった」
 小さい男の子が目を瞑って膝を抱えてまた小さく丸くなる、眉間に皺を寄せてぽろぽろ涙を流してる。
「ねぇ」
「…………」
「ねえって」
「なに!?」
「ねえ、私ママのお腹の中にいたんだけどあなたも?」
「そうだよ、僕もママのお腹の中にいた、ママ死んじゃって、ドワーフマンの人がいきなり来て僕をママのお腹から引っ張り出してここに連れて来たんだ」
「そう、それじゃ一緒だ」
「……うん」
「私、アイーシヤ、あなた名前は?」
「今から死ぬのに僕の名前を知ってどうするの?」
「私ずっとママのお腹の中にいたから友達って一人もいないんだよね。今から死ぬでしょ私たち、だから死ぬ前にお友達一人でも作っておこうかと思って」
「死ぬのに友達なんかいらないよ」
「それじゃあなたは私のことを友達だって思わなくていいから、私はあなたのこと友達だって思うから、それは勝手でしょう? お願い名前を教えて」
「僕の名前?」
「あなたの名前以外知りたくないわ」
「……僕の名前はパチントンDC」
「パチントンDC? 変わったかわいい名前ね」
「僕はパチントンDCで生まれたんだ、だから僕の名前はパチントンDCなんだ」
「よろしくパチントンDC、死ぬまであと少しだけど楽しく過ごしましょう」
「楽しくなんて過ごせないよ、だって死ぬんだよ? 殺されるんだよ? あいつらワガママだよ、自分ばっかだよ」
「仕方ないじゃない、誰でも死ぬわ、私もさっきまで悔しくて、悔しくて仕方がなかったの、でも悔しがったり恨んだりってあいつらが存在するでしょ? 私死ぬのが決まっているならあいつらのことなんて少しも考えたくないの、だから死ぬこと自体も考えないことにしたの」
「だって、」
「だってはなしよパチントンDC、泣いて叫んで殺されるとあいつらのサディスティックな心を満たすだけよ、死ぬ前に言ってやればいいのよ、『おちびちゃん その背で私の首に縄が巻ける? ほら、ここを動かないでいてあげるから、早くお家からおちび専用の脚立を持っていらっしゃい』って」
 ふふふってパチントンDCが笑う、私もつられて笑う。二人で笑う、なんか友達って感じがした。
「アイーシヤ、君はいくつ?」
「私の歳?」
「うん、歳」
「十二よ」
「へー僕のほうがお兄さんだね」
「えっ! パチントンDCはいくつなの?」
「十五歳だよ、今年十六歳になる」
「だって! 私よりおちびちゃんじゃない!」
「傷つくなー」って言ってパチントンDCは鼻をかく。
「オウヴァ・ラヴァのお腹に入った子供は入った時の年齢が若ければ若いほど小さいんだよ、ほとんど袋から出ないし、君のママも歌をよく歌ってくれただろう?」
「うん、私ママの歌大好きだった」
「オウヴァ・ラヴァの歌声には成長ホルモンの分泌を抑制する作用があるんだ、周波数が特別なんだって、僕は赤ちゃんの時からママのお腹の中にいたから小ちゃいんだ、君は途中からなんだろう?」
「途中から? なんで? 私は生まれた時からママのお腹の中にいるわ」
「そんなはずはないし、そんなことありえないんだよ。オウヴァ・ラヴァの子供はみんな養子なんだ、僕のママはアフリカ系アメリカ人だったけど、僕の肌の色は?」
「白」
「そう僕は白人、アングロサクソンさ」
「それじゃパチントンDCのママは本当のママじゃないの?」
「僕のママだけじゃないよ、君のママだって本当のママじゃないんだよ」
「そんなの嘘よ!」
「嘘じゃないよ、僕のママが言ってた、オウヴァ・ラヴァのお腹の袋はお腹を裂いて、子宮を裂いて作るんだって、だからオウヴァ・ラヴァは子供が作れないん だ、それに男の人だっているんだよ、オウヴァ・ラヴァになった男の人は手術で性器をとってお腹に豚の子宮を移植して袋を作るんだって、だから君は君のママ の子供じゃないし、ママは女じゃないかもしれない。
 これは本当だよ。僕、通信教育で『ランジーン』学を専攻しているんだ、全部本当、悲しいけど僕はママの子供じゃないし、君も君のママの子供じゃないんだよ」
「嘘!」
「嘘じゃないんだよ」
「嘘!」
「僕が言ったことは嘘じゃないし、僕のことを本当に友達だと思うなら、君がそれを望むなら友達の言ったことは信じてほしいな……」
「……本当なの?」
「……うん、だって僕のママ男の人だったもの……」
「……キツイね……」
 ブワッて感じでパチントンDCが泣き出した、どうしたの? いや、どうしたのはないか、そりゃママが男だった、そりゃ泣くか。
