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ランジーン×ビザール テイクトゥ

ランジーン×ビザール テイクトゥ⑨(最終話)

ランジーン002

◆9----------------------------------------------◆

 レディオは背中の圧力伝導フィルムから送られてくる情報を脳内に拡散し、収束させることに全精神を集中させていた。

 情報の拡散と収束。

 背中に入る情報はサイレント・タンたちがテレビを見ながら、会場から、スタッフルームに忍びこんで、テレビ中継の中継車を傍受して、俺の体の中に埋め込まれた筋電計や、バイタルチッカーからの情報を読み取って次から次へと送ってきてくれている。三十六枚の圧力伝導フィルムから伝わる情報量は莫大で、俺が目にし、聞き、肌で感じる情報と合わせ拡散させ、収束させる。情報は多いほうがいい、大量の情報は外部環境として俺に意志決定をさせていく。

 人間には思考による自由意思決定は存在しない、存在してもその選択肢はとても少ない。

 人間の行動のほとんどは、外部から入力される情報によって決定される。

 人間の行動は環境が決める。

 この考えに則るならば外部環境である情報は正しく、洗練されていて、膨大であればあるほど、得られる結果は大きなものになることが約束されている。情報なのだ、精査された情報とそれを理解できる脳内環境と、行使できる肉体、最大の結果を得るために必要なのはそれなのだ。
 俺は鎮魂の刃だ、刃であるがゆえに意思は必要ない。与えられた環境に準じ、走り、跳ね、当たり、飛ぶのだ。喉元に届くまで俺は喉元に俺という刃が届くまで走り続ければいいのだ。考えるな、考えろ。委ねろ、委ねるな。自律するな、全てを自律の上に成り立たせろ。矛盾を内包した天秤を丁度平行に保ちながら走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、切っ先が喉元に届くまで。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ⑧

ランジーン002

◆8----------------------------------------------◆

『さあレースが始まるぜ! 『キング・オブ・デッドラン』が決まる瞬間だ! スタートラインに全四選手が並んだ! 
 第一コース! コーン・ヘッド!!!!! ダッドサン・グッドマン!!!!!
 尖がった頭頂部、変形した頭蓋骨の中に二段の脳を持ち、相互否定型ディベートを永遠と繰り返す生まれながらの鬱系哲学者! 腰仙部にはアクチュエーターとマニュピレーターとしての機能に特化した第三の脳までついているオートマチズムの体現者! 
 二つの脳はどんな鬱系ディベートを繰り広げているのだろうか! 走る前に自殺するんじゃねーぞコーンヘッド!
 第二コース! ケーブル・ガイ!!!!!! コミック・ロドリゲス!!!!!
 脳から頭蓋骨突き抜けて出る無数の極太神経線維を体表に這わせ筋肉に直結! 脊髄反射を無視し完全なる人体マニュアル操作を実現したリミッターカッター! 神経の命令伝達速度を人間の七十倍の速度にまで高めた怪物!
 震えてます震えてます! あまりの脳神経糖質消費量にプロテクターの中にブドウ糖液が仕込まれていつでも補充できるようになっているスウィートガイだ! 瞬発力はピカイチ! 今日もロケットスタート決めてくれよマイヒーロー!
 第三コース! サイレント・タン!!!!! レディオスターゴースト!!!!!
 特徴がまるでないレース運びだが、なぜかいつも上位入賞、ついた名前はゴースト!
 今年度ナンバーワンルーキー!
 もうクラウチングの姿勢に入ってんじゃねーぞルーキー! 観客席に手でも振れよルーキー! 面白くないレースするうえにサービス精神まったくナシ! コケるなよルーキー! 今日ぐらいはしゃげよルーキー! 
 第四のコース! みんなお待ちかね! 復活の貴公子! みんなのアイドル! 今夜の主役はお前で決まりだ! 
 二年前の痛ましい事故から完全復活! 盲目であり音で全てを判断するその鼓膜は潜水艦のソナーより正確で、空気の流れから関節の摩耗音まで捕える驚異の盗聴男!
 ダンサー・イン・ザ・ダーク!!!!!! I・J・フェリオ!!!!!』
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ランジーン×ビザール テイクトゥ⑦

