このライトノベルがすごい!文庫 スペシャルブログ

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緋い三角関係

緋い三角関係③

特別短編ロゴ3


「――で、これは、何?」
 時間は過ぎ、陽もだいぶ沈みかけたころ。
 調理室ではようやく緋色の前に、二つの料理(?)が並んだ。椅子に腰掛けてその物体を見下ろす緋色は、珍しく頬がひきつっている。
「えへへ、緋色先輩! 私頑張りましたッ☆」
 葵は得意げな表情で胸を張っている。
「緋色せんぱいが元気になれるように、心をこめました」
 桃果は誠実な表情で、胸に手をあててつむぐ。
 黄はその二つの物体Xを、緋色の横に立って見遣ってみる。
 まず、葵の作った料理。何やら黄色いものが団子状に丸まってお皿にのっかっている。一応は料理としての体を為してはいるが、何を作ったのかは不明だ。
「カルボナーラです!」
「どこが?」
「え? どっからどう見ても、カルボナーラですよ! 卵がちょっと固まっちゃいましたけどぉ」
「卵が固まったとか、そういうレベルの塊じゃないと思う」
 どうやら彼女は調理部所属でありながら、料理に関して相当な素人のようだ。 緋色は青ざめ、二つの料理を見下ろしたまま完全に硬直している。その様子を、期待の眼差しで見つめる葵と桃果。
 黄は緋色が不憫になってきた。個性的な後輩を持つと、苦労するんだなぁ、と思った。
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緋い三角関係②

特別短編ロゴ3


 それは、入学直後のこと。
 私、渡瀬葵は、友達になった理沙ちゃんに誘われて部活見学に足を運んだ。まだ部活見学期間ははじまっていなかったけれど、理沙ちゃんはどうやらもう入る部活を決めているようだったので、それの付き添いでついていったの。
 その部活は、『調理部』。
 私はどっちかというと運動が得意だったし、包丁なんて一度も握ったことがない。ぶっちゃけ料理に興味はなかった。けれど理沙ちゃんが一人で行くのが緊張するというので、仕方なく。友達付き合いって大切だよね。
 私たちは二人で並んで教室を出て、校内をトコトコ歩いて調理部の前についた。
 入学して間もないし、まだ授業でも調理室を使用したことがない。この閉じられたドアの向こうに、見知らぬ先輩たちがいるかもしれないことを思うと、緊張で体がピリピリして、身動きが取れなくなった。
 理沙ちゃんも私同様に緊張しているのか、少しの間、二人してドアの前に立ち尽くしていたの。
「あ、開けるよ理沙ちゃん」
「う、うん」
 私は意を決して、ごくりと喉を鳴らして一歩前へと踏み込んだ。
 ドアは――私が手をかける寸前で、ガラリと開いた。驚いた。
 自動ドアだったのか? と思うほど絶妙なタイミングで開いたドアの向こうには、一人の女生徒が立っていたの。
 あまりの衝撃で、めまいがしたのをよく覚えている。
 視界に飛び込んできたのは、高い位置で一本に縛った髪。
 制服の上にエプロンを着用して腕を組んでいるその人は、スカートから伸びるきれいな両足で仁王立ちをしていた。
 私が今まで見たことないくらいキレイに整った顔を険しく歪め、鋭い瞳が真っ直ぐ見つめてくる。
 その眼差しに、突き刺された気分だった。
 頭の中が真っ白になって、身動き一つできなくなってしまった。
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緋い三角関係①

特別短編ロゴ3


 四月なかばの、ある日のこと。
 結城黄は、放課後の星霊学園高等部へと、いつものごとく侵入していた。
 この春、黄もめでたく中学三年生となった。バスケ部所属も変わっていない。しかしまだ数日前に負った怪我が完治していないので、部活を休むように顧問に言われ、暇を持て余した黄は高等部に遊びにやって来たのだ。
 中等部の生徒が高等部に行くことは、特に禁止されていない。しかし黄のように当たり前に歩きまわっている中学生は、そうそういないだろう。
 黄の足取りは堂々とし、慣れたもの。いまだ鼻の頭に絆創膏は貼ってあるが、身体にはもう痛みは残っていないので、動きは軽々としている。
「ふんふふ~ん、もかちゃん、もかちゃ~ん♪」
 微妙に音程を取りながらの鼻歌で、目的の人物の元へ向かっている。いつにも増してご機嫌だ。
 すっかり桜も散って寒さも緩み、上着がいらなくなるくらい暖かくなってきた。心地よい気温で、黄の表情も緩みきっている。
 校庭を横切り、高等部校舎の昇降口にたどりつくと、わざわざ手で持ってきた上履きへと履き替え、いそいそ階段を上がっていく。通りすがる生徒たちが謎の中学生の出没にぎょっとしているが、その視線にも慣れている。黄は構わず、三階を目指す。
 小谷桃果はそこにいるはずだ。
 小谷桃果とは、黄がつい最近知り合った高等部一年生の女生徒である。メガネをかけ、おどおどした大人しい女の子で、しかし意外に芯が強いことも知っている。その桃果を巡っての事件が一段落したばかりであり、彼女の様子を見に行きがてら、一緒に遊ぼうというのが黄の目的だった。
「よっと」
 階段をのぼりきり、三階へと到達。
 長い廊下へと続く曲がり角を折れようとしたところで、その曲がり角で立っている女生徒に目が留まった。
「んー?」
 コソコソ身を隠して、曲がり角の先を覗いている様子の女子。あきらかに不審である。
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特別短編『緋い三角関係』公開!

特別短編ロゴ3


『僕と彼女と幽霊の秘密』の発売約半月を記念して、
またまた喜多南先生による特別短編
スペシャルブログで公開します!

今回は、『僕と彼女と幽霊の秘密』の物語の、ちょっとだけ後のお話。

黄と緋色、『秘密』の新ヒロイン桃果、それにもう一人が登場します!
ちなみにクロはお休みです。
果たして今度は、どんな騒動が巻き起こるのか?

それでは、さっそくこちらからどうぞ!

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僕と彼女と幽霊の秘密 (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫 き 2-2)僕と彼女と幽霊の秘密
著者:喜多 南
販売元:宝島社
(2012-01-13)




僕と姉妹と幽霊の約束 (このライトノベルがすごい!文庫)
僕と姉妹と幽霊の約束
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