《1》
デイジー「はぁ……」
パレット「どうしたのデイジー? ため息なんかついちゃって」
デイジー「ため息も出るよ。なにが悲しくて休日に穴掘りなんてしなくちゃいけないのさ」
パレット「それはゴミを捨てる穴を掘ってとお母さんに頼まれたからだろ」
デイジー「穴なんてビームでぱぱっと作ればいいじゃない」
パレット「そういうことに魔法を使うのはよくないよ。普通にスコップで掘ろうよ」
デイジー「パレットは面倒なことばっかりいうんだから」
みなこ「大変大変! 大変だよ! さなえちゃんちの物置に宝の地図があったんだって!」
デイジー「ええっ! ホント!?」
みなこ「本当本当。みんなで宝探しするってさ。デイジーもおいでよ」
デイジー「行く行く! すぐ行くよ!」
パレット「ちょっとデイジー! 穴掘り終わってないよ!」
ミラクルロジカルシニカルマジカルデイジー!
花の国からやってきた 戦うお姫様
風を切り裂くデイジーパンチ(シュッ)
岩をも砕くよデイジーキック(ガンッ)
そして必殺デイジー……ビィームッ!(どっかーん)
さあみんなが待ってる、行くぞ今すぐ
オープニングテーマの途中でテレビの電源をオフにした。色鮮やかなアニメーションを映し出していたテレビ画面がボタン一つで真っ暗になる。
八雲菊にとっての「マジカルデイジーリアルタイム視聴」は、欠かすことのできない儀式のようなものだ。感謝と誇りを胸に、儀式のように厳粛な心持でもって視聴しているということだ。そして中学生三年生にもなって、日曜朝のアニメを欠かさず見ているという行為自体がおおっぴらにできるものではない。秘儀のように密やかに視聴されているということでもある。
しかし今日は、欠かすことのできない視聴をとりやめなければならない事情があった。
「準備はできた?」
「できたよ」
菊は、ポシェットから顔を出した、イタチのような、ネズミのような小動物――マスコットキャラクターのパレットからの問いかけに頷いた。
ただの中学生でしかなかった八雲菊が魔法少女「マジカルデイジー」になってから一年。魔法少女として様々な活動をした。変身を解除してから迷子の手を引いて親の元に連れて行く、という安全なものばかりではない。居眠り運転で逆走するトラックに取りついて運転手を起こす、などという危険を伴うものもあった。
そんな活動をしつつも普通の中学生としての生活もある。菊には友達も多く、相談を受けることもあり、それを解決してあげるのもまた魔法少女の務めの内だ。思春期の悩みには解決しようのないものもあったが、聞いてあげるだけでも意味はある。
忙しく、楽しく、やりがいのある仕事に追われる毎日。
それら困難を乗り越え、さらに修練を怠らず、強くなろう、優しくなろう、魔法少女としてより高みを目指そうという姿勢が、抜き打ちでこっそり観察していた監査役の目に止まり、上に報告され、この娘ならと見こまれて……今ではアニメ化されている。花の国からの留学生という設定を初めとした一部の脚色を除き、マジカルデイジーの活動がかなり忠実に再現されていた。
デイジー付きのマスコットキャラクターであるパレットはいう。魔法少女の中でもアニメにまでなる者は、一握りのさらに一部分を漉してから溶かして精錬して職人の手によって磨き上げた伝説のウルトラレアなんだ、と。途中からよくわからなくなってしまっているが、とても珍しく、かつ名誉であることはパレットの誇らしげな表情で知れた。
パレットの説明を聞くと、魔法少女になってから日も浅いデイジーがアニメ化の栄誉に与るのは本当に幸運なのだろうと思える。日々、魔法少女として活躍し、人々の生活をより良い方向へ導こうとしながらも、菊は常に感謝の念を忘れずにいる。
「デイジー、緊張してる?」
「うん、まあ、わりと」
同年代より堂々としているし、肝が据わっているいう自覚がある。それは魔法少女に変身していなくとも、だ。魔法少女としての活動はマジカルデイジーだけでなく八雲菊の内面をも変化させた。経験は自信になり、自信は強さとなり、固く強い芯となっている。
そんな菊が、掌に人の字を書くくらい緊張していた。今まで魔法少女として体験してきた困難とは別種の難事が待ち構えている。制服に着替え、いってきますの声とともに玄関を出た。なぜ制服なのかというと、偉い人に会う時どんな服を着ればいいのかわからず、一番無難であろう服を選ぶなら学校の制服だった。生徒達からは古臭いと不評な、昔ながらのセーラー服に袖を通し、鏡とにらめっこでスカーフを整える。
そう、今日は偉い人に会う。マジカルデイジーが正しく魔法少女活動をしているのか、魔法の国から確認に来るのだという。監査とはまた違う、どちらかというとプロデューサーや監督のような立場の人らしい。
一般人の目にとまってはならないという活動の性質上、魔法少女の働く時間帯は夜間が基本となるが、今日は朝から魔法少女活動……といっても変身していくわけにはいかないので、八雲菊のまま、制服を着て偉い人の所に向かう。
《つづく》
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