ランジーン002

◆7----------------------------------------------◆

 『ランジーン』のための簡易裁判が行われることとなった。傍聴はできない、裁判期間も短く、一週間以上はかからない。陪審員の三人、弁護士、検察官、裁判官共に『ランジーン』だ。『ランジーン』のための簡易裁判は強姦殺害事件にしては異例の措置だった。それも全て『ランジーン・デッド・ラン』の花形、I・J・フィリオを守るための措置だった。
 弁護側には弁護士が三人、I・J・フィリオの姿はない。
 検察側には検察官、ファウストが座っていた。
 裁判官と裁判長が所定の位置に着席し、裁判が始まる。
「裁判長、検察側は、証言者を呼んでいます。証言の許可をいただきたい」
 ファウストは立ち上がり、証言者の入廷許可を裁判長に申し出る。裁判長は手の甲で顎髭を擦りながら答える。
「検察側の申し出を却下します」
「なぜですか裁判長?」
「検察側から提出された資料の中に、真実とは遠い記載があったからです。神聖な法廷で茶番を演じさせるわけにはいかないですからね」
「茶番? 何を言っているのですか? 裁判長もう一度言います。検察側証人、証言者の入廷と証言の許可をください」
「却下します。検察側の資料によると証言者はサイレント・タンだと記載されています。サイレント・タンはコミュニケーションが他のファミリーと取れません。つまり法廷の場で証言できません、なので却下します」
「裁判長! 我々はサイレント・タンと相互コミュニケーションが取れる方法を開発しています。サイレント・タンとコミュニケーションは正しく取れます。どうか許可してください」
「却下します。サイレント・タンの言語解明ができるようになった? 信用できませんし、そこで得られた証言は証言者の意図とは違う証言に湾曲されて陪審員に伝わるかもしれません。却下します」
「事前に資料でご説明したとおり、レディオ・エステルの開発したプログラムは完璧です。
 つまりは、
 『ラング』(言葉)
  と
 『ジーン』(遺伝子)
  なのです。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ⑥

ランジーン002

◆6----------------------------------------------◆
 
 レディオはPCの前で頭を抱えていた。分からない! 言語が解明できない! 昨日かかってきた電話、ファウストはヒトミ・チャンドラを保護できる期間は三日間、そこまではなんとか伸ばせるがそれ以上は無理だと言った。つまり自分がその三日間の内にサイレント・タンとのコミュニケーション方法を確立し、ヒトミ・チャンドラから証言を聞き出せればI・J・フィリオを追い詰めることができるのだ。逆にいえばそれができなければ、姉を殺した男は無罪となり、姉の事件は犯人が分かっているのに迷宮入りする。
 分からない、時間があれば、手掛かりは掴んでいるのだ、もっとじっくり研究できれば答えに到達できるだろう。しかし今は時間がない、昨晩は一睡もしていないが核心に近づくことは一ミリもできなかった。時間がない、明朝早くファウストとの合流場所に行かなければヒトミ・チャンドラに会うことさえできない、時間がない、時間が!
 何も思いつかない。浮かんでくる法則はすべて試したものばかりだ、新しい情報が必要なのだ! 新しい外的環境が! 答えが導き出られるような外的情報が必要なのだ! タブレットの中の映像を再生する。自分の歌う声と喪服姿のサイレント・タンの男が人差し指を衣服に擦りつけ【神ともにいまして】を歌う映像、姉の葬儀の時の映像だ。
 こんなものは何百回と見たじゃないか! タブレットを壁に投げつける。
 自分の人差し指を動かし【神ともにいまして】を歌う。
 こんなことは何百回とやったことじゃないか! 右手で壁を殴る。
 殴った壁には小さな額縁が掛けてあり、そこには姉と自分の写真が飾ってあった。額縁のガラスが割れ、右手の甲をザックリと切った。
 血が溢れ床に零れ落ちる。痛みより熱さを感じる。近くにあった布を手の甲に当て止血をする。
 何をしているんだ、時間がない、こんなことをしても答えまでたどり着けない。時間がないんだ、明日の朝までしか時間がないんだ、外的情報が、環境が、全てが足りない、何が足りないんだ? 何があれば届くんだ? どんな要因があれば情報は拡散するんだ? どの拡散が答えという収束を生むんだ? 分からない、なんで分からないんだ!!
 血が滴る右手をデスクに叩きつける。右手から血玉が飛び散る。頭を抱え、親指の付け根を噛み、レディオの思考は高速に回り続けるがゆえに全くの停滞を生んでいた。
 涙が出る。悔しくて、悔しくて涙が出る。悔しくて、怒りで、憤怒で、自虐で、負の感情の高ぶりが体を支配して涙が目からボタボタと零れ落ちた。レディオは流れ落ちる涙を無造作に右手に巻かれた血だらけの布で拭き、
 
