安田さんの軽い口によって、藍子とクロが言い知れぬ関係だと噂が流れてしまった。もう学校に行きたくないとか思ってる間に、冬休みに突入した。休みの間に、変な噂も消えているだろうと楽観的に考えるしかない。とにかく今は白い目から解放されて、ほっと一息だった。
その日、クロが唐突に緑池の存在を思い出したのは、今日が緑池のこだわっていたクリスマスイブだったからだ。
あの事件以来、腹が立っていたのもあり、緑池に会いに行ってなかった。
昼下がり、クロは上着を着込んで部屋を出た。階段を下りて、玄関へとたどりつく。
気は重いが、様子は気になる。
聖夜にこだわっていた彼が、ずっと一人でその日を過ごすのはやはり寂しいだろうと思う。
玄関の上がり口に座って、もそもそとスニーカーを履く。その手つきはやはり緩慢になってしまう。とことん付き合うと決めたが、自分が行ったところで、結局彼の願いは叶えてやれない。
「お兄ちゃんどこ行くの?」
背後から声をかけられて、クロはびくりと背筋を伸ばした。
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