「でも、ほら、いいじゃない? 男でもいいじゃない? いいなー守られてる感が違うよねー、すごい安心感だよねー」
 テヘッて感じでパチントンDC泣き笑い、少し可愛い顔をしてて少し困る。
「僕のママね、すごいマッチョだったの、体も大きかったし、すごーい大好きだった」
 マッチョだったんだ、ママなのに、でも大好きだったんだ。いいね、私はパチントンDCの頭を撫でてあげる。ママもパチントンDCのことが大好きだった よ、柔らかいパチントンDCの金髪に指を絡ませ、頭を撫でながら、ふと、考えてしまう。私はどうだろう? ママのこと大好きだったろうか? ママが死んで からママの死について考えてなかった、ママについて考えていなかった。
 ママは死んだ、頭を吹き飛ばされて死んだママの死体を見た時私は恐怖以外の感情をもたなかった。悲しいとは思わなかった、悲しいと思わなかったのか、そ れとも恐怖で思えなかったのか、それはどちらか分からないが、死に直面した私は死んだママをしっかり悲しいと思ってあげられなかった。
 あんなに優しくしてもらったのに、いつでも袋の上から私の頭を撫でて、私のために歌を歌ってくれたママが大好きだったのに。
 大好きだったのに、大好き、いや、いやいやいや、本当に大好きだったのか?
 今私は恐怖の中にはいない、あの時は私も殺されるって恐怖の中にいたから直下の恐怖で悲しみを表現できなかった感じられなかったことも分かるが今は違 う。確かに私は死ぬ、あとどれくらい後になるかは分からないが確実にあと少しの時間で私は首を吊られて死ぬ。そのことに恐怖がないわけじゃないが達観とい うかあきらめに似た感情が私の中にはある、だから今の死への恐怖はあの時、ママの頭が吹き飛ばされたときとは確実に違う、量と質が違う。なのに私は全くマ マの死を悲しんでいない、ママとの思い出を思いだし涙するような気分になれない、ママがいなくなったことに対して何かしらの感傷がない。なぜだろう? 私 は本当にママのことが大好きだったのだろうか? 
 ママのお腹の袋の中で私は何を考えていたのだろうか?
 まったく思い出せない。
「ねぇパチントンDC私たちいつ死ぬのかしら?」
「もうすぐだと思うよ、夜になるとよく見えない、昼のうちに殺そうって言ってたから」
「そう、もうすぐか、」
「そうだね、もうすぐ僕たちは死ぬ、下らない、本当に下らない、こんな理由で死ぬなんて僕本当に悔しいよ」
 ぽろぽろ涙をこぼすパチントンDC、私は柔らかい金髪を指で絡めておでこにキスをしてあげる。
「口減らしなら外に出せばいいのに、そんなに保証金がほしいのかね? 僕お金のために死ぬなんてやだよ」
 え? なにそれ? なにお金って?
「なにお金って?」
「あれ知らなかったの?」
「なになになに!! どういうこと!!」
「補償金が出るんだよ、一人『ランジーン』が死ぬたびにいくらって、僕たち準・市民だから大した額にはならないんだけどそれでもお金が出るんだ」
「私が死ぬ理由ってお金!?」
「そうだよ、僕たち二人が死ねばその分保証金が増えて、僕たち二人が減れば補償金をファミリーの人数で頭割りするから一人が貰える額が増える、それだけの ことだよ、僕たち以外にも孤児がいるはずだからもう殺されてるか、今から連れてこられて殺されるか、それは分からないけど、」
 パチントンDCはうつむく。
「人間はみんな殺される」
「反対する『ランジーン』はいないの!?」
「分からないよ、でも言えることは、僕たちは殺される、お金のために殺される、『ランジーン』じゃないから殺される、殺されるってことさ」
「そう、」
 パチントンDCはそれ以上何も喋らなくなってスンスン鼻をすすりながら丸まって泣いていた。私はもう一度自分の死が、神がこの世界を壊すか、私をその傍 らに置くか、それを人類に選ばせた結果だって思おうとしたけど、私は生贄だって思おうとしたけどそれは無理だった。私の命はお金と変えられて死ぬんだ。私 が死ねば何十ドルか、何百ドルか、何千ドルか、それは分からないけどお金が発生して、それがほしい人がいるから私は殺されるんだ。
 こんなのってないよって思う。
 私はまだ生きたいのにこんなのってないよって思う。
 辛くて悲しい。私もパチントンDCの横で丸くなってスンスン泣く。ギュッって自分の膝を抱きかかえると視界の中に靴が見えた、自分の履いているママの 靴、ジョギング用のスポーツタイプの靴、靴を見て私は靴を履くって体験を死ぬ前にできて良かったなって思う。一生靴も履いたことがないまま死ぬのと、靴を 履いたことがあるのとでは少し違うような気がした。ママが寝る前に読んでくれた本のお話を思い出す。
