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第8話『マジLOVE1000%』

 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある元軽音楽部の部屋の扉を開けた。
「そういえばドイツって、AKB48とかジャニーズみたいなアイドルっているの?」
「うーん、どうなるでしょうねぇ。ドイツにもアイドル的な人気のある歌手はいますけど、日本のアイドルとはちょっと違う気がしますので……。というか日本に来て、アイドルの多さにびっくりしましたね。ケータイのゲームを通じてアイドルに寄付できるとか、本当に日本のポップカルチャーは先の時代を行ってます!」
「先パイ、それ寄付じゃないです……。課金という名の、恐ろしいトラップです……」
 エヴァ・ワグナー、九条京子、宮坂琴音。アニソンバンドの三人娘が席に座って姦しくおしゃべりをしている。
 どうやら今日はアイドル談義で盛り上がっているらしい。アニソンに詳しくない弦人は、アイドル文化にも疎い。このバンドで自分が入っていける話題なんてほとんどないのでは? と最近思い始めている。弦人が入ってきたことにも気づかず、三人は話を続ける。
「でもでも、日本のアイドルは本当にみんなカワイイですよ! わたし、日本に来てからももクロにハマりましたし!」
「ももクロ良いよね! アタシは母親の影響で韓流も好きだけど。最近だと、CNBLUEとかがおススメ! 今度、聴いてみてよ!」
「琴音は……最近だとアフィリア・サーガ・イースト推しですね……」
「なるほど、これはまだまだ名前が出てきそうですね。ここにゲントとタカヒロがいたら、また違う趣向のアイドルが出てきそうな気がしますが……」
「ここにいるぞ」
「お、ゲント!」
 顔をあげたエヴァが嬉しそうに弦人に尋ねる。
「ゲント、ちょうど良かったです! ゲントの好きなアイドルってなんですか?」
「……好きなアイドルって言われても。そもそも曲だってろくに聴いたことがないのだが」
 弦人は眉をひそめながら答えた。
「でもたとえば、好きなAKB48のメンバーとかはいるんじゃないの?」
「48人も覚えられるわけないだろ。アイドルどころか、最近の芸能人の名前は電車の吊り広告の見出しで覚えているくらいなんだが」
「通勤電車に乗ってるサラリーマンか、アンタは!」
「ほっとけ」
「でもゲントの言うこともわかります。わたしも48人の顔と名前を覚えるのは大変ですね。アニメのキャラだったら何人でもバッチリ覚えられるんですけどね」
「そういえば、最近は漫画もアニメも、アイドルもの増えたわよね。AKBもアニメになってるくらいだし」
「アイドルと二次元は……なんだかんだ親和性が高いですから……。声優だって……アイドル並みに扱われている人もいますし……。あ、でもそれだったら……」
 琴音はなにかを思い出すようにパンと手を叩いた。
「ST☆RISHも……アイドルに含まれるんじゃないですか……」
「おー、ST☆RISH!」
 エヴァが嬉しそうに反応する。
「【うたプリ】、面白いですよね! キャラクターがみんな個性的で話もぶっ飛んでいるのに爽快で、ドイツにいたときもすんごくはまりました! あのメンバーだったらわたし、オトヤとは良い友達になれる気がします!」
「こ、琴音は……ゲームからのファンで……翔くんとレン様がお気に入りです……」
「あー、アタシも気になってるのよねー、そのアニメ。すごい人気あるらしいねー」
「……なんだ、そのST☆RISHって?」
 弦人が尋ねると、エヴァは急に目を輝かせて答えた。
「ヤー(はい)! いま超人気の“うたのプリンスさま”たちですよ!! 日本最大のアニソンライブであるアニサマの、2012年のライブでもトップバッターを務め、会場中を沸かせた超人気アイドルたちです! いまや女性のアニメファンの心を鷲掴みにしていると言ってもいいくらいです!」
「……アニメファンに、ってことは要するにアニソン専門のアイドルってことか?」
「ゲント、百聞は一見に如かずです」
 エヴァは意味深ににやりと笑った。琴音に目配せすると、すぐに琴音は自前のノートパソコンをセットする。
「……ちょっと待ってください。いま、準備しちゃいますから……」
 琴音は慣れた手つきで動画サイトにアクセスし、とある動画の画面を開いた。エヴァ、京子、そして弦人も、琴音のパソコンの前に集まる。
 表示された動画のタイトルを、弦人は無意識に読み上げていた。
