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Disc2 第5話『オリオンをなぞる』



 ある日の放課後のことだ。

 入谷弦人はいつものように五階にある部屋の扉を開けた。
「怪人コマーツめ! 人質を離すです!」
「ぐははは、仮面ワグナー! 貴様の命運もここまでだー!」
「え、ええと、う、うわー、エヴァ先……仮面ワグナー、タスケテー………あの、小松先パイ、ちょっとくっつき過ぎです……」
「そんなこと言われても……監督が決めたことだし……」
「いいわよー、琴音も小松もそのまま、そのまま。琴音の嫌そうな表情と小松のいやらしい顔のおかげで、いい感じよー」
「キョーちゃん、それはイジメではないですか!」
「もう許せません! この仮面ワグナーが成敗してくれます! さぁ、イッツショータイムですよ!」
 颯爽と決めポーズをとる金髪のドイツ人少女。
 鼻眼鏡をかけて対峙する茶髪の男子生徒と、人質設定らしいショートヘアの少女。
 メガホンを掴みながら、偉そうに椅子に踏ん反り返っている女子生徒。
 コホンと弦人は小さく咳払いした。
「すいません、部屋間違えました」
「ちょっと、ゲント! なんで帰ろうとしてるんですか!」
 ドアを閉める前に、仮面ワグナーことエヴァ・ワグナーが足をかける。弦人は仕方なく、部屋のなかへと入った。
「……いつからここはヒーローショー同好会の部室になったんだ?」
「違います! これはわたしたちのPVです!」
「PV?」
「ネットで宣伝する用の動画よ」
 代わりに監督をしていた九条京子が説明を引き継ぐ。
「演奏シーンだけ繋いだのをアップしても味気ないし。やっぱりここは遊び心とか必要じゃない? せっかくエヴァみたいなキャラの立った子もいるんだからさ。そうして議論に議論を重ねて出た結果が……」
「昼休みに、十秒で決まったよね。キョーちゃんの思いつきで」
「う、うっさいわね! いいのよ! こういうのは勢いが大事なんだから!」
「練習の予定もなかったし……面白そうだからやってみようって話になりまして……」
「だからって……」
 なぜヒーロー?
 と弦人が言うよりも先に、エヴァが「まあまあ」と取りなすように近づいてきた。
「安心してください、ちゃんとゲントの配役も考えてあります!」
「そんな心配はしていない」
「ゲントは二号ヒーロー役です! ヒーローのピンチに颯爽と駆けつける、美味しい役どころですよ! バーナビーのポジションです!」
「誰だよ、バーナビーって」
「あ、【TIGER & BUNNY】ですか……?」
「アタシも見てた! アレ、面白いよね!」
「おー、二人も見てましたか! 良いですよね! わたし、劇場版も見に行きましたし!」
 女子三人が異様な勢いで盛り上がり始める。
 弦人はおなじく取り残されている小松孝弘に目を向けた。
「……なんの話かわかるか?」
「いつものアニメの話でしょ? ぼくはよく知らないけど……」
 すると孝弘は急ににやりと口角を上げた。
「まー、このあとの展開は予想つくけどね」
「そうか」
 弦人はなかば諦め気味に答えた。
「俺もだ」
「嬉しいです! まさか【TIGER & BUNNY】トークでこんなに盛り上がれるなんて!」
 エヴァがキラキラとした目で弦人のほうを振り返る。
「この面白さ、ぜひゲントたちにも分かち合ってほしいです!」
「俺は興味ないからべつに……」
「語りたいのです! 最大風速計測不能で語りたいのです! というわけでゲント!」
「……どうしても出さないとダメか?」
「お願いします!」
「はいはい……」
 そう言って、弦人は鞄からMP3プレイヤーを取り出す。アニソン100曲が収録されたMP3プレイヤーを手にし、エヴァは早速スピーカーに繋げる。
「やっぱり【TIGER & BUNNY】と言ったら、この曲ですね!」
 エヴァが再生ボタンを押す。
 その途端、ピアノの音が流星のように瞬き、ドラムがファンファーレのようなビートを刻む。それに続く、パワフルで高揚感に満ちたギターのメロディが響く。
 まるで新たなるヒーローの誕生を祝福するようなバンドサウンド。
 男性ボーカルの声がこちらに呼びかける。

 浮かない顔をしてなにがあったの?
 隠したって無駄さ。
 なんでもお見通しみたいなことを言うなって?
 そんなことより、楽しい話でもしてこうぜ。
 とっておきのおとぎ話があるんだ――。

