「いつかこの手で命を救う料理を創り出してみせる!」
「なにか食べると気持ち悪くなっちゃうの……」病気の少女クレアを助けるため、マンドラゴラを求めて旅立つレミオ。シェフ見習いの彼は、食で病気を治療する医学“食療学”を極める夢を抱いていた。しかし、旅先でアイソティアの美少女アトラと、聖獣殺しバレロンの争いに巻き込まれ、封印していった過去を解き放たざるを得なくなり……「風環、形成―― 【ヴェルキア器官、起動!】」。
「なにか食べると気持ち悪くなっちゃうの……」病気の少女クレアを助けるため、マンドラゴラを求めて旅立つレミオ。シェフ見習いの彼は、食で病気を治療する医学“食療学”を極める夢を抱いていた。しかし、旅先でアイソティアの美少女アトラと、聖獣殺しバレロンの争いに巻き込まれ、封印していった過去を解き放たざるを得なくなり……「風環、形成―― 【ヴェルキア器官、起動!】」。
<編集長の隠し玉!>として、
話題のニュータイトル『ドラゴンチーズ・グラタン』の、
キャラクター紹介&エピソード0を、三週連続で公開!
レミオ、アトラ、バレロン、それぞれの
これは現在へ致る物語――――
『ドラゴンチーズ・グラタン 竜のレシピと風環の王』
著:英アタル/イラスト:児玉 酉
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『ドラゴンチーズ・グラタン エピソード0<Il capitolo di Remio> 』
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■レミオ・ビアンカ■
ツィアーノ大陸最大の商業都市『ロイスタ』にある人気の食堂「ヴィーディル食堂」に勤めるシェフ見習いの少年。食と医療の融合「食療学」を勉強中。真面目で勤勉だが、実力は……。
※掲載イラストは、キャラデザのため
完成イラストとは設定等の変更がある場合があります。
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あの日、獣は人間になった。
――雨の音が響く洞穴の中で、ボクはたき火を見つめていた。
――雨の日は決まってそうしていた。
――獣だったから。
――人の心がなかったから、湿った干草の上で動かずいつまでも横になっていられた。
――ただあの日は少し違っていた。
ボクはもう動けなかった。
ひどい飢えと寒さ……そしていっそ切り落としてしまいたいと思うほど、痛む右腕。
たっぷり濡らしたボロ布を右腕に巻きつけて、ボクは死ぬのを待っていた。
ボクは失敗をした。
あのころの……思考なんてものを持たず、本能のまま生きていたボクは、無意識にたった一つ、決まりごとを守っていた。
それは「自分と同格以上の相手と絶対に戦わず、勝てる相手だけを襲う」ということ。
けれどその日に限ってボクは、決まりを破り捨てた。
やせ衰えた身体で、全力で戦った。
そして負けた。
逃げ帰り、たき火をつけて干草の寝床に倒れこむと、力を使い果たしていた身体は動かなくなった。
どんなに飢えていても守っていた決まりを、なぜその日に限って破ったのか……温かそうで赤くて、少し甘い香りのする不思議な水――あのときそんな風に見えたトマトと野菜のスープが食べてみたかった、それは間違いない。
けれど「料理の味」という考え方なんかなくて、腐った生肉さえ平気で口に入れる獣が、あのスープに期待していたのは、味じゃない。
すごく温かそうだったから。
簡単なテントを作り、その中でスープを食べている三人は、獣が見たことのない表情をしていた。
火とは違う温かさを、三人がそれぞれ持っているように見えた。
あのスープを食べたら自分もそうなれるのだろうか、この寒さから逃げられるのだろうか……あの頃のボクの心を、言葉にすればきっとこうなる。
ふと、ぬかるむ道を歩いてくる足音が聞こえた。
いつ止んだのか、雨音はもう聞こえなかった。
足音は洞穴の前で立ち止まる。
そこには人影が立っていた。
静かに、ゆっくりとその人影はボクへと手を伸ばしてきた。
その人は白い歯を見せ、ニッと笑った。
手の中にあったのは、湯気の立つスープが入った器だった――
温かい毛布から身体を起こし、眼をこすりながら窓を見やる。
外は晴れ。昨夜激しく降っていた雨はきれいに上がっている。
夢を見ていた。
雨の夜に時々見る……ボクになる前の記憶。
何度も見てきた夢は、飢えること、寒さに震えることの苦しみを、いつも思い出させてくれる。
この夢を見るたびボクは、あの人たちに、チェノさんやミリーさん、コーガさんと出会えたことに感謝するんだ。
さぁ、朝ごはんの準備をしよう。
