koshogai_shoei
現在発売中の
古書街キネマの案内人
おもいで映画の謎、解き明かします
』 

著者の大泉貴先生は大学生時代に映画館でアルバイトをしていた経験があり、そのときの経験が作品にも活かされています。

映画に対する想いや、この作品に込めた思いを書いていただきました。
 

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  10年前、僕は映画館でバイトをしていた。
 有楽町駅から歩いて五分、有楽町マリオンにある映画館、日劇PLEX。現在のTOHOシネマズ日劇である。
 なんで人生最初のバイトをわざわざそれほど時給も高くない映画館にしようと思ったのかはよく覚えていない。
 映画が好きだったからとか、
 週替わりのシフト制だったので大学の講義と時間の調整がしやすかったとか、
 あとは映画館だったら入れ替え以外はそんなに仕事もきつくないのでは?  とか、そういう舐めた動機からだった気がする。
 
 肌に合わなかったらすぐに辞めればいい。
 そんな軽い気持ちで始めた映画館のバイトを結局、僕が小説家としてデビューする2010年までほぼ4年以上に渡って続けた。

 

 じつはこの2006年から2010年という時期は映画館の業界にとっても大きな転換期に当たる時期であり、期せずして僕は一バイトスタッフという立場でその現場に居合わせることになった。

 既存のロードショー館からシネコン体制へ移行し、劇場での働き方にも合理性が求められるようになった。

 それまでのフィルム上映は廃止され、重いフィルムを運ぶことがなくなった代わりに、映写室にはデジタル上映用の馬鹿でかいサーバーが置かれた。

 いまでは当たり前になった3D上映が始まったのもこの時期だ。

「アバター」上映当時の盛況っぷりはいまもバイト仲間のあいだで語り草になっていて、当時は毎回満席状態になるなか、必死に僕たちスタッフは劇場の受付横で回収した3Dメガネのレンズを拭いていた。


 映画館という業界はどんどん刷新を続けている。

 今年の一月、高校時代に通った渋谷シネマライズが閉館し、小さい劇場は次々と姿を消している。

 誤解されたくないので断っておくけど、僕は決してシネコン否定派じゃない。むしろ利便性やサービスの面で、シネコンがもたらしたものは多いと思っているし、新宿バルト9は毎週のように通っている。

 ことさらシネコンを軽視するつもりも、これまでの映画館をやたら感傷的に持ち上げるつもりもない。


 けれどもそれとは別に、昔ながらの映画館を舞台に小説を書くなら、いまこのタイミングしかないのではという気持ちがあった。

 フィルムを上映する映写技師が勤め、受付には映画の雑談に気軽に付き合ってくれるスタッフがいる、そんな映画館。

 僕が働いていた映画館は名画座ではなかったし、映画館としての事情はいろいろ違うけれども、それでも映画館で働いてきた者としての実感や、映画および映画館への恩返しをこめて物語を描いてみたかった。

 そうして生まれたのが、小説『古書街キネマの案内人』である。

 

 読者にとって作家がどんな想いで描いたかなんてまったく関係ないだろう。

 それでもせめて多くの人に本書を手に取って欲しいと思うし、できることなら近所の映画館にもぜひ足を運んで欲しい。

 あのスクリーンに映る光は映画館でしかやはり味わえないからだ。

 そんなわけで長々とここまで書いてきたわけだが、最後に伝えたいのはこの一言。


 映画館はいいぞ。

 

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