ランジーン002

ランジーン×コード・インスパイテットストーリー
ランジーン×ビザール
テイクトゥ


ランジーン・デッド・ラン


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「それじゃ今日もはじまったぜオーディエンス! 月一回のお楽しみ! 荒れ狂う暴力と興奮とアドレナリンと異能バトルの一夜がやって来たぜ!
全てのシーンがクライマックス! 
瞬き禁止のハイスパットバトルエンターテイメント! 

『ランジーン・デッド・ラン』!!!!!!!!!!!!

この放送はTKJ全てのキー局を通じて全米中に生放送だぜ!
始まったら全てがクライマックス! CMあけたらTVから目を放すなよ!」

選手控室でテレビ映像を垂れ流しながら、それでもレディオスタは集中していた。
背中一面に貼られた三センチ角の圧力伝達フィルムから来る三十六個の圧力情報を全て理解し、その全てを総合し結論を出す。レディオスタはその作業に集中していた。
『ランジーン・デッド・ラン』
『ランジーン』の中でも規格外の身体能力や特殊能力を持つファミリーから選抜された猛者たちが、最上の『ランジーン』を目指し競い合う全米最大のショウ。その今年一番の注目レース『キング・オブ・デッド・ラン』、毎月行われる予選でポイント上位四名により競われる年間チャンピオンを決めるレース。レディオスタは『キング・オブ・デッド・ラン』の選手控室で背中からくる情報を理解し総合し結論を出す作業に集中していた。

 
「今年一番の注目選手!
なにせディフェンディング・チャンピオン!
脳から頭蓋骨突き抜けて出る無数の極太神経を体表に這わせ筋肉に直結! 脊髄反射を無視し完全なる人体マニュアル操作を実現したリミッターカッター! 神経の命令伝達速度を人間の七十倍の速度にまで高めた怪物!
今日も小脳をすっ飛ばして運動制御してるので震えてます! 震えてます! 
われらがヒーロー!
ケーブル・ガイ!!!!!! コミック・ロドリゲス!!!!!!」
 
背中の圧力情報から今日のコースの状態が次々と伝わってくる。
レディオスタは脳内にビジュアルとして今日のコースを再現している。
一五〇〇〇mのコースを一周、ダートコースで途中に三か所の障害がある。
コースと観客席の内外には協力者が数百人、協力者から送られてくるコース状況や天候、対戦相手のオフィシャルな情報からプライベートなゴシップまでをひっきりなしに背中の三十六枚の圧力伝達フィルムはレディオスタに伝え続ける。
レースの情報を全て、
有利な情報も不利な情報も全て、
数百人の協力者から送られてくる情報はレディオスタの脳内で反射的に精査され、有益な情報は分析され、構築される。

サイレント・タン。

言葉を必要としない『ランジーン』。
彼らは情報をアウトプットする時、言葉を使わない。空気を振動させない。すべて右手人差し指で何かをなぞることによってのみアウトプットされる。二十四時間、睡眠中も人差し指は動き続け、三センチ角の平面に、彼らでしか理解できない言語サインで、永遠にアウトプットされる情報はいまだ解明できず、彼らの中でしか理解されない。
ファミリーの中でしか彼らの出す情報は解読できず、理解し合うことはできない。
レディオスタの背中に情報を送り続けている協力者はすべてサイレント・タンだ。

「昨年、今年、と取得ポイントではトップ! 年間MVPを四度獲得したその実力はもはやレジェンド! 尖がった頭頂部、変形した頭蓋骨の中に二段の脳を持ち、相互否定型ディベートを永遠と繰り返す生まれながらの鬱系哲学者! 腰仙部にはアクチュエーターとマニュピレーターとしての機能に特化した第三の脳までついているオートマチズムの体現者! 真の実力者!
ミスターデッドラン! 
コーン・ヘッド!!!!! ダッドサン・グッドマン!!!!!」

二人目の紹介PVがテレビから流れる中、レディオスタは立ち上がり洗面台の前に立つ。部屋の中には一人、誰もいない。レディオスタは左手の上腕部にチューブを巻き、静脈を浮き立たせる。浮いてきた静脈に注射針を突き立て、血液と薬液を混ぜるためにポンピングを繰り返す。
レディオスタの体はステロイドとスマートドラッグで満たされている。今入れているのはアンフェタミンとL‐ドーパの混合物で、覚醒作用と、神経伝達促進作用がある。

「今期一番の朗報はこの男の復活だ! 二年前の痛ましい事故から完全復活! いや!  よりパワーアップして帰ってきたぜ! 盲目であり音で全てを判断するその鼓膜は潜水艦  のソナーより正確で、空気の流れから関節の摩耗音まで捕え、観客がジュースをすするその音で何を飲んでいるかまで分かる驚異の盗聴男! 踊るように駆け抜けるその姿となびく銀髪にティーンエイジャーは失神!
待っていたぜ無冠の帝王!
デッドランのアイドル!
銀髪の貴公子!
ダンサー・イン・ザ・ダーク!!!!!! I・J・フェリオ!!!!!」

