特別短編タイトル3

《2》

 「人気が欲しいの、人気が」「私達に足りないのってまさにそこなんだよね、お姉ちゃん」
 待ち合わせ場所の駅ビル屋上につくなり双子の天使はわめき立てた。ルーラといる時は相槌ばかりで、怒鳴ったり騒いだりという印象がなかっただけにたまは驚いた。たまに口を挟む隙を与えずピーキーエンジェルズは交互に喋り続ける。
「ほら、まとめサイトあるじゃん?」「あれさ、スノーホワイトの記事ばっかりなんだよね」
「白い魔法少女がどうしたってそればっかり」「あれなんなの? 複数いるの?」
「それくらい目撃情報多いし」「納得いかないっつーの」
「私達なんて二人いるのに、十分の一くらいしかない」「おかしいよね」
「それでさ、今度人気投票するらしくてさ」「まとめサイトの中でね」
「せっかく魔法少女になったからには人気欲しいし」「当然だよね」
「だからなんとか人気稼ごうと色々やったんだけど」「お姉ちゃんマジクール」
 ミナエルとユナエルはサイトで自作自演をすることにより人気アップを図ったのだという。ミナエルが自身の魔法の端末を使ってスレッドを作成。双子の天使に助けられたという記事を投稿し、ユナエルが自身の魔法の端末を使って「自分も助けてもらいました。あの天使本当かわいかった」と同調するレスをつける。
 二つの端末を駆使してサイト内のピーキーエンジェルズ熱を盛り上げようという作戦は、端末は別だったのに掲示板で表示されるIDが同一だったという盲点から崩壊した。
「なんで端末違うのにID同じなんだっつーの!」「私ら二人でセットかっつーの!」
「ファヴに文句いったらしれっと『え? そうなの?』とかいってるし」「ふざけんな!」
 二人は見え見えの自作自演を笑われ、荒らされ、追い出された。元々持っていたスマートフォンを使って自演のやり直しを図ったが、一連の騒動は完全に流れを決定付けてしまい、双子の天使を話題にするだけで自演扱いされてしまう始末。
 その間にもスノーホワイトの目撃情報は増え続けていく。
「でさー。このままだとまずいよね」「すっごくまずいよね」
「スノーホワイトがダントツでぶっちぎっちゃうよね」「よくないよね」
「いっそ記者会見とか考えたけどさー」「秘密を漏らすと資格剥奪されるらしいしねー」
「多重投票も考えたけどー」「今度バレたらアク禁とかされそうだしー」
「というわけでたまはなんかいいアイディアない?」「ない?」
「私達仲間じゃん?」「たまならきっといいアイディアあるよね?」
 双子の天使にじりじりと詰め寄られたせいで、たまの背中が鉄柵に触れている。鉄の冷たさを背に感じながらたまは考えた。求められているものがよくわからなかったが、自分が頼られているということは理解できた。
 たまが珠だった時に頼ってくる人は一人もいなかった。馬鹿にされたり怒られたりすることはあっても珠の力が欲しいといってくれる人は誰もいなかった。せいぜいジュースを買って来いとか帰りにランドセル持っててくれとか命じられたくらいだ。
 魔法少女になってそれは変わった。感謝の言葉。恩人に向ける目。気恥ずかしくて身もだえしたくなるくらい照れ臭いけど、とても嬉しくて、気持ちがいい。人助けをした時は、魔法少女になってよかったと心から思える。テレビの中の魔法少女達が人助けに奔走する理由が少しだけ理解できた。
 そして今。たまは魔法少女から頼りにされている。仲間といってもらえた。仲間。友達。祖母は仲良しで大好きだったけど、家族だった。仲間でも友達でもなかった。生まれて初めてたまを仲間といってくれる人がいて、しかも二人もいて、どちらもたまを頼りにしてくれる。天使達は真剣な表情で翼をばさばさとはためかせている。
 たまは考えた。難しい顔で眉間に皺を寄せて考えた。
「えーと……うーんと……一生懸命人助けをする?」
「もう一生懸命してるっつーの!」「スノーホワイトがチート使ってんだよ」
 お気に召す答えではなかったらしい。
「ルーラに相談してみる……とか?」
「やだ! あのババアのヒスに付き合いたくない!」「あいつマジうざいよねー」
「チャンスがあれば、あいつに一泡吹かせてやるんだ」「どんな顔するか見物だよね」
「たぶんすっごい悔しそうな顔するよ」「すっごい悔しそうな顔だよね」
「嫌なやつ! いつかギャフンといわせてやりたい!」「偉そうにしてるやつをね!」
 二人は立て板に水でルーラの悪口をすらすらと並べ立てた。ルーラが好きだから従っているのかと思っていたが、そういうわけではないらしい。
 たまは少し悲しい気持ちになった。
「あの……相談すれば……聞いてくれると思うよ?」
「絶対嫌!」「ごめんだね!」
 どうしてもルーラに相談したくないようだ。これ以上勧めると矛先がたまに向かってきそうな気がして口をつぐんだ。
 黙したたまを見てなにを思ったか、天使二人は「なにかないか、なにかないか」と袖を引っ張ったり肉球を揉んだりと迫ってくる。中学生程度のたまに対して小学生程度のミナエルユナエルと体格差はあるが、人数差が倍もあるため押し込まれるとかなり怖い。よく見ると二人とも瞬きをしている様子がなくてより一層怖い。
 たまは目の縁に溜まる涙を感じながら目を逸らした。駅ビルの上から見下ろすと色々な物が小さく見える。通りを早足で歩く人、人、人。風に吹かれて揺れるイチョウの樹。パチンコ屋の駐車場に出入りする車。駅前の大型ビジョン。画面の中ではたまも知っている有名なアイドルが歌って踊っている。
 脳裏を過ぎるなにかがあった。たまの人生で初めてになるかもしれない「ひらめき」だ。たまは叫んだ。
「プ……プロモーションビデオを作ろう!」