いつかあの日のスープに追いつけるまで、そしてボクの食療学が、苦しみを一つでも多く消せるようになるまで進み続けるんだ。
著者:英 アタル
販売元:宝島社
(2013-02-09)
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『ドラゴンチーズ・グラタン エピソード0<Il capitolo di Remio> 』
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■レミオ・ビアンカ■
ツィアーノ大陸最大の商業都市『ロイスタ』にある人気の食堂「ヴィーディル食堂」に勤めるシェフ見習いの少年。食と医療の融合「食療学」を勉強中。真面目で勤勉だが、実力は……。
※掲載イラストは、キャラデザのため
完成イラストとは設定等の変更がある場合があります。
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あの日、獣は人間になった。
――雨の音が響く洞穴の中で、ボクはたき火を見つめていた。
――雨の日は決まってそうしていた。
――獣だったから。
――人の心がなかったから、湿った干草の上で動かずいつまでも横になっていられた。
――ただあの日は少し違っていた。
ボクはもう動けなかった。
ひどい飢えと寒さ……そしていっそ切り落としてしまいたいと思うほど、痛む右腕。
たっぷり濡らしたボロ布を右腕に巻きつけて、ボクは死ぬのを待っていた。
ボクは失敗をした。
あのころの……思考なんてものを持たず、本能のまま生きていたボクは、無意識にたった一つ、決まりごとを守っていた。
それは「自分と同格以上の相手と絶対に戦わず、勝てる相手だけを襲う」ということ。
けれどその日に限ってボクは、決まりを破り捨てた。
やせ衰えた身体で、全力で戦った。
そして負けた。
逃げ帰り、たき火をつけて干草の寝床に倒れこむと、力を使い果たしていた身体は動かなくなった。
どんなに飢えていても守っていた決まりを、なぜその日に限って破ったのか……温かそうで赤くて、少し甘い香りのする不思議な水――あのときそんな風に見えたトマトと野菜のスープが食べてみたかった、それは間違いない。
けれど「料理の味」という考え方なんかなくて、腐った生肉さえ平気で口に入れる獣が、あのスープに期待していたのは、味じゃない。
すごく温かそうだったから。
簡単なテントを作り、その中でスープを食べている三人は、獣が見たことのない表情をしていた。
火とは違う温かさを、三人がそれぞれ持っているように見えた。
あのスープを食べたら自分もそうなれるのだろうか、この寒さから逃げられるのだろうか……あの頃のボクの心を、言葉にすればきっとこうなる。
ふと、ぬかるむ道を歩いてくる足音が聞こえた。
いつ止んだのか、雨音はもう聞こえなかった。
足音は洞穴の前で立ち止まる。
そこには人影が立っていた。
静かに、ゆっくりとその人影はボクへと手を伸ばしてきた。
その人は白い歯を見せ、ニッと笑った。
手の中にあったのは、湯気の立つスープが入った器だった――
温かい毛布から身体を起こし、眼をこすりながら窓を見やる。
外は晴れ。昨夜激しく降っていた雨はきれいに上がっている。
夢を見ていた。
雨の夜に時々見る……ボクになる前の記憶。
何度も見てきた夢は、飢えること、寒さに震えることの苦しみを、いつも思い出させてくれる。
この夢を見るたびボクは、あの人たちに、チェノさんやミリーさん、コーガさんと出会えたことに感謝するんだ。
さぁ、朝ごはんの準備をしよう。
いつかあの日のスープに追いつけるまで、そしてボクの食療学が、苦しみを一つでも多く消せるようになるまで進み続けるんだ。
『ドラゴンチーズ・グラタン エピソード0<Il capitolo di Remio> 』 Fine
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『エピソード0<Il capitolo di Atra> 』
『エピソード0<Il capitolo di Valeron> 』 へ、続く。
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ドラゴンチーズ・グラタン 『エピソード0<Il capitolo di Valeron> 』 へ、続く。
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著者:英 アタル
販売元:宝島社
(2013-02-09)
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