特別短編タイトル8

《1》

「すっげえ! 魔法少女だって! マジすげえ!」
「名前決めんだってさ、名前。どうすんよ?」
「はーいはーい! 一番、棚橋陽真理(たはなし・ひまり)! 目を瞑って選択した文字を魔法少女名に入れまーす!」
「陽真理ぱねえ!」
「よっしゃ、やれやれ! 糞とか蝿とかそういうの出しちゃっていいのよ!」
「それじゃルーレットスターット! でででででで……ぽちっとな!」
「なに出た? なに出た?」
「ええと……@(アットマーク)?」
「ぶははははははは! やってくれた! この娘さんはやってくれましたよ!」
「陽真理さっすがー!」
「じゃあ次みっちーね」
「えっ……あたしは昌子にパスで」
「おっと昌子そのパスを華麗にスルー」
「きったね! きったね! なんで私だけにやらせてんですかおい!」
「だってさー、陽真理ってそういうキャラじゃん?」
「そうそう、あたしらは陽真理のキャラを確立させるためにだね」
「アイヤー! そんなのないアルよ!」
「ないのかあるのかはっきりしなさい、はっきり」
「あははははは、マジだ、はっきりしないわ、あっはははははははは……」
 女子サッカー部の美千代、昌子、それに陽真理は仲が良く、クラスでは「サッカー部三人娘」と称された。控え選手、当落選ギリギリの正選手、一年の時から不動のエースストライカーと、それぞれ立場は違ったが、ポジションやプレイの出来不出来を超えてノリやテンションが合致した。
 「箸が転がっても面白い」を地で行くテンションで騒ぎ、肩を叩き、腹を抱えて笑い、学校でも部活動でも休日でも行動を共にした。
 少なくとも陽真理にとっては、三人でいるのはとても楽しく、あるべき姿という感じでしっくりときた。パスミスを監督に怒鳴られても、暑さでついつい力を抜いてしまった走りこみをコーチから叱られても、授業中に居眠りするんじゃないと先生に怒られても、全国大会の一回戦で逆転負けしてしまった時も、三人揃っていれば笑い話になった。
 三人揃って「魔法少女」に選ばれた時が、一番の笑い話だったかもしれない。酒か薬が入っているかのようなおかしなテンションで――どちらの経験もなかったが、たぶんあんな感じだろうと思う――名前を決め、試験中はなるだけ協力しよう、三人の中の誰かが選ばれるよう頑張ろうと、名前を決めた時と比べて真剣に誓い合って、正式な魔法少女を決定するという試験に臨んだ。
 試験では陽真理が正式な魔法少女「@娘々」として選ばれ、美千代と昌子は魔法少女に関する記憶を消されて今までの生活に戻ることになり……試験の帰り道で交通事故に巻きこまれて二人とも命を落とした。正式な魔法少女としての訓戒を受けるため試験会場に残っていた陽真理は難を逃れ、そして一人取り残された。
 この辺の記憶はぼんやりとしている。思い出したくないことだからだろうか。それとも、ぼやぼやしている内に全てが終わってしまったからか。
 志望校にも合格した。友達もいる。親と不仲というわけでもない。それなりに順調に人生が進んでいるのではないだろうかと思う。
 それでも美千代と昌子のことを思い出すと、胸の奥の辺りが締めつけられるように痛くて苦しい。サッカーボールを蹴っている時、誰かを笑せた時、そして魔法少女として活動している時、どうしようもなく二人のことを思い出す。
 陽真理はサッカーをやめた。誰かの冗談に笑うことがあっても、自分から誰かを笑わせるということもなくなった。自発的に魔法少女活動をすることもなくなったが、「魔法の国」は陽真理の心にまで配慮してはくれなかった。
 陽真理は……@娘々は「お札に物を閉じこめる」魔法を使用できる。生き物を閉じこめることはできないが、無生物であれば一枚のお札に閉じこめることができる。運搬役、配達人としてはうってつけの魔法であり、「魔法の国」から呼びつけられては運び屋を仰せつかることも珍しくはない。
 仕事の連絡が入る度、今は亡き友人を思い出すことを恐れている自分にがっかりする。

◇◇◇

 正月も冬休みも終わり、世間も忙しなさを取り戻してきた、そんな時期。コスチュームの上にコートを羽織って魔法少女であることを隠す。早朝から電車を乗り継ぎ、陽真理は都内の鉄工所にやってきた。
 その日承った仕事は二つあった。一つは他県の工場への機材の搬入。魔法の機械やその部品、危険な魔法の薬品、魔法の重機、魔法のコンテナ等、運搬に時間と費用と専門的な魔法の知識が必要な物を運ぶ、というもの。
「で、ついでっちゃ悪いんだけどさ。もう一つ頼まれてくんねえかな?」
 全ての品物をお札に封じてから依頼人は陽真理に手を合わせた。着古した作業服に頑丈そうなヘルメット、泥のついた安全靴という服装。それに容姿、口調や仕草だけなら、どこにでもいるような作業員の中年男性にしか見えない。「魔法の国」の住人、協力者は、このように一般人のふりをして様々な場所で生活している。
「これなんだけどね」
 男は右手で抱えていたダンボール箱に目をやった。
 これから陽真理が資材を運ぶのは日本海側にあるH市。同県内にあるN市にこのダンボール箱を届けてほしいのだという。
「N市は今魔法少女の試験中でさ。なーんか一風変わった試験やってるそうなんだけど、そこで新しい魔法の端末の試験的な導入すんだとよ。アイテムのダウンロードができるようになるとか、そういう新しい機能があるんだと。で、資材の受け渡しが終わったら試験官の方に届けてやってほしいんだわ」
「私にできることなら」
「悪いなあ。恩に着るよ」
 作業員は輸送費をケチろうとする「魔法の国」の吝嗇ぶりを一くさり嘆き、十数人分もの魔法の端末が詰まったダンボール箱を陽真理に手渡し、「これで飯でも食ってくんな」と封筒を強引に押しつけた。
 作業員と別れ、電車の中でこっそりと封筒の中身を確認すると千円札が二枚入っていた。陽真理は駅弁を購入し、窓の外に流れる風景を眺めながら箸を動かした。

《つづく》

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