このライトノベルがすごい!文庫 スペシャルブログ

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僕と姉妹と幽霊の聖夜

僕と姉妹と幽霊の聖夜③

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 安田さんの軽い口によって、藍子とクロが言い知れぬ関係だと噂が流れてしまった。もう学校に行きたくないとか思ってる間に、冬休みに突入した。休みの間に、変な噂も消えているだろうと楽観的に考えるしかない。とにかく今は白い目から解放されて、ほっと一息だった。
 その日、クロが唐突に緑池の存在を思い出したのは、今日が緑池のこだわっていたクリスマスイブだったからだ。
 あの事件以来、腹が立っていたのもあり、緑池に会いに行ってなかった。
 昼下がり、クロは上着を着込んで部屋を出た。階段を下りて、玄関へとたどりつく。
 気は重いが、様子は気になる。
 聖夜にこだわっていた彼が、ずっと一人でその日を過ごすのはやはり寂しいだろうと思う。
 玄関の上がり口に座って、もそもそとスニーカーを履く。その手つきはやはり緩慢になってしまう。とことん付き合うと決めたが、自分が行ったところで、結局彼の願いは叶えてやれない。
「お兄ちゃんどこ行くの?」
 背後から声をかけられて、クロはびくりと背筋を伸ばした。
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僕と姉妹と幽霊の聖夜②

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 翌日の学校が終わった後、クロはカバンを持って、再び『呪いの泉』へと足を運んでいた。
 並ぶ木々はすっかり葉を落とし、乾いた土の上には枯葉が一面に敷き詰められている。クロは無言でざくざく枯葉を踏み分けて、目的の場所へと向かう。
 昨日と変わらずに陰気な雰囲気をかもしだす、池の淵に立った。
 空気が冷たくて、頬が凍りつきそうだった。巻いていたマフラーに顔半分を埋め、半眼に池を見下ろす。
「いるんだろ、緑池」
 クロが言うと、幽霊の緑池が、池の中ほどからむくりと姿を現した。
 緑池はどんよりと黒雲を背負ったような表情で、昨日最初に見かけた時より、更に陰鬱な雰囲気だ。
「……藍子さんは?」
 生気のない瞳が、それでもきょろきょろと周囲を探る。クロは深く白い息を吐き出した。
「俺だけだよ」
「じゃあいいや。さよなら」
「オイオイちょっと待てって。成仏の手伝いするって言っただろ?」
 背中を向けて池の中へと戻って行こうとする幽霊の男子を、クロは慌てて呼び止める。そうすると、恨みがましい視線だけが振り向いてきた。
「藍子さんがいなきゃ、成仏できない。藍子さんを連れてきてくれよ」
 クロは頭をおさえ、再びため息をついてしまう。
 昨日あっさり藍子に振られた緑池は、どうやらまだ藍子に固執している様子だ。しかし昨日あれだけキッパリと拒絶の意志を示した藍子を、この場に連れてくるのは難しいだろう。
「藍子さんは、来ない」
 だから事実をそのまま伝えるしかない。
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僕と姉妹と幽霊の聖夜①

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 どこにでもある『学校の七不思議』。それは星霊学園にも存在している。
 その一つに、『呪いの泉』と呼ばれるものがある。
 広大な面積を誇る学園敷地内の、ひとっこ一人も寄り付かないような外れ、欝蒼と茂る雑木林に深く立ち入って行くと、その泉はある。泉というより、濁った池だか水溜りという呼称がふさわしい。
 噂はよく耳にしていたが、実際目にしたのは始めてだった。
 整備されている様子もない。緑色の水藻がユラユラと日陰の池前面を覆っているので、魚一匹の姿も見えない。
 このうっすら不気味で寂れた場所が、『呪いの泉』などと不穏な呼び方をされている所以はというと……

「す、好きなの……っ! 結城君!」

 七不思議について巡らせていた思考、要するに現実逃避を遮られ、『呪いの泉』を背にして立つ結城クロは、力なく顔を上げた。
 クロの目の前で頬を染め、潤んだ瞳で見上げてくるのは、この場所に似つかわしくない華やかな雰囲気の女生徒だ。
 クロとしては返す言葉も見つからず、つつつー、と目を泳がせるしかなかった。
「ほらぁ、もうすぐクリスマスでしょぉ? 彼氏作っとかなきゃ寂しいしぃ、結城君最近競争率低いから狙い目かなぁってぇ」
 期末テストも無事に終わり、冬休みを目前に控えた今日この頃。
 空気が凍えるように冷たい中でも、目の前に立つ彼女の頬は熱く火照り、くねくねと身をよじらせている様は全く寒さを感じさせない。
 自然にがくりと、肩が落ちる。
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特別短編『僕と姉妹と幽霊の聖夜』公開!

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『僕と彼女と幽霊の秘密』の発売を記念して、
喜多南先生による特別短編
スペシャルブログで公開します!

クリスマスの星霊学園を舞台にした、コミカルなショートストーリー。

現実とはちょっと時期がズレてしまいましたが、
第1作『僕と姉妹と幽霊の約束』と、第2作『僕と彼女と幽霊の秘密』の
間のお話となります。

今回クロたちはどんな幽霊と出会い、どんな騒動が巻き起こるのか?
ちなみに第2作を読んでなくても大丈夫ですよー。


それでは、さっそくこちらからどうぞ!

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僕と彼女と幽霊の秘密 (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫 き 2-2)僕と彼女と幽霊の秘密
著者:喜多 南
販売元:宝島社
(2012-01-13)




僕と姉妹と幽霊の約束 (このライトノベルがすごい!文庫)
僕と姉妹と幽霊の約束
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(2011-09-10)




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