 布で拭き、ふと、布に書いてる文字に目が留まった。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ⑤

ランジーン002

◆5----------------------------------------------◆

 姉の葬儀はサイレント・タンの保護区内で行われた。基本保護区、自治区には墓地があり、レディオも姉をその墓地に入れることに異存はなかった。レディオはまだこの保護区に住むつもりでいる。姉と最後にすごした家には姉の匂いが充満している。その匂いが抜けるまで、姉を感じられなくなるまで、レディオはその家を出るつもりはなかった。
 よく晴れた朝、葬儀の朝、墓地の墓の前には三人の男と棺、クレーンと作業員が二人。
 レディオの前で牧師が聖書を読み、レディオの横ではファウストが『ブラックベリー』を弄っている。
「――では祈りの言葉を捧げます」
 レディオは目を閉じ首を垂れる。ファウストは『ブラックベリー』をポケットにねじ込み慌てて首を垂れる。
『天にまします我らの父よ・み名をあがめさせたまえ』
「レディオさん、I・J・フィリオですが」
 ファウストは祈りの言葉の途中、小さな声でレディオに語りかける。
『み国を来たらせたまえ』
「やはり買ってますね、彼は炭で染色されたシルクのシーツを買っています」
『み心の天に成る如く・地にもなさせたまえ』
「ヒトミ・チャンドラとも繋がりがあります。二人は四年前恋人関係にありました」
『我らの日々の糧を今日も与えたまえ』
「異常性癖の裏も取れました。レイプされたコールガールが、ニードルを腕と太腿に刺されたと証言しています」
『我らに罪を犯す者を我らが赦す如く我らの罪をも赦したまえ』
「それと、これは推測ですが、彼、今回が初めてではないと思います。サイレント・タンがここ三年で四人、行方不明になったり死体で発見されています。発見された死体にはニードルで刺された痕跡があります」
『我らを試みに遭わせず悪より救い出したまえ』
「I・J・フィリオ、あれは黒です」
『国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり』
「必ず捕まえます」

『アーメン』
「アーメン」続きを読む

ランジーン×ビザール テイクトゥ④

ランジーン002

◆4----------------------------------------------◆

 身元確認のため姉の死体を見たレディオは涙も出なかった。そこにあったのは姉とは似つかわしくもない肉の固まりで、この固まりを姉と思うことはレディオにはできなかった。
 上肢は肩関節、肘関節、手関節を強い牽引力で割断され、割断された器官は絞り込むような捻じれの力によって捻転されている。
 下肢は股関節、膝関節、足関節を強い剪断力によって解離させられ、解離した器官は上下からの圧力により粉砕している。
 体幹には直径二ミリほどの穴が数百と空いている。出血の痕からまだ生きている間に太い長さ十五センチほどのニードルで体幹を数百回と突き刺されたことが分かっている。
 そして右手の人差し指、ミライザが唯一体の外に内部情報を発露できる器官が毟り取られている。
 レディオは姉がどのように殺されたのかを検死官から説明された。数十回と顔面部を殴られ、逃げたり、抵抗する意思をそがれレイプされる(精液は検出されていない)。レイプされたまま、体に何百回とニードルを刺される(死亡原因はこの時ニードルが肝臓門脈に刺さり、出血多量によるショック死)。まだ生きているうちに数十ヶ所を噛まれ、引き千切られる(引き千切られた肉片は発見されておらず、犯人が食べてしまったものと考えられる)。死亡した後犯人は上肢を関節ごとに引き千切って捻じり、下肢を関節ごとに引き千切って潰す。
 なんだこれは? レディオは説明を受けながら、姉におきた恐怖を少しずつ受け入れ始めていた。姉の死体を見た時はあまりに直接的過ぎて理解できなかったが、言葉として整理されて、情報として入力された真実はあまりに残虐で悲劇ではなく完全にホラーだった。
 警察署の廊下の長椅子に腰掛けレディオは床を見つめていた。まるで何も考えられない、この先のこと、この先何をすればいいのか、まるで何も考えられない。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ③

