「――で、これは、何?」
時間は過ぎ、陽もだいぶ沈みかけたころ。
調理室ではようやく緋色の前に、二つの料理(?)が並んだ。椅子に腰掛けてその物体を見下ろす緋色は、珍しく頬がひきつっている。
「えへへ、緋色先輩! 私頑張りましたッ☆」
葵は得意げな表情で胸を張っている。
「緋色せんぱいが元気になれるように、心をこめました」
桃果は誠実な表情で、胸に手をあててつむぐ。
黄はその二つの物体Xを、緋色の横に立って見遣ってみる。
まず、葵の作った料理。何やら黄色いものが団子状に丸まってお皿にのっかっている。一応は料理としての体を為してはいるが、何を作ったのかは不明だ。
「カルボナーラです!」
「どこが?」
「え? どっからどう見ても、カルボナーラですよ! 卵がちょっと固まっちゃいましたけどぉ」
「卵が固まったとか、そういうレベルの塊じゃないと思う」
どうやら彼女は調理部所属でありながら、料理に関して相当な素人のようだ。 緋色は青ざめ、二つの料理を見下ろしたまま完全に硬直している。その様子を、期待の眼差しで見つめる葵と桃果。
黄は緋色が不憫になってきた。個性的な後輩を持つと、苦労するんだなぁ、と思った。
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