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谷 春慶

『神☆降臨!』発売記念! プロローグ全公開!

「モテ泣き」シリーズの谷 春慶による、新作!



著:谷 春慶/イラスト:崎由けぇき
 
理不尽神話系修羅場コメディ、

絶賛!発売中!


konorano_kamikourinn

さて。『神☆降臨!』が、どんなお話しかというと
――――→

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平穏な人生を夢見て、日夜勉学に勤しむ主人公・山田。
だが、彼の日常はあっけなく崩壊した……それも、ギリシア神話の主神・ゼウスのせいで……

「俺の●んこを取り戻してこい。
 ダメだったら、オメーのもらうから」。

処女神・アテナ&腹黒フクロウ・ミネルヴァ、
セクハラ同級生、
天然系幼馴染み、
そして同級生を巻き込んで、
まったく参加したくない●んこ奪回一大修羅場が今勃発!

「何を言っているかわからないだろうが、
 僕だって意味わかんねーよっ!」
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……理不尽な神々に振り回されるコメディです。●んこだけど。
……ギリシア神話に詳しくなります。●んこだけど。
……学園パニック物といってもいいかも? ●んこだけど。
……オレTUEEEE!ではないかな? ●んこだし。 

まぁ、ブレーキってナニソレ美味しいの? そんな話です。
そんな、『神☆降臨!』のプロローグを全公開!

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神☆降臨!
ロンギヌスの槍は銃刀法にひっかかりますか?より