 そんな風に呼びかけるかのように。
「UNISON SQUARE GARDENの『オリオンをなぞる』、【TIGER & BUNNY】の初代OP曲です!」
 エヴァがテンション100倍の勢いでしゃべり始める。
「【TIGER & BUNNY】はヒーローたちの活躍がテレビ番組になった近未来で、コンビを組まされることになった落ち目のベテランヒーローと期待の新人ルーキーの活躍を描いたアニメで、大ヒットを記録しています。アクションもさることながら、なんと言っても凸凹コンビ二人のかけ合いが本当に絶妙なんですよ。わたしの友人なんか同人誌を何冊も描いてましたし」
「へー、面白そうだね。今度、借りてみようかな」
「ようするに仮面ライダーみたいなやつってことか?」
「というよりも、雰囲気はアメコミに近いですね。2クールのアニメですが、どうせならアニメの序盤を再構成した劇場版から見てもいいかもしれませんね。ちなみに劇場版の主題歌もおなじくこのUNISON SQUARE GARDENが務めてます!」
「ようするにアニメに合ったタイアップ曲ってことか」
「そういうことです!」
「その割には、かなり捻った歌詞だけどな」
「ああ、確かに」
 孝弘も頷く。
「ベースのリズムに合わせてるんじゃないかな? そもそも『オリオンをなぞる』って曲名も不思議だし」
「それ、アタシもよくわかんないのよねー。でも不思議と頭に残るタイトルだし……だっそれにカラオケで歌うと気持ちいいし!」
「なるほど。これもキョーちゃん得意のカモフラージュソングか」
「ちょっと! 勝手に変な名前つけるな!」
「でも……イメージは伝わりますよね……。なんというか……ぐいぐい手を引かれているみたいな……」
「コトネの意見に同感です。この曲が支持されている理由もそこでしょうね」
 エヴァは笑った。
「楽曲も、歌詞も、すべてポジティブなイメージで彩られている……。時にくじけそうになりつつも、市民の平和を守るために駆けずり回るヒーローたちを称えるかのように。特にわたしが好きなのは間奏の歌詞ですね。どんな困難につまずいても、決して挫けない。遥か彼方へ手を伸ばして、飛ぼうとする……」
「あのパート、良いよね。ちょうどコールもあるからさ、カラオケしてると盛り上がるし」
 京子がはにかみながら言った。
「アタシのまわりは【TIGER & BUNNY】を見ている子いないけどこの曲は結構人気あるよ? この曲がきっかけで、アタシもUNISON SQUARE GARDENのほかの曲聴くようになったし」
「実は意外とアニソンに縁が深いバンドなんですよね。【TIGER & BUNNY】以外にも、【夜桜四重奏】OADの曲を手がけてますし。バンドの作詞・作曲を担当しているベース・ボーカルのタブチ・トモヤは声優ソングにも楽曲提供してますしね。トマツ・ハルカの『Q&Aリサイタル』とか」
「でもこの人たちは、アニソンバンドじゃなくて、J‐POP……なんだよな……?」
「もうその二つの垣根はなくなりつつありますからね。少なくとも、【TIGER & BUNNY】とUNISON SQUARE GARDENは完璧に幸せな組み合わせだと思いますよ! なにしろ劇場版の主題歌である『リニアブルーを聴きながら』は、楽曲依頼が来る前から映画用に書き下ろされていたくらいですし。まさにコテツとバーナビーさながらの、最高のコンビです!!」
 弦人は曲に耳を傾ける。

 お互いを信じようとしつつ、なかなか歩み寄れない二人。
 自分たちの志を表せる魔法の言葉を探し求めながら、それでも走り続けている。
 まだ感じたことのない世界を、未来をつかめることを信じて。

 エヴァから話を聞いたせいか、やかましく言い争い合う凸凹コンビの姿が思い浮かんでくるようだった。
「うーん、やっぱり良い曲ねー。いつかライブで演奏したい!」
「だったらさ、ここだけ変則的にボーカル変えるとかどうかな? ほら、本家がベース・ボーカルだから……」
「アンタの歌い方、気持ち悪いから却下」
「そんな真顔で拒否らないでよ! ってか、ぼくの歌聴いたことないでしょ!」
「中学のとき、コーラスしなかったっけ?」
「あ、あれは……、ボーカルの人に強要されたからであって……」
「うんうん! タカヒロとキョーコはきょうも良いコンビぶりですね!」
「コンビと呼ぶには……上下関係ハッキリし過ぎですけど……」
「いいんじゃないか? 小松も楽しそうだし」
 というか孝弘はいつまで鼻眼鏡つけてるんだろう。気に入ったんだろうか。
「でも、京子先パイの言うとおり、ライブで演奏してみたいですね……。あんまり元の曲いじらずに演奏できそうですし……」
「そうですね! そのときにさっきのヒーローショーも披露するという手も……」
「却下」
「そんな一言で!?」
「演奏の邪魔になるようなパフォーマンスは要らん。見られるレベルのものならともかく、あんなの流したら失笑ものだぞ」
「うう、そこまで言わなくても……」
 弦人は肩を竦めながら言った。
「だいたいこの玩具の剣とかおもいっきり会社のロゴが出てるじゃねーか。これじゃ、会社のCMにしかならないだろ」
「……ゲント」
「なんだ?」
「それですよ!」
 いきなりエヴァは叫ぶと、弦人の両肩に手を置いて言った。
「【TIGER & BUNNY】のヒーローたちとおなじように、スポンサーのロゴシールを楽器や服に貼るんです! たとえば商店街の人たちのお店のロゴを貼って、代わりに商店街の人たちにわたしたちのことを宣伝してもらう!」
「おい、エヴァ。そんなこと、できるわけ……」
「面白そうね!」
 弦人の言葉を、京子が遮った。
「行きつけのラーメン屋とか、よくコンサートの案内貼ってるし!言えば、協力してくれるかも!」
「良いんじゃない? あそこの人たち、ぼくらの文化祭ライブ見てくれた人多かったし」
「琴音、自作シールのプリント経験あります……。データさえもらえれば、そんなに手間はかかりません……」
「よし! それでは早速、作戦会議です!」
「おいおい、本気かよ……」
 弦人はアッチコッチを見渡したが、どうやら全員乗り気らしい。深々と弦人はため息をついた。
 このバンドにいると、ちょっと油断した隙に置いて行かれそうになる。
 弦人としてはついていくだけで精一杯だ。
 半信半疑になっている暇なんて、ありはしない。
「大丈夫ですよ、ゲント。ミーティングはさくっと終わらせます! 決して手間は取らせません!」
 そう言って、エヴァは笑った。

「さぁ、ワイルドに行きますよ! ゲント!」

楽曲データ
『オリオンをなぞる』 歌:UNISON SQUARE GARDEN
作詞:田淵智也 作曲:田淵智也 【TIGER & BUNNY】OP
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