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第2話『COLORS』
ある日の放課後のことだ。
入谷弦人は、五階にある軽音楽部の元部室の扉を開けた。
「あり? 入谷が来た」
素っ頓狂な声を出したのは、部屋に一人でいたセミロングの女子生徒だ。
勝ち気そうな瞳と、口元から覗いた可愛らしい八重歯が特徴的な彼女の名前は九条京子、弦人が所属しているアニソンバンドのドラム担当である。
「珍しいわね、アンタが用もないのにここへ来るなんて」
「そうか? わりと来ているほうだと思うが。もともとここに入り浸っていたのは俺だし」
「ははは、それもそうね。にしてもいま考えてみれば贅沢な話よね、この部屋を一人で占有するなんて」
「大人しく明け渡してやっただろ、文句を言われる筋合いはない」
「なんでアンタはいつも無駄に偉そうなの……。あ、ちょっと待って」
京子は鳴りだした自分の携帯電話を取り出し、着信に応じる。
「ハイハーイ、沙希? うん、いま部室。どしたの? え? あー、貸してた数学の教科書ね。いいよー、明日でも。……課題がわからないから教えてくれ? アンタねー……。わかった、いまそっちに行くから。うん、うん。それじゃ」
電話を切ると、京子は鞄を持って立ち上がる。
「つーわけだから、ちょっと出てくるわね」
「そうか。お前も大変だな……」
「まー、このポジション、アタシはけっこー気に入ってるからね。んじゃ、また」
京子は不敵に笑って見せてから、扉を閉めて出て行った。続きを読む