 朝起きたら、昨日捨てたはずの聖槍が刺さっていた、僕の部屋のフローリングに……
 長さは二メートルくらいだろう。
 柄は木製だけど、太刀受けにはからまる蛇のような装飾があり、石突きには赤い宝石がつけられている。種類としては、三又になっている変形的な十文字槍だ。中央の穂先は透明な水晶のような材質なのだろうか。湖面に浮かぶ虚像のように、黒髪でパッとしない僕の顔を映していた。
 イエス・キリストを処刑した槍、ロンギヌスの槍である。
 ただの男子高校生でしかない僕、山田白金の部屋に本物の聖槍があるはずないって誰だって思う。僕だってそう思う。でも、これはガチで本物だ。本物である証拠として、うっすら金色のオーラを発している。
「はは……」
 かわいた笑いがこぼれてしまった。昨日のことを思い返すと、気分がはげしく落ち込むんだけど、槍のオーラが僕のメランコリックな気持ちを強制シャットアウトしてくれた。
 あはは、槍の聖なる力で心が洗われるようだ。今日も前向きに生きていける。
 そのままベッドからおりて背伸びをし、カーテンを開けた。
 雲一つない、いい天気だった。そんな僕の背後には、日光を浴びてうっすら輝く聖槍ロンギヌス。落ち込みたいのに落ち込めないのって、ちょっと不思議。このまま強制ポジティブシンキングで現実逃避してもいいかな?
 ま、いいわけないっすよね……
 あらためて床に刺さったロンギヌスの槍へと視線を戻した。やっぱり光ってる。
 おかしいな、昨日の夜、ゴミ捨て場に捨ててきたはずなのに、どうしてここにあるんだろう? しかも、ガチで本物の聖槍だし……たしか、ロンギヌスの槍って手にした者に世界を総べさせるとか、そんな伝説あったよね?
「うわぁ……」
 マヂでいらねぇ。
 僕はカール大帝やナポレオン、アドルフ・ヒトラーとか、そういう覇王思考の方々みたいに聖遺物集めて、世界征服するつもりありません。そして敬虔なキリスト教信者でもありません。普通の男子高校生です。聖槍より平穏と安定がほしい。そして心おだやかに生きていきた……ああ、聖槍の厳かな輝きを見てると、全ての悩みはどうでもいいことのように思えて……いやいや待て! これ、完全に心のお薬じゃん。ナチュラルにマインドコントロールかましてきてるじゃん。なんか、おっかねぇよ、この聖なる輝き!
 こんな得体の知れない槍を、このまま床に突き刺しておくわけにはいかない。引き抜こうと槍をつかんだ瞬間、手と槍の境界が消えたような錯覚を覚えた。手になじむ……
「ていっ!」
 槍を引っこ抜き、そのままベッドに放り投げ、布団をかぶせた。でも、穂先と石突きが布団からはみだしてるし、【オイテカナイデ】って悲痛に叫んでるように輝きが増して……
「プーちゃん! 朝だよ、起きなよ!」
 甲高い声とドタドタと階段をかけあがってくる音が聞こえたかと思えば「きゃぁぁ」と叫び声が響いた。続いてドドドとなにかが階段を落ちていく音が聞こえてくる。
 またかよ、と呆れていたら、部屋のドアがゆっくりと開いた。黒髪ロングの女子高生が、匍匐前進するように這っている。呪いのビデオから出てくるお化けみたいだ。
「ぷ、プーちゃん……お、おはよう」hpm1
 涙目になりながらも必死に笑顔を取り繕うのは、
 僕の幼なじみ沙藤優羽(さとう・ゆう)だ。
「お前、大丈夫か? また階段から落ちただろ?」
 手を差しのべつつ尋ねた。
 優羽は僕の手を取りながらニコリと笑う。涙目だけど。
「ぜ、ぜんぜん落ちてないし……」
 立ち上がりながら目をそらしたけど、
 小さな声で「うぅ痛い」とうめいている。
 大きめの制服を着た幼なじみは、ウェーブのかかった髪の毛を更にボサボサにしていた。階段から落ちたせいだろう。でも、普段はがんばって整えているらしい。
 見慣れた顔だから僕はなんとも思わないが、かなり整った顔立ちをしている。大きな両目はパッチリ二重で愛嬌があるし、鼻筋も自己主張しすぎない程度に高い。
 スカートから伸びる白い足は引き締まっているが、膝の辺りが赤くなっていた。階段から落ちた時に、ぶつけたのだろう。
 ちょっと心配になるくらいいつもニコニコ笑ってるけど、中身も見た目どおりだ。
 優羽はドジだ。基本的に隙しかない。
 しかしながら天性の悪運の良さのため、今まで車に三回はねられたことがあるが全て無傷だったし、数え切れないほど階段から落ちているが、せいぜい打撲や捻挫ですんでいる。
「で、プーちゃん、そのベッドのやつ、なに? オモチャ? 
 無駄遣いはダメだよ」
 ロンギヌスの槍を見て、呆れたようにため息をついていた。
 でも、涙目だ。
「とにかく、朝ごはんできたから早く食べようよ」
 確かに優羽の言うとおり、聖槍があろうとなかろうと僕の日常は変わらないし、変えたくない。
 僕は今日も朝ごはんを食べて学校に行くのだ。
 部屋を出る優羽のあとについていくけど、優羽は盛大に足を引きずっていた。これで階段をおりられるとは思えない。僕は優羽の前に出てしゃがんだ。
「ああ、もう、めんどくせぇ。背負ってやる」
「お、おんぶとか絶対ヤダ! プーちゃん、背中で私のおっぱい触る気でしょ!」
 優羽は自分の胸を隠すように腕を組んでいた。でも、優羽に背中で触れるほどのおっぱいはない。憐れみたくなるほどにフラットチェスト。ザ・垂直線である。
「……そうだね、そういう下心とかあったかもしれないね」
 こう言ってやるのが紳士としての優しさだろう……背中をゲシっと蹴られたけどさ。ぜんぜん痛くないし、むしろ怪我してる優羽のほうが痛いと思うよ。だって、小さい悲鳴が聞こえたもの。ふりかえれば、優羽が壁に手をついて痛みに耐えていた。
「……お姫様だっこ」
 ボソリとそんな声が聞こえた。優羽は壁に手をついたままふりかえらずに続ける。
「おんぶは嫌だけど、お姫様だっこならされてあげてもいい」
 優羽は胸を含めて細身だし、背もそんなに高くないから軽いとは思う。でも、女子一人を抱えるのは、けっこう重労働だ。朝から乳酸たまるようなことしたくない。
「もう、お前、一人でおりてこいよ」
「……そんなこと言っていいの? 私、足が痛くて泣いちゃうよ?」
 ポタリと優羽の足元になにかが落ちた。もう泣いてるじゃん……