 真っ赤な魔法の靴、
 踵を三回鳴らすと魔法が使える魔法の靴、
 私の履いている靴の片方はママの血でべっとり赤くて、
 お話に出てきた靴は両方真っ赤でなんとなくだけど半分くらいは魔法が使える気がした。
 膝を抱えたまま、踵を三回鳴らす。トントントン、全く何も起きなかった。
 私には魔法も使えなかったし、ママの靴は魔法の靴じゃなかった。
 そして私は助かる術を失って死ぬまでスンスン泣いて過ごすには時間が多すぎて、結構飽きてきていた。
 つまんない、死ぬまでの時間がつまんない、どうせ死ぬことはつまらないことなのにそれを待つ時間までつまらないなんて拷問だ、この時間はきっと死ぬこと より辛い、殺すのなら今殺して欲しい、将来のない、この先何が起きるかドキドキしない、死という結果が分かってしまっているから先がなくてつまらない。
 まるでボードゲームで先に一人だけあがってしまってみんながまだ中盤で、私だけやることもなくみんなの駒がサイコロの目で右往左往するさまを見ていることしかできないそんな感覚ですごくつまらない。
 ボードゲームなんてやったことがないけど。
 そんな感じでつまらない。
 つまらないよう。
「ねえパチントンDCもう私たち死ぬでしょう?」
「何度も言ってるじゃないか、もうすぐ死ぬよ」
「私、死ぬ前に何かやっておきたいことってないかなって考えたんだけど、結構ないよね」
「そんなこと知らないよ」
「そう? 結構大事じゃない? 私死ぬ瞬間あ~アレしとけばよかったな~って思って心残りのまま死んで幽霊とかになって、
 ないよぅ ないよぅ 冷蔵庫にアイスキャンディーがないよぅ
 って彷徨うのとか真っ平御免だと思わない?」
「ア、    アイスキャンデーがなかったことが心残りなの?」
「物の例えよ」
「それじゃあ何が心残りなの?」
「だからそれが結構ないの、自分でも驚いちゃうくらい」
「それならよかったんじゃないの?」
「でも心残りがないっていうのも少し可哀想じゃない? 私可哀想じゃない? なんか釈然としないのよね」
「そんなのワガママだよ」
「そうかしら? でね、私に心残りがないのって悲しいじゃない? 私は悲しいの。でも無理に心残りって作れないじゃない? 作れないの、だって偽物だからすぐに分かっちゃうの」
「誰に分かっちゃうの?」
「私によ、私が分かっちゃうっていうか冷めちゃうの、だから心残りって作れないなーって思うの、どうしたらいいと思うパチントンDC?」
「そんなこと僕には分からないよ」
「私には分かるの」
「分かってるの!? だったら僕に聞かないでよ!」
「だってあなたの協力が必要なんだもの」
「僕の協力?」
「そう、私の心残りはないでしょ、でも本物の心残りが欲しいの、だからあなたの心残りを聞かせてパチントンDC、私あなたの心残りを共有することにした。
 あ~私の友達パチントンDCはこんなことが心残りなんだな~って思って、死にたいの。お願いパチントンDCあなたの心残りを教えて」
「僕の心残り?」
「そう、どんなことでもいいの例えばアイスキャンディーがなかったとか、なんでも」
「それは君の心残りでしょ」
「私の心残りはそんなくだらないことじゃないわよ! そもそも心残りなんてないし!」
「僕の心残りもそんなくだらないことじゃないよ!」
「それなら教えてパチントンDC、もし私に叶えられることなら全力で協力しちゃう!」
「本当に?」
「本当! 本当!」
「協力してくれる?」
「しちゃう! しちゃう!」
「笑わない?」
「笑わないわよパチントンDC、私たち友達じゃない!」
「そ、それじゃ、お願いしちゃおうかな?」
 パチントンDCが座り直して私のことを見て少し頬を赤らめる。
パチントンDCが私のことを見てる、でも私の顔を見ているわけじゃない、視線は私の顔の少し下、そう、少し下を見てる。そそそって顔が真っ赤になってく。
目線を合わせずウジウジモジモジしながら少し小さな声で、語尾がかなり上がり気味に、パチントンDCはとんでもない言葉を吐き出した。

「君のおっぱいを揉ませてはくれないだろうか?」

 は? お前この緊急事態に何言ってんの?


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