ランジーン002

◆3----------------------------------------------◆

 サイレント・タン。ミライザ・エステルの変わり果てた姿がそこにあった。

 サイレント・タン、言葉を必要としない『ランジーン』。
 彼らは情報をアウトプットする時、言葉を使わない。空気を振動させない。すべて右手人差し指で何かをなぞることによってのみアウトプットされる。二十四時間、睡眠中も人差し指は動き続け、三センチ角の平面に、彼らでしか理解できない言語サインで、永遠にアウトプットされる情報はいまだ解明できず、彼らの中でしか理解されない。
 ファミリーの中でしか彼らの出す情報は解読できず、ほかの『ランジーン』、まして人間とは意思の疎通をとることができない。
 レディオは姉の発する情報を、感情の発露を全く理解することができなくなっていた。
 医師との面談、レディオの感情は爆発した。
「サイレント・タン? 『ランジーン』? ふざけるな! 姉さんはもう成人しているのだぞ! 成人してからここまで完璧な『ランジーン』になることが可能なはずはないだろうが!」
「そう言われますがこれが現実なのですよレディオさん」
 医師はMRIと脳CTの画像をデスクの上のモニターに表示しながら冷静に言い放つ。
「お姉さまの脳はこの画像から見ても完全に『ランジーン』です。つまりは感染と発症、このタイムラグだと私は考えています。お姉さまはもうずいぶん前から『ランジーン』、サイレント・タンだったのでしょう。サイレント・タンでありながら、人間として暮らしてきたのでしょう。
 このような事例を見ることは私も初めてなのですが、感染症にはよくあることですよ。つまりはキャリア、お姉さまは『ランジーン』キャリアだったのです」
「ふざけるな!」
 レディオは怒りに任せ医師のデスクに拳を叩きつけるが医師は無表情で電子カルテを立ち上げる。『ランジーン』申請書。医師は一枚の紙をプリントアウトしレディオの前に差し出す。
「これが申請書です、診断結果を書き込んでおきましたので二十日以内に行政機関に提出してください」
 レディオは申請書を医師の手から奪い引き裂いて投げ捨てる。
「ふざけるな!」
 医師はため息をつき、今までかけていたメガネをはずす。椅子に深々と座り直し足を組み左手で拳を作り顎に当てる。立ち上がり憤るレディオを下から見上げ、蔑むように言葉を放つ。
「ではどうするのですか? あなたは何を望んでいるのですか? お姉さまは『ランジーン』だ、これは紛れもない事実なんですよ? これは私のせいですか? それとも誰かほかの人間のせいですか? 違うでしょう? 現実を見てください。あなたがいくら憤っても現実は変わらないのですよ? あなたのお姉さまミライザ・エステルは『ランジーン』になった。これは事実です。抗いようもない事実なんです」
 レディオは泣きながら膝から崩れ落ちた。
 レディオは姉の治療を懇願したが受け入れられなかった。
 治療以外『ランジーン』から人に戻る方法はない。
 しかしミライザはこの治療を受けることができない。アメリカ合衆国では治療は法律で禁止されている。「『ランジーン』には『ランジーン』である権利があり、これは何人たりとも拒むことはできない」これは「『ランジーン』保護とその人権の保障についての法律」の最初に書かれている一文で、これにより『ランジーン』は『ランジーン』であることを拒めなくなった、家族でも、親子でも、恋人同士でも、自分自身でも。
 ミライザは海外でも治療を受けることができない。ミライザは感情の発露をファミリー内でしか行うことができない。ミライザの右手人差し指から発せられる情報をサイレント・タンしか理解できないからだ。海外で治療を行うには本人の意志確認が必ず必要で、ミライザの意思確認はサイレント・タンしかできず、サイレント・タンはサイレント・タンとしか情報交換できないため誰もミライザが治療を受けたいのかどうか確認する術がないのだ。だからミライザは治療が受けられない。
 ミライザを『ランジーン』から人間に戻す方法はないのだ。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ②