トイレの中でレディオスタは尿道カテーテルを自らの性器に差し込み膀胱の中の尿を全て便器の中に捨てる。レディオスタの尿はドラックでまみれている。このままではドーピングの尿検査で陽性反応が出る。すべての尿を捨て、生理食塩水を注入し膀胱を洗浄し、綺麗な尿を注入し尿道カテーテルを抜く。トイレを出て器具を全てカバンの中にしまい体に防護スーツとプロテクタを装着していく。
ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します、試合前の尿検査と血液検査を行いたいと思います」
レディオスタは大会の監視員を控室に招き入れる。まずトイレで尿検査、本人が尿をしているところを監視員がチェックし、尿測コップに入った尿を二つのカプセルに入れ容器に移し密閉しマジックで監視員の名前をサインする。
「お願いします」
監視員から差し出されたカプセルの入った容器とマジックペン、レディオスタは右手で容器を受け取り、左手でマジックペンを受け取り、サインを書き込む。
「ありがとうございます、では血液の採取を」
レディオスタは控室のベンチに座り右腕を差し出す、監視員は体にフィットするように作られている防護スーツの袖を、ズリズリと苦労しながらまくり上げ、右上腕部にチューブを巻き静脈を浮き立たせる。一番浮き出た静脈に注射針を差し込み、血液を吸い出す。
注射針を抜き取ると血液が入ったアンプルにサインをし、レディオスタにサインを促す。レディオスタもサインを行い監視員は一礼して控室を後にした。
今レディオスタの体内から抜き出された血液はレディオスタの物ではない。
レディオスタの右腕、肘の内側部には人工血管が埋め込まれていてその中にはドラッグにまみれていないクリーンな血液が入れられている。採血時、肘を曲げると最初に一番太く浮き出る血管からの採血になるのは当然のことだ。だからレディオスタの右腕は一番浮き出るのが人工血管になるよう形成されている。
レディオスタは立ち上がり、まだ取り付けていないプロテクタを装着し、ヘルメットをかぶり控室出口に立つ。
左脛から伝わってくる圧力情報に全神経を集中させる。
一番大切な人からのメッセージ、一番大切なメッセージ。レディオスタは録圧されたそのメッセージをエンドレスリピートで二十四時間左脛の圧力伝達フィルムで再生し続けている。二十四時間、あの日から二年間、このメッセージの意味を理解したあの日から二年間、一時も欠かさずメッセージを再生させ続けている。
もういない人からのメッセージ。
死んだ人間からのメッセージ。
愛するただ一人の肉親からのメッセージ。
愛するあの人からのメッセージ。
姉、ミライザからの愛の囁き。


レディオ・レディオ・レディオ・愛してる・愛してる・愛してるの・私はあなたを愛してるの・狂おしいほど・千切れるほど・飛び散るほど・弾けるほど・落ちるほど・沈み込むほど・天駆けるほど・迸るほど・あなたの鼓動が聞こえると私は全てを止めてその音と揺蕩うの・あなたの鼓動が聞こえると私は全てを止めてその音を弄ぶの・あなたの鼓動が聞こえると私は全てを止めてその音に身を任せるの・あなたの揺れる黒髪は真夜中を連れてきて・あなたの黒い瞳は漆黒を連れてきて・あなたの白い歯は朝靄を連れてきて・あなたの温もりは陽だまりを連れてくるの・衣服の擦れる音はまるで氷河が軋むような清涼感を与えてくれて・鼻をすする音は優しいビブラートで私を包み・首を鳴らす音は私に驚きと切なさを・指を鳴らす音は私に警告と緊張感を・喉を鳴らす音は際限ない悦楽の想像を・舌を鳴らす音は私にマゾヒスティックな快楽を・落ち込む顔は私にサディスティックな快楽を・悲しい顔は私に母性愛を・勇ましい顔は私に父性愛を・食べる口元はエロティックな想像を・掴む指はエロティックな想像を・髪をかき上げる仕草は同性愛を・細める目には異性愛を・全ての欲望をあなたは私に感じさせてくれる・全てが私の心を捕えて離さない・愛してるの・愛してるの・愛してるの・愛は捧げることで・愛は全て捧げることで・愛に流動性はなく・愛は普遍的で不動・変わることがないの・変われないの・全て捧げるしかないの・全て奪われるしかないの・全てあなたのために生きる・あなたのために生きる・生きることは尽くすことなの・あなたの全てに尽くすことなの・尽くして・尽くして・尽くして・全てをあなたに捧げることが愛の普遍的な形なの・だから私を食べて・私を飲んで・私を引き千切って・私を弄んで・私の全てはあなたの戯言のためにあり・私の命はあなたの戯言で失われることを望んでいます・全てを捧げます・全てを捧げます・だから殺してください・私を殺してください・あなたの手で・私を引き裂いてください・全てを捧げます・愛している・愛している・愛している・………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………


「さあ! 最後の紹介だ! 
今シーズンからいきなり現れた超新星! 今年の『ルーキー・オブ・ザ・デッドマン』を獲得しノリにノッてる期待のルーキー! 今まで誰からもレースむきファミリーだと思われていなかったサイレント・タンからキラ星のごとく登場したワンダーボーウィ!
右手人差し指から情報を伝え合うサイレント・タンの中にいながらその右手人差し指を失い、一切の情報アウトプットを行うことができない悲しき情報の袋小路!
特徴がまるでないレース運びだが、なぜかいつも上位入賞、ついた名前はゴースト!
今年度ナンバーワンルーキー!
サイレント・タン!!!!! レディオスターゴースト!!!!!」

レディオスタは唇を噛み、控室のドアを開ける。
緊張と情報が彼の体を包む。
レディオスタはサイレント・タンではない。そもそも『ランジーン』でもない。

レディオは、ただの、人間だ。


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