◇◇◇

 まとめサイトの魔法少女人気投票は白熱した。
 圧倒的目撃数を誇る白い魔法少女と、動画投稿サイトに「手を繋いで飛ぶ二人の天使」動画が投稿されたことで一気に知名度を上げた双子の天使。双方の支持者による支援と投票は、抜きつ抜かれつの激烈なデッドヒートとなり、後々までまとめサイトの語り草となった。
 最終的には、支持層が広く、かつ根強かった白い魔法少女が鼻の差トップでゴールし、双子の天使は惜しくも二位となった。
 ああ、これはきっと怒られる。たまの作戦のせいで負けたと怒鳴られる。そう確信し、待ち合わせ場所の駅ビル屋上に重い足を引きずって出向いたたまは、予想外に明るい天使の声に迎え入れられた。
 握手を求められ、右手をミナエルに、左手をユナエルに、ぶんぶんと振られた。
「やっほー! いらっしゃいマイフレンド!」「二位だよ二位! まとめサイト見た?」
「あ、うん」
「すげー色々褒められてたよね」「やっぱPV大作戦が効いたね」
 PVといっても、たまが家庭用ビデオカメラで撮影した画像をミナエルとユナエルがパソコンで編集しただけの簡素な映像である。初体験となるカメラマンをやらされたたまは、撮影中に転ぶ、バッテリーが切れる、操作を間違える、等々失敗ばかりだった。手ぶれ補正がなければそもそも撮影に成功していなかっただろう。
「そ、そうかな」
「ファヴも『あれは反則ギリギリぽん』とかいってさー」「あの球体の裏かいてやったね」
 喜んでいるようではある。たまはほっと胸を撫で下ろした。
「じゃあこれから隠れ家で祝勝会の桃鉄しよう」「そうしよう」
「え?」
「ルーラも知らないとびっきりの隠れ家があるんよ」「そうなんよ」
「え? え?」
「負けたら明日の晩御飯奢るのね」「よっしゃー」
「え? え? え?」
 両脇を天使二人に抱えられてふわりと身体が持ち上がった。ぴったりくっつくことで羽の動きが阻害されているはずだが、くるくると螺旋を描いて昇っていく。下を歩く人の群れがさらに小さくなる。風が強くて目が開けていられない。とても怖いのに、なぜか楽しい。
「じゃあ十年トライアルね」「ハンディ無しね」
 たまにはまだまだ覚えなければならないことがたくさんあるらしい。

  《おわり》

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魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)魔法少女育成計画 
著者:遠藤 浅蜊
販売元:宝島社
(2012-06-08)

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