特別短編タイトル10










《2》

 八雲菊が家に帰りついた時、そこには魔法少女の客がいた。
「どーもね! はじめまして! トットポップってケチな魔法少女がやって来たね!」
「え? いや、え? な、なに?」
 握手を求められ、なんとなく応じてしまう。混乱した。混乱しないわけがない。大学で授業を受け、バイト先の工場では大重量の干物をいくつも移動させ、営業時間ギリギリの銭湯で汗を流し、その後魔法少女に変身して地域の治安を守るべく活動してきた。具体的にいうと児童公園を中心にゴミ拾いをしてきた。
 くたくたに疲れて帰宅し、あとは布団に倒れて眠るだけだと思っていたのに、なぜかボロアパートのドアは鍵がかかっていなかった。まさか鍵をかけずに家を出たのか、でも盗まれて困るような物ってなにかあったっけとドアを開けるとそこにはギターを横に置き畳の上で正座しているパンキッシュなバンドウーマンがいた。
 これで混乱しないわけがない。
「え? 魔法少女? どうしてここに?」
「管理部門で住所教えてもらったから」
「いやそうじゃなくて鍵かかってたでしょう」
「大家さんとお話ししたら快く鍵を開けてくれたね。暴力的手段は使ってないからご安心」
「ご安心ってそんな無茶な」
「あなたマジカルデイジーでいいのね?」
「あ、はい」
 後ろ手にドアを閉め、変身した。右手にマジカルロッド、腰に花飾り、スカート丈は膝上二十五センチ、かつてアニメとして放映されたこともある――
「おお! マジでマジカルデイジー! いや駄洒落じゃなくて!」
 少女はデイジーの手を取ってぶんぶんと上下に振るい、デイジーは場の空気に流されていることを自覚しながらやんわりと微笑んだ。有名税という言葉がある。アニメになればファンがつく。ファンが多ければ、それだけおかしな人が混ざる。とりあえずサインするなり一緒に写真を撮るなりしてさっさとお帰りいただくのがいいだろう。
「それでその……トットポップさんでしたっけ? 今日はなんのご用で」
 トットポップはデイジーの手を離し、畳の上に平伏した。その流れは制止できないほどスムーズで、舌足らずな日本語に反して彼女は純然たる日本人だったのかもしれない。そうでなければこうも見事な土下座ができるだろうか。
「お願いね! 一緒に組んでバンド活動をして欲しいの!」
「……は?」
 トットポップは畳に伏せたまま顔を上げた。額には畳の跡がつき、頬が紅潮している。
「つい先日DVDでマジカルデイジーを視聴する機会に恵まれたのね」
「ああ、それはどうも」
「そのオープニングテーマにノックアウトされたね! あんな素晴らしいテーマソングがあるかと! 革命的アニメソング! ミラクル! ロジカル! この歌を作り上げたマジカルデイジーなら! きっと素晴らしい曲を作り上げることができる! 確信ね!」
 マジカルデイジーは頭の後ろに手を当て、申し訳なさげにトットポップを見下ろした。
「オープニングテーマって私が作ったわけではないんですよ」
「え? マジで?」
「はい、マジです」
「じゃあ作った人紹介して欲しいね」
「それは私の一存というわけには……管理部門にもう一度問い合わせてみてくださいよ」
「もっかい『魔法の国』に戻って調べ直してもらったりしたら今度こそあのおじいちゃん気を悪くするね」
「そんなこといわれても……」

(三十分後)

「そこで必殺デイジービーム!」
「カッコいー! デイジーサイコー!」
「あ、必殺といっても人に向けたりはしませんからね」
「デイジーやさしー! 超人道主義―! 現代のマザーテレサー!」
「というわけでなんとか事件が解決したんです」
「いやーびっくりね。マジカルデイジー十七話にまさかそんな裏事情があったなんて」
「裏事情というほどのものではないんですけどね」
 手の甲で額を拭った。狭い部屋の中でアクションまで交えて説明したせいで汗をかいている。両隣が留守でなければ確実に壁を殴られていただろう。トットポップの拍手を浴びながら心地良い疲労感に包まれ、ふと思い出した。
「そういえばトットポップさんはなんでここに来てたんでしたっけ」
「マジカルデイジーオープニングテーマを作った人を教えて欲しいのね」
 そういえばそんなことを話していた。熱中し過ぎて忘れていた。
 畳の上で正座をしているトットポップを見た。蛍光灯の安っぽい光を受け、目がきらきらと輝いている。見た目だけではなく、とりあえず悪人ではないらしい。
 ――悪人じゃないなら、いいか。
 大学ノートを一枚破り、そこに連絡先を書き記した。
「あまり無理をいってやらないでくださいね」
「ヒュー! ありがと! デイジーサイコー! 愛してるね!」
 トットポップは紙を受け取るなり疾風のように飛び出していった。デイジーは開け放たれたドアを閉め、小さく微笑んだ。突然トットポップが訪ねてきたらパレットもきっと驚くだろう。連絡ついでに、久しぶりで電話を入れてみようと思った。

◇◇◇

「で、どうしてここに来たんですか?」
「それはその、道順的に回り回ってね」
 魔法少女「トットポップ」は右手の指を一本ずつ立てていった。本人はきっと筋道を立てて話しているつもりなのだろう。
「まずは管理部門でデイジーの住所聞いて、デイジーの所に行ったね。そんでデイジーから紹介されたマスコットキャラクターのパレットんとこに行ったの。でもパレットってば作詞担当しただけなんだって。パレットに教えてもらったんだけど、マスコット仲間で作曲できそうな人に作曲を外注してたそうなのね。で、その外注先はファヴっていう電子妖精タイプのマスコットキャラクターで、これはきっとボーカロイド的な歌姫っぽいあれなんだろうと思ってたらここも違うっていうのね。作曲は『森の音楽家クラムベリー』っていう魔法少女にお願いしたっていうの」
「それで私の所までやって来たと」 

《つづく》

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