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レディオは背中の圧力伝導フィルムから送られてくる情報を脳内に拡散し、収束させることに全精神を集中させていた。
情報の拡散と収束。
背中に入る情報はサイレント・タンたちがテレビを見ながら、会場から、スタッフルームに忍びこんで、テレビ中継の中継車を傍受して、俺の体の中に埋め込まれた筋電計や、バイタルチッカーからの情報を読み取って次から次へと送ってきてくれている。三十六枚の圧力伝導フィルムから伝わる情報量は莫大で、俺が目にし、聞き、肌で感じる情報と合わせ拡散させ、収束させる。情報は多いほうがいい、大量の情報は外部環境として俺に意志決定をさせていく。
人間には思考による自由意思決定は存在しない、存在してもその選択肢はとても少ない。
人間の行動のほとんどは、外部から入力される情報によって決定される。
人間の行動は環境が決める。
この考えに則るならば外部環境である情報は正しく、洗練されていて、膨大であればあるほど、得られる結果は大きなものになることが約束されている。情報なのだ、精査された情報とそれを理解できる脳内環境と、行使できる肉体、最大の結果を得るために必要なのはそれなのだ。
俺は鎮魂の刃だ、刃であるがゆえに意思は必要ない。与えられた環境に準じ、走り、跳ね、当たり、飛ぶのだ。喉元に届くまで俺は喉元に俺という刃が届くまで走り続ければいいのだ。考えるな、考えろ。委ねろ、委ねるな。自律するな、全てを自律の上に成り立たせろ。矛盾を内包した天秤を丁度平行に保ちながら走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、切っ先が喉元に届くまで。
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