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◆エピローグ----------------------------------------------◆

【妖精王の凱旋と後日談】

 生きることの価値、そんなものはないってのが俺の持論だ、でも価値のない人生ってわけじゃないし価値のない世界だってわけじゃない。たとえば仕事を終えて飲む冷えたビールは最高だし、そもそも仕事自体が最高だ。クラシックカーを朝から晩までいじり、直していくのは根気がいるが楽しい作業だ、何より直った車をクライアントに見せる瞬間がたまらない、クラシックカーだ、思い入れも強い、その車がまた走れるようになったことを知らされる持ち主は死んだ妻が帰ってきたような顔をするよ。そして感謝される。人に感謝されるのは悪くない、悪くない? いや最高さ。最高、この瞬間は価値ある瞬間さ。
 この工場を紹介してくれたのはファウストさんだ、仕事を紹介してくれて、住む場所を一緒に探してくれて、つまらない相談にも親身に答えてくれて俺が今こうしていられるのは全部ファウストさんがいたからだ。今生きていられるのもファウストさんがいたからだ。
 あの日俺はもう死ぬ寸前だった。手と足の指は全部折られてたし、肉はペンチでつまみ切られてたし、歯は全部折られてた。俺は死ぬ寸前だった。
 あの○○○○がいつもと違ううまそうな匂いのする飯を持って階段を下りてくる寸前にシェルターの壁がいきなり開いたんだ。隠し扉? そんなヤツらしくてあの○○○○も存在を知らなかったらしい。俺はすぐに数人のシークレット・サービスに助け出され、病院に運ばれた。その先あの家で何があったのかは知らない、知りたくもない、俺は病室で意識を取り戻すと横にはファウストさんとエディさんがいて、
「もう君は自由だよ、『ラビット』が君に危害を与えることは二度とない」
 って言ったんだ。それから俺は数か月入院し、この街に来て、この職に就いた。
 昨日の夜のニュース見たかい? 死んだらしいなあの○○○○、死んだんだよ、自殺だってさ、本当にこれで解放されたと思ったね。心の奥に、小さいけど微塵のようだけど確実にあるあの○○○○への恐怖が消えた瞬間だったよ。俺はこれで生きていける、自由に、恐怖なく生きていける。泣いたよ、声を出してテレビの前でおんおんおんおんガキみたいに泣いたよ。そしてタオルを渡され顔を拭いて抱きしめてもらって寝たよ。
 目覚めは良かったよ、最高さ、本当に見る物見る物輝いて七色に見えたよ。
 
 生きていることに理由はねえ、
 生まれたことに理由はねえ、
 あるのは目的だけなんだ。
 生きる指針は生きることだ、生き続けることだ、生き抜くことだ、死なないことだ。
 何かのために生きるんじゃねえ、自分のために生きるんでもねえ、命のために生きるんだ、自分の体の中にあるたった一つの命守るために生きるんだ。
 人生ってのはな、それ以外のなんでもねえ
 生きることにな、それ以外の理由はねえ。

 俺は今でもこの考えが間違ってるなんて思ったことはねえよ、でも口には出さないし、表情にも態度にも出さない。もうあんな思いはしたくないから。この言葉は悪魔を呼んでくる言葉だって分かったから、俺は真実を決して人には話さなくなったよ。
 それじゃあ帰ります。家には待ってる人間がいるからな。
 それじゃバイバイ、アンタも気をつけな、女の前で真実を言うと殺されるより辛い目に合うぜ。


 キャスパーはカウンタックをガレージに止め車を降りる。庭を抜け家のドアの鍵を開ける。

 田舎だ、それがどうした? 家は広いし庭までついてる。ガレージも広いし物価は安いしいいことづくめだ。かみさんも可愛いし。俺は今最高に幸せなんだ。それにあの○○○○も死んだしな! 最高だ! 俺の人生バラ色ってもんだ! 俺は石ころにならなかった、見て見ろ! これが人間の暮らしだ! 恐れず、飢えず、蔑まれず、諂わず、俺は生きてる! 石ころじゃなくて生きてる! 最高だ!
 この世界は最高だクソ野郎!

「おかえりなさい旦那様」
 靴を脱ぎソファーに座るキャスパーの前に跪き足の甲にキスをする女。キャスパーは女を抱き上げ横に座らせ頭を撫で、情熱的にキスをする。
「ただいまアマンダ、今日も愛してるよ」
 美しく燃えるような赤い瞳を見つめ、優しくキスをする。
「上機嫌なのですね」
「ああ、今日から生まれ変わった気分さ!」
「良いことがありましたの?」
「ああ、俺を苦しめていた○○○○が死んだからな!」
「まぁ、どなたがお亡くなりになったのです?」
 キャスパーは首をかしげる、
「あれ? 誰が死んだんだったけ? いや、いやもう思い出せねぇな、あれ?」
 アマンダは優しく微笑み、キャスパーの胸に頭を埋める。


「いいんですよ、思い出さないでくださいな、旦那様が幸せならわたくしも幸せ」
 
                                    END

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