「……【うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%】?」
「アニメのタイトルですね。ちなみに曲のタイトルは『マジLOVE1000%』です」
「……またすごいタイトルだな」
「すごいのはタイトルだけじゃないですよ」
「つか、この再生数……。七桁ってマジ……?」
「それでは準備できたので……再生します……」
 弦人の言葉を遮って、琴音は動画の再生ボタンをクリックする。
 その途端、BGMに合わせてステージのアニメーションが映し出された。
 実写映像だとばかり思っていた弦人はそこで面食らう。
と、大勢の歓声を浴びて六人のキャラクターたちが颯爽とステージの上に降臨した。現実にはあり得ない髪の色、麗しい容姿をしたキャラクターたちがマイクを持って一斉に歌い始める。
 弦人はここでようやく、ST☆RISHがなんなのかを理解する。
「……なぁ、エヴァ。もしかしてST☆RISHって……」
「ヤー! いまステージで踊っている人たちのことです!」
「人たちって……これ、二次元じゃ……」
「ゲント、人に感動を与えるのに、二次元も三次元も関係ありませんよ」
 エヴァは諭すように言った。
「だいたいアニメのキャラがCDを出すなんて全然珍しくないじゃないですか。リン・ミンメイから続く日本の偉大な伝統ですよ」
「そんな伝統は知らん」
 弦人はそれ以上反論する気も失せ、画面を眺める。
 ステージに鳴り響くカウントダウン。
 それに合わせて、キャラクターたち――ST☆RISHのメンバーは囁くように客席へと呼びかける。
 誘っているようにも、挑発しているようにも取れる呼びかけだが、不思議と厭味な感じはしなかった。演出の妙もあるのだろうが、なにかが起こる気配が画面に満ち始める。
 そして六人それぞれの呼びかけが終わった瞬間。
 まるでロケット砲のように六人が息を揃えて歌いだす。それぞれ違った色を持った声が一つに重なり、観客を祝福するように歌声を響かせていく。
 生き生きとした存在感を放ちながら自在に動くアニメキャラクターたちはやがて三組のデュエットに分かれて歌いだす。そのパフォーマンスに、エヴァたちは黄色い歓声をあげた。
「キャー! やっぱり良いですよね! オトヤとトキヤのコンビ、最高です!」
「琴音は、翔と那月のコンビですね……。あ、ここ! お互いにマイクを出し合ってデュエットしていくところが……!」
「あの、さっき、二番目にデュエットしてたのは? アタシ、あっちのほうが好きかも」
「おー、マサトとレンに目を付けるとはお目が高いですね! 二人とも超お金持ちの跡取り息子です! 玉の輿ですよ!」
「お前ら……よくアニメのキャラ相手にそこまで興奮できるな……」
「なにを言いますか、ゲント! これは中毒になること必至の動画ですよ!」
 エヴァの口調がいつものモードになっていくのを、弦人はひしひしと感じ取っていた。
 アニソンについてどこまで熱く語るモード、アニソンバカモードだ。
「【うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%】はとある芸能専門学校に入学した作曲家志望の少女とアイドル志望の少年たちの姿を描いたアニメです。本編では主人公のハルカを中心に六人が団結してST☆RISHが結成されるまでの経過を描いているのですが、なんといっても特徴的なのは毎話毎話繰り広げられるハイテンションなストーリーと、それに負けない豪華な挿入歌です! まるで音楽の魔法をかけるかのような魅力に満ちたアニメなのですが、そんな【うたプリ】のアニメの世界観を代表するのが、この『マジLOVE1000%』なんです!」
 曲の熱気が乗り移ったように、エヴァは話を続ける。
「聴くとわかると思いますけど、この曲の歌詞は基本的に観客に呼びかける構成になっています。そんな歌詞を、人気声優が演じる六人のメンバーから次々に魅惑のボイスで問いかけられたり、呼びかけられたりしたら、どんな乙女もキュンとするに決まってるじゃないですか! 歌はアーティストだけでは成立しない。聴く側も一体となって一つの音を形成する……。100%では足りない、何度でも聴きたくなる1000%のLOVEに溢れた、素敵な曲なのです! この曲を聴けば、きっと大事なことに気づけるはずです! 音楽に本当に大事なのは技巧ではなく気持ちです! 感情です! たとえ楽譜が読めなくたって、信念があれば作曲することだってできるのですから!」
「いや、できるわけないだろ」
「え。でも主人公は楽譜読めない状態で入学試験を突破してましたよ!」
「現実と二次元の区別はつけろ」