ランジーン002

◆2----------------------------------------------◆
 
 ミライザ・エステルはよく働く女だった。朝はコーヒーショップでウェイトレスをし、夜は0時まで車の製造工場でプレス機械の前に立っていた。
 ミライザがよく働くことには訳がある。
 ミライザには両親がいない、生活保護と奨学金でハイスクールは卒業できたがお金がかかる大学進学は諦め働くことを選んだ。両親がいない理由はたいしておもしろい話ではないのでここに記することはない、それより重要なこと、彼女がなぜよく働くのか? その答えは彼女の一人だけの家族、八歳離れた弟レディオ・エステルが天才児であることに由来する。
 レディオは天才児だった。八歳の時に小学校の過程を全て終了し、十二歳のときには大学入学を果たせるだけの単位を全て取得していた。大学では情報処理技術と言語解析を専攻し、いくつかの論文は科学系雑誌でも取り上げられ、デトロイトの低所得者層から出た天然物の天才と一部では持て囃されたりもした。
 ミライザはレディオが大好きだった。いつもパソコンの前でキーボードを打っている横顔が知的に見えて大好きだった。生意気な口ぶりで食事の最中に情報の拡散と収束について熱弁する口元が可愛くて大好きだった。頭のいい弟がいて誇りだったし、レディオを扶養していることに心から優越感を抱いていたし、なによりレディオが毎日、自分のベッドに潜り込んで胸に顔を埋め、スヤスヤ寝息を立てるその瞬間が大好きだった。スヤスヤ寝息を立てるレディオの生を感じると、こんなに可愛らしい生き物がこの世にいていいのかと、自分の手元にいていいのかと、こんな幸運の中にいていいのかと、幸せを感じすぎて恐怖するほどだった。
 だからミライザはよく働いた。朝から深夜まで、少しでもレディオにいい暮らしをさせたいと、彼の才能が、輝かしい未来が、その強い自尊心が、貧困によって奪われることがあってはいけないと、彼女はレディオのため朝も夜も毎日毎日レディオのために働いた。
 ミライザ・エステル、彼女はよく働く女だった。
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ランジーン×ビザール テイクトゥ①

ランジーン002

ランジーン×コード・インスパイテットストーリー
ランジーン×ビザール
テイクトゥ


ランジーン・デッド・ラン


◆1----------------------------------------------◆

「それじゃ今日もはじまったぜオーディエンス! 月一回のお楽しみ! 荒れ狂う暴力と興奮とアドレナリンと異能バトルの一夜がやって来たぜ!
全てのシーンがクライマックス! 
瞬き禁止のハイスパットバトルエンターテイメント! 

『ランジーン・デッド・ラン』!!!!!!!!!!!!

この放送はTKJ全てのキー局を通じて全米中に生放送だぜ!
始まったら全てがクライマックス! CMあけたらTVから目を放すなよ!」

選手控室でテレビ映像を垂れ流しながら、それでもレディオスタは集中していた。
背中一面に貼られた三センチ角の圧力伝達フィルムから来る三十六個の圧力情報を全て理解し、その全てを総合し結論を出す。レディオスタはその作業に集中していた。
『ランジーン・デッド・ラン』
『ランジーン』の中でも規格外の身体能力や特殊能力を持つファミリーから選抜された猛者たちが、最上の『ランジーン』を目指し競い合う全米最大のショウ。その今年一番の注目レース『キング・オブ・デッド・ラン』、毎月行われる予選でポイント上位四名により競われる年間チャンピオンを決めるレース。レディオスタは『キング・オブ・デッド・ラン』の選手控室で背中からくる情報を理解し総合し結論を出す作業に集中していた。
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ランジーン×ビザール プロローグ

ランジーン002

◆プロローグ----------------------------------------------◆
 アマンダ・テールノーズは声を聴いた。朝起きて顔を洗い、歯を磨いて鏡を見た瞬間の出来事だった。
 聞いた声の内容は口では言い表すことができない、しかしアマンダ・テールノーズはその声の内容を理解した。ああそうなのかと思った。私は選ばれたんだなと思った。
 私は改変のため選ばれ、死ぬのだなと。
 そして声が止んだ時アマンダ・テールノーズは精神的に消失していてそこには改変のために作られた言葉の獣『ラビット』だけが存在した。
 改変のために作られた言葉の獣『ラビット』。
 彼女はほかの『ランジーン』とは全く違う。
 彼女は『イゲンシ』を増やし種を拡張するための存在ではない。
 彼女は自己以外の『ラビット』を望まない。
 彼女の脳に、DNAに『イゲンシ』に記憶されている使命は一つだけ、

『…………の国を作りなさい』

 そう、彼女は特殊な存在、改変の獣、種の生存戦略を放棄したそれこそ生命体である存在意義を放棄した存在。
 それだけに意義ある存在。
 アメリカ合衆国『ランジーン』社会を作った最初の『ランジーン』は、厳密に分類すれば種を拡大させる生物の根幹を失っている時点で『ランジーン』ではなかった。
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