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石積みの少女

石積みの少女③(最終章) 著:里田和登 イラスト:先島えのき

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石積みの少女③(最終章) 

著:里田和登 
イラスト:先島えのき

 僕はしばらく大学を休み、部屋の中をのたうち回るだけの生活に入った。
 やがて、この報われない反復行動が、単なる自慰行為に過ぎないことを悟り、
 ある晴れた日のこと、鉱石を抱えて、最寄りの河川敷に向かった。
 ごつごつとした岩がたくさんあり、大きさも申し分ない。
 1つ目の石碑が完成した頃には、空の色は赤と紫のごった煮になっていて、
 いらだちの原因になっていた汗も、すっかり引いていた。
 振り返ると、僕とその隣に、2つの長い影が落ちていた。
 
 僕はその後も、石を積み続けた。
 川べりの岩をめくり上げ、裏側にはりついたかわいそうな生きものを、
 気持ち悪い、気持ち悪いといって、たのしむ子供たちの声が聞こえる。
 この世界でも、鉱石は可能な限りの働きをみせた。
 なぐさめ品として支給できるのは、
 この鉱石にあらかじめ収録されているもの、つまり情報の類に限られるようで、
 10点で得られるはずの机を所望しても、持ち点が減ることもなければ、
 ある日突然(机のようなもの)が降ってくることもなかった。
 この日、12個目の石碑が完成し、僕の持ち点は12点となった。
 高架を通過する、せわしない列車の音を聞きながら、
 ただぼんやりと、12の影を視界に入れていく。続きを読む

石積みの少女② 著:里田和登 イラスト:先島えのき

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石積みの少女②

著:里田和登 
イラスト:先島えのき

 翌日。僕は大学での用事を片付け、少女の星へと向かった。
 ところが、味気ない半球型の住まいに、なぜか彼女の姿が見当たらない。
 それにしてもだ。見回してみて、あらためて思うのが、
 本当に何もない部屋だということ。
 だが、過剰に(何もない)を意識させるわけでもなく、
 この(何もない)状態が、むしろ自然であるような気もしてくる。
 ふと(机のようなもの)の上にある、鉱石が目に入った。
 以前は(机のようなもの)の中央にあったそれが、少し左にずれている。
 何か目的があったわけではない。そうするのもいいかなと思い、僕は鉱石に触れた。
 この前より、扱いが上手くなっているような気がする。
 なぐさめ品の一覧は、僕が並んだ状態で見たいと思えば、
 期待通りに、箇条書きになってくれるし、そうしたいと望めば、
 ばらばらに散らすことも、点数順に並べることも出来た。
 やがて、一覧とたわむれることにも飽きてしまい、
 僕は視界の外れにあった(よくわからないもの)とたわむれることにした。
(よくわからないもの)は、視界の外れにあり、なんだかごちゃごちゃとしていた。
 そういえば、昨日も同じ場所にあったかもしれない。
 頭の中でいじろうとすると、一瞬だけ2つに分かれ、
 すぐにまた、ごちゃごちゃとした何かに戻ってしまう。
 ふと、星との接着を終えた後、少女が次に何を求めるのか知りたくなった。
 するとだ。
 (よくわからないもの)が、少しずつほどけていくではないか。
 (ほどく)を過剰に意識せずにいると、情報は自然とばらけていく。
 現れたのは、2つのなぐさめ品だった。続きを読む

石積みの少女① 著:里田和登 イラスト:先島えのき

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石積みの少女①

著:里田和登
イラスト:先島えのき

 僕は、どこにでもいる普通の人間だ。
 人より賢いわけでもないし、とりたてて運動ができるわけでもない。
 いじめ抜かれたこともないし、誰かをいじめ抜いたこともない。
 また目の前にいじめがあって、心の中では許せない気持ちがあっても、
 何らかの手段で介入できるほどの勇気もない。
 せいぜい自分が次の生贄にならないように、それなりのスタンスを繕うくらいのものだ。
 要するに僕は、そこらへんに転がっている、一山いくらの凡人でしかない。

 10代なる時期は、自分の普通さを、なかなか受け入れられないものだ。
 普通は、そうだ。もちろん、18歳の僕だってそう。
 普通の人間だからこそ、普通であることを受け入れるまで、
 普通に時間がかかってしまうのだ。
 けれど、一度普通さを受け入れると、ずいぶんと心が楽になる。
 自分に期待をしなくなるし、他人に期待をされていないからといって、
 傷つくこともなくなる。
 起きて、食事をして、それなりに勉強をして、排泄をして、床につく。
 きっと、このくだらないサイクルを繰り返しているうちに、
 いつの間にか老いぼれているのだろう。

 そう、思い込んでいたのだけれど。

続きを読む

『石積みの少女』里田和登をブログ掲載!

先日、このライトのベルがすごい!文庫公式サイトにアップしました、
『僕たちは監視されている』の
里田和登先生の新作書き下ろし短編を
『石積みの少女』ですが、
是非携帯でも読みたいというリクエスト多数のため、
本日より、スペシャルブログでも公開することとなりました。
是非、里田ワールドをお楽しみください!

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<石積みの少女>

著:里田和登
イラスト:先島えのき

「人はこうやって距離をちぢめていくのですよね」

ある日、18歳の僕の部屋の天井に穴が開く。
そこからひょっこり顔を出したのは一人の少女だった。
彼女がこの世界にいられるのは、たった7日間。
浮世離れをした彼女と僕の淡く拙い交流。
あっという間に過ぎる日々。
そして、彼女は旅立つ。
あるものをこの世界に残して……。

『僕たちは監視されている』の里田和登が送る、
切なくも、温かい、現代おとぎ噺。


第1回このラノ大賞・金賞受賞作
『僕たちは監視されている』にも
通ずるような、切なく、はかない世界観。

是非ご一読を。。

本編へはこちらから→■

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里田和登既刊作品
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僕たちは監視されている (このライトノベルがすごい!文庫)僕たちは監視されている
著者:里田 和登
販売元:宝島社
(2010-09-10)

僕たちは監視されている ch.2 (このライトノベルがすごい!文庫)僕たちは監視されている ch.2
著者:里田 和登
販売元:宝島社
(2011-01-08)


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