dragon_cover_cs5_mihon料理+医療&バトルな、骨太ファンタジー!
ここに始動!!


「いつかこの手で命を救う料理を創り出してみせる!」
「なにか食べると気持ち悪くなっちゃうの……」病気の少女クレアを助けるため、マンドラゴラを求めて旅立つレミオ。シェフ見習いの彼は、食で病気を治療する医学“食療学”を極める夢を抱いていた。しかし、旅先でアイソティアの美少女アトラと、聖獣殺しバレロンの争いに巻き込まれ、封印していった過去を解き放たざるを得なくなり……「風環、形成――  【ヴェルキア器官、起動!】」。

<編集長の隠し玉!>として、
話題のニュータイトル『ドラゴンチーズ・グラタン』の、
キャラクター紹介&エピソード0を、三週連続で公開!

レミオ、アトラ、バレロン、それぞれの
これは現在へ致る物語――――

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『ドラゴンチーズ・グラタン 竜のレシピと風環の王』
著:英アタル/イラスト:児玉 酉



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『ドラゴンチーズ・グラタン エピソード0<Il capitolo di Valeron> 』
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BlogPaint


   ■バレロン・ジャネロ■

   竜神教司祭の家に生まれ育った“聖獣殺し”。
       左目には竜神信仰者が持つキュア=「平和を
   尊ぶ者」の証を加工した眼帯。白虎の毛皮のコート、
   朱の羽根飾り、青蛇革のブーツ――自らが殺めた
   聖獣を身に纏う、妄執に囚われた男。







    ※掲載イラストはキャラデザのため
      完成イラストとは設定等の変更がある場合があります





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 竜神エストよ、血で汚れたこの命をご覧ください!

 ――竜神を憎んだ。

 ――竜ではなく、竜の女神エストを。

 ――誰も救わず、なにも守らない竜神信仰を憎悪した。

 ――だから竜とその信心を侮辱し尽くし、信仰を殺す。

 ――貴女の白い御足を、赤く濡れたこの手で必ずつかむ。
 私は司祭の家系に生まれました。
 大陸で根強い聖獣信仰の最大宗派、竜の女神エスト様をあがめる竜神教。
 その儀式や典礼を代々つかさどってきた家でした。
 幼かった私もまた、大きくなれば祖父や父のように竜神エスト様の教えを人々に説く者・司祭になるのだと思って疑わなかった。
 だが紛争がすべてを変えました。
 争いを仕掛けてきた隣国リストニアの軍隊に、私の村は占領されました。
 リストニア七世は聖獣信仰を危険視しており、占領した町々で竜ではなく自分を崇めるよう司祭と民衆へ強要しました。
 もちろん私の家にも兵士たちは詰めかけ、「民衆に竜神信仰を捨てるように指示しろ」とリストニア七世の命令を伝えました。
 勇敢にも私の祖父と父はこれを拒絶。その反応は、兵士たちにとってみれば予測済みのものだったのでしょう。命令に従わないとみるや、迷うことなく広場に父と祖父、そして竜神信仰者の証であるキュアというプレートを持つ者たちを集めました。
 そして、こともあろうに兵士たちはキュアを持つ者、竜神信仰者に、祖父と父を暴行するように命じました。それを真っ先に拒否した数人は、即座に斬られました。
 私の祖父と父は信者の命を救うため、暴行を進んで受け入れました
 そして何十人もの人から殴打されました。「殴り方が本気ではない」と兵士たちが指摘したので、途中からは鈍器が使用されました。
 十歳そこそこという年齢から黙過された私は、エスト様に二人の無事を祈り続けました。
 ですが、祖父と父は死にました。
 母もその件で心を病んでしまい、自ら命を絶ちました。
 このころだったと、記憶しています……私が神様、という存在に疑問を持ち始めたのは。
 いま苦しんでいる者を救えない神に価値はあるのか? と。
 人々の信仰は、リストニア七世へと移り変わりました――表面上は、と加えましょう。
 聖獣信仰でもっとも大きい竜神教の根は、枯れてはいませんでした。
 竜神信仰者たちは、侵略者の体制に立ち向かおうと私に持ちかけました。
 ともに戦う力をまとめるために、悪しき敵を倒すために、私の力が必要だと言ったのでした、またも勇敢ですねぇ。
 心の奥底に、竜神エスト様への猜疑心が芽生えていた私は回答を保留しました。
 考える時間をもらった私は悩み抜きました。
 司祭としての道、神への猜疑……様々な悩み、葛藤、その中で逃げ出そうともしました。
 しかしそれでは、家族の死があまりにも無意味すぎる。
 ――竜神信仰者たちと一緒に戦おう。
 そう決めた朝のことでした……
 すでに竜神信仰者たちの計画は、リストニア軍に察知されていたのです。
 反抗計画の中心人物に選ばれていた私を、兵士たちが放っておくわけはありません。
 私は逃げることができず、処刑台の用意された町の広場へと連行されました。
 処刑台に吊るされた私は、眼下に見知った顔の竜神信仰者を何人か見つけました。
 私は助けを求めました。
 しかし誰もが目を逸らすのです。
 ――あの人たちは、なんなのだろうか?
 一緒に戦うと言ったではないですか?
 私の力が必要だと言ったはずなのに。
 なぜ黙って見ているのですか?
 自分ではなくて、よかったとでも思っているのですか?
 そうやって……祖父も父も見殺しに?
 見殺し……そう、どこで見ているのですか……エスト様?
 私は貴女に毎日欠かさずお祈りを捧げました。
 貴女はいつでも敬虔な信者を見守り、必ず助けてくれると教えられました。
 なのに貴女は、私の家族を誰一人、救ってはくれなかった。
 そしていま殺されようとしている私も…………きっと守ってはくれないのですね。
 貴女の教えと尊厳を守るため、戦おうと決めた私を……
 いま、生きている者を救えない無力な神など滅びてしまえ……いいや……
 ――――この私が殺す。