 そんなやりとりをしている間に、動画の再生が終わる。
 すると京子が物足りなさそうな顔でエヴァに尋ねた。
「エヴァ、これ二番はないの?」
「ありますよっ! ゲントが持ってるはずですから!」
「は? なんで俺が持って……」
 途中まで言いかけてから、気づいた。
「……入れてないわけがないか」
 弦人は鞄からMP3プレイヤーを取り出し、スピーカーにセットした。エヴァが厳選したアニソン100曲入りのプレイヤーから、該当の曲を見つけ出し、再生ボタンを押す。
 ふたたび始まるメロディを、京子は食い入るような顔で聴いていた。
「こういうキャッチーな曲って妙に癖になるのよね……。いいなぁ、これ。生のライブで聴いてみたいなぁ……」
「癖になるのも当然ですよ、キョーコ」
 エヴァは得意げな顔で語る。
「なにしろ【うたプリ】の楽曲のほとんどは、あの音楽集団『Elements Garden』のアゲマツ・ノリヤスが作曲・作詞を担当していますから! あの名曲『ETERNAL BLAZE』を生みだしたクリエイターです! ライブ映えするアニソンを作らせたら、この人の右に出る人はいませんよ!」
「そういえばこれ、二番の歌詞って……それぞれのメンバーのソロ曲名が入ってるんですよね……。アニメ本編を見ているとここの部分とか感慨ぶかくて……琴音は好きです……」
 琴音もそう呟きながら、高揚した表情で曲に耳を傾けている。
 弦人は二人の反応を見ながら、エヴァの言葉をなんとなく実感した。
「たしかに女性のアニメファンの心を掴む曲、ではあるみたいだな」
「なにを言ってるんですか、ゲント」
 エヴァが不思議そうに言った。
「ゲントもさっきからノリノリじゃないですか」
「えっ」
 その指摘で、弦人は初めて気づいた。メロディに合わせて、自分がリズムを取っていることに。バツが悪くなった弦人は姿勢をただし、そっぽを向く。
 視界の端で京子がにやにやと笑いながら、口を開いた。
「ねぇ、今度さ、バンドメンバーでカラオケ行かない? これ、みんなで歌ったら絶対に楽しいでしょ!」
「琴音……サイリウム持ってきます……! どうせなら『未来地図』も歌いたいです……!」
「じゃあ、わたしはサングラス持ってきます!」
「いや、なんでよ」
「シャイニング早乙女のモノマネです! わたし、ワカモトキャラの物真似得意ですから!」
「……本当に歌うのか。俺はあんまり乗り気はしないんだが……」
「ダンスの振り付けも覚えてさ。あの小松のバカも、こういうのはノリノリだろうし」
「どうせなら……男装して踊るのもアリかと……」
「男装! タカラヅカですか! 面白そうですね! ぜひ、やってみたいです!」
「……おーい」
 弦人の声も、アニソンバンド・ガールズトリオには届いていない。いろいろと諦めた弦人はスピーカーに目を向けた。
 決して弦人の好みというわけではない。二次元だろう、三次元だろうと、アイドルには相変わらず興味はない。
ただそれでも、この楽曲には心惹きつけられるものがあった。正確には、それに夢中になっているファン――エヴァたちのほうにだろうか。エヴァたちの姿を見ていると、ついつい巻き込まれたくなってしまう衝動にかられる。
 音楽は歌い手だけでなく、観客も一体となって作り上げるもの。
 そんな観客の熱気が周りに伝染し、一つのうねりとなり、曲をさらに魅力的なものへ押し上げていく。
それこそがもしかしたら、『マジLOVE1000%』という曲の、いや、音楽そのものが持っている魔法の正体なのかもしれない。
「よーし。そうと決まれば、早速歌っちゃいますか!」
「え、いまから?」
「善は急げです! ほら、みんなでリズム感を掴むのもバンド練習のうちですよ!」
「お、良いね良いね。歌うくらいなら問題ないだろうし」
「翔ちゃんパートは……譲れません……」
 すっかりやる気になっている三人を見て、弦人はげんなりとなった。
 するとエヴァは晴れやかな顔で手を差し伸べた。

「さぁ、ゲントも。一緒に歌いましょ!」
 
 弦人はしばらく渋るが、やがて重い腰を椅子から持ち上げる。
 ――弦人にかけられた魔法は、まだ当分消えそうにない。


■楽曲データ
『マジLOVE1000%』
歌:ST☆RISH(一十木音也(寺島拓篤)、聖川真斗(鈴村健一)、四ノ宮那月(谷山紀章)、一ノ瀬トキヤ(宮野真守)、神宮寺レン(諏訪部順一)、来栖翔(下野紘))
作詞・作曲:上松範康(Elements Garden) 編曲:藤間仁(Elements Garden)
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