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◆プロローグ----------------------------------------------◆

「なぁお前最近セックスした?」
「してねえよ」
「そりゃそうか、セックスできるのは金持ちだけだもんな」
「お前したのかよ?」
「それがしたんだわ」
「マジで?」
「マジで」
「誰と?」
「誰とか聞きたい?」
「そりゃ聞きたいわ」
「お前知らないほうがいいと思うよ」
「なんでよ?」
「いや俺だったら凹むから」
「何がよ?」
「いやこんな話なんでお前にしてると思う?」
「は?」
「いや俺って働いてるじゃん?」
「工場で流れ作業だろうが! 底辺労働者が!」
「でも俺はお前と違うの、俺は日給が出るし、アパート借りてるし、車もあるの」
「だからなんだよ?」
「だから女が寄ってくんだよ」
「どっかの年増かブスだろうが!」
「年増? まぁ年増は年増だけど、ブスじゃないぜ、お前の母ちゃんはよ」
「は? お前何言ってんの?」
「俺お前の母ちゃん囲ってるから、毎日やりまくり、お前の母ちゃんスゲーフェラうまいのな、昨日の夜セックスしながら『ごめんねキャスパー! ママ淫乱でごめんね!』って泣きながら腰振ってたぞ」
「お前ふざけんなよ!!」
「てめえの母ちゃんはお前より俺のほうがいいんだとよ! 死ねよキャスパー! さんざん俺のことバカにしやがってよ! お前の母ちゃんはクソ豚でお前はクソ豚の息子だ! その内ユーチューブでお前の母ちゃんのポルノが全世界に配信されるから覚悟しとけよクソ豚の息子が!」
「うるせえ! 死ねよ!」

 これが殺人の動機。 
 これが犯罪者としての俺の始まり。

 刑務所の中は辛かった、なかなかのモンだぜマジで。殺人、俺は人を一人殺して二年半刑務所に入った。二年半、俺は二年半耐えた、ホモもいたし飯は最悪でとりあえず刑務所の中は臭かったし寒かった。看守には毎日殴られたし、囚人にも毎日殴られた。十八から二十一の間俺は刑務所の中で石ころみたいに誰からも気がつかれないように生きて、体鍛えてこの先の人生について考えてた。
 俺は殺人者だ、この先一生殺人者として生きていかなくちゃならない。この刑務所の中だって結構最悪だが外だって変わりはしない。殺人を犯した人間はなかなかいい仕事にはつけないし、食うのだってやっとなはずだ。
 俺は貧乏の家に生まれた。母ちゃんと二人でトレーラーハウス暮らし、母ちゃんのたらしこんだ男の稼ぎでなんとか食いつないで生きてきた。でもこの先それはできない。母ちゃんは一度も面会に来ていない、つまり決別ってことだろう。俺は母ちゃんと別れて一人で生きていかなきゃいけないってことだろう。母ちゃんだって殺人者の息子がいたら男漁るのだってしにくくなるだろうしそもそも俺は母ちゃんがせっかく手に入れた食いぶち殺して刑務所に入ったんだ。俺のことは許さないだろう。
 俺はここを出たら一人で食っていかなきゃならない。殺人者としてのハンデを背負いながら一人で職を探し、一人で生きていく、言うのは簡単だが困難なミッションであることは間違いない。だから考えろ俺、この先刑務所を出たらどう生活するのか、どう食ってくのか、どう生きてくのか、どう生き残っていくのか考えろ俺、考えて、考えて、考えて考えて考えつくして俺は出所の日を迎えた。
 久しぶりに自分の服を着る、スウェットは二年半放置されてたから臭いし、湿っていた。革ジャンを着てニットを被り、スニーカーを履きポケットに有り金全て三十八ドルを捻じ込んで金網の門を出る。
 雪が地面いっぱいに積もっていて空は曇天でアスファルトはゴミだらけで腐ったリンゴの臭いがして最悪だが俺はここで生きていかなきゃならない。
 もうこりごりだと思う。
 もう貧乏はこりごりだと思う。
 貧乏は俺に我慢させた。母ちゃんがひーひー喘ぐベッドの横で頭抱えて情事が終わるのを待たなくちゃいけないのは俺が貧乏だからだ。
 学校で虐めるだけ虐めぬいたキモ豚が俺の母ちゃんに俺の名前呼ばせながらセックスするなんてことが起こるのは俺が貧乏だからだ。
 俺が人を殺したのは貧乏だからだし、俺が刑務所に入ったのは貧乏だからだし、俺がこの先の人生、絶望的なのは貧乏だからだ。
 もうこりごりなんだよこんな人生は! 俺はもう我慢したくねーんだよ! 唾吐かれて、道の石ころみたいに固まってただただ死ぬのを待つ人生なんて死んでも嫌なんだよ!
 だから金持ちになるんだ。なんとしても。俺は金持ちになって石ころじゃない人間になるんだ。

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