 私は全身を貫く鮮鋭な痛みで目覚めました。
 私は大樹の根元に座り込んで眠っていたようです。
 痛みの原因が傍らで恨めしげに、私を見上げていました。
 切り取られた青い大蛇の頭部が、目を見開き、大顎を開いています。
 この一帯に住むものたちが、守り神と崇める青い大蛇の慣れの果て。
 私はこの大蛇に戦いを挑み、かろうじて勝利しました。そして頭部を切り取ったまではよかったのですが、戦いのダメージは重く、木の根元に座り込み…………どうやらそのまま半ば昏倒するように、眠ってしまったらしいです。
 私は、青蛇の顎を無造作につかむと、よろめきながら森の入り口へと歩き出しました。
 ……血の生臭さに当てられたのか、昔の記憶を夢に見てしまいました。
 あの日、私は竜神信仰を殺すと心に決めました。
 竜神エスト様……いまどんな気持ちでしょうか?
 また一匹、神の化身として崇められる聖獣が、ただの汚らしい死骸になりました。
 この青蛇を聖獣と崇める信仰もまた、ここで死んだのです!
 いつかは、貴女もこうやって死ぬのです、私の手によって!
 不愉快でしょう!
 忌まわしいでしょう!
 そう思うならば、いますぐ私を殺しに来てください!
 貴女が私に会いに来てくれるまで、私は聖獣を狩り続けます!
 そうやって力をつけ、いつかは竜を殺します。
 何頭も、何頭でも、殺して侮辱し、貴女への信仰心を根絶やしにしてみせます!
 あの小さくも強大な赤毛の竜も、必ず打ち倒します!

 …………赤毛の……竜?

 頭の片隅で疼く記憶……そこに垣間見えたのは……
 ……灰色の瞳。
 立ちふさがるすべてを噛み千切ってでも、生きようとする意志が鈍く輝く……
 ……はた、と私は左目へ触れました。そこには冷たい硬質の感触。
 左目は眼帯で覆われているようでした。
 なぜ?
 いつから?
 いいや……そんなことはどうだってよいのです。
 エスト様……私の行いによって、貴女が嫌悪で眉をひそめ、唇をゆがめているのだと思うと、興奮で震えてきます。
 ぁあ……実にいい気味です……
 貴女の白いドレスが汚泥にまみれるまで、私は執着し続ける。
 竜神エスト様、愛していますよ。



『ドラゴンチーズ・グラタン エピソード0<Il capitolo di Valeron> 』 Fine
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               最初のお話『エピソード0<Il capitolo di Remio 』は→■


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著者:英 アタル
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