 泣かれたらお姫様だっこしないわけにはいかなかった。
 だっこしたらしたで、優羽がハイテンションで騒いだ。そんなにテンパるなら、お姫様だっこしろとか言わなきゃいい。
 朝からうっとうしいなぁと思いつつもダイニングで優羽と一緒に朝飯を食べ、優羽の足首にシップを貼ってやる。幸い、優羽のケガは軽い捻挫と打撲だけですんだ。
 優羽が食器を洗っている間に、僕は学校へ行く準備を整える。
 僕の両親は共働きで、お互い好き勝手に海外を飛び回っている。なので僕が小学校三年生ごろから、僕の面倒を隣家の沙藤家に委任していた。要するにベビーシッターのようなものだ。もちろんタダではない。僕の父親はそれなりの額を沙藤夫妻に支払っているため、実の子とはいわないまでも僕は丁寧に育てられたと思う。今もこうして優羽が朝飯作ったり家の掃除をしてくれたりするけど、それは善意というよりアルバイトみたいなものだ。
 とはいえ、幼いころから一緒なので、互いに兄妹のような情があるのも事実。小中高と一緒だし、友好的な関係は構築できてると思う。
 朝食のあとかたづけも終わり、支度を終えた僕と優羽は、いつもより早く家を出た。
 足を引きずるように歩く優羽に合わせて、僕はゆっくりとした歩調で歩く。住宅街を抜ければ、じょじょに同じ制服姿の連中が目に入ってきた。
 僕らの住む新條市は、ベッドタウンで都心へも電車を使えば、すぐに出ることができる。娯楽施設も充実してるし、そこそこ都会でそこそこ住みやすい街だ。まあ、あくまでそこそこなので、駅から離れると、田んぼや畑が広がってくる。
 そこそこ都会にある、そこそこの進学校に通っている高校生。それが僕だ。
 僕の両親のように世界をまたにかける夢があるわけでもない。一生頭脳労働職を貫き、安定した人生を送りたい。具体的には高級官僚になるのが僕の夢だ。
 登校の道中、優羽がいろんなことを喋り、それに僕が相槌を打ったり質問して聞き役に徹する。そうやって、いつものようにテキトーな会話をしているうちに学校に到着した。
 家から徒歩二十分くらいの距離に、僕らが通う七聖学院高等学校がある。ミッション系の学校で、そこそこ偏差値の高い進学校。校内には教会なんかもあって、校内カウンセラー的な立ち位置でシスターとかがいる。
 校門前には風紀委員の面々が立っていた。抜き打ちの服装チェックだろう。スカートが短かったり、髪の毛の色が派手だと、ご指導をいただくことになるわけだ。
 大抵、こういう行為はみんなに嫌われるんだけど……
「おはようございます」
 お嬢様然とした美少女がニコニコ微笑みながら注意していくので、誰も不快にも不満にも思わなかった。彼女の名前はオピス・O・アルカイオス。二年生の風紀委員長だ。
 朝日に映える白磁のように白い肌。その肌とは対照的にしっとりと黒い髪の毛は、背中まで伸びており、前髪は切りそろえられている。世にいう姫カットという髪型だ。背は女子のなかでは高いほうだろう。そのシルエットは完全無欠にモデル体型で、腰は細く胸やお尻は大きい。そして、なにより印象的なのは、その紫の瞳だ。大抵の人間は、この視線に射すくめられただけで骨抜きにされる。
 そんな超絶美少女に微笑みながら服装を注意されれば、自発的に「気をつけます」と反省してしまう。極端に美しかったり優れてる人って、存在が暴力的だと僕は思う。
「山田君に沙藤さん、おはようございます」
「アルカイオスさん、おはよ~」
「……ちっす」
 僕は紫の目を見ないようにして、逃げるようにその場を通りすぎた。
 オピスさんは外面だけならパーフェクトな人だ。だから学園のマドンナ的存在で、男女問わず人気がある。
「プーちゃん、アルカイオスさんに少し冷たい。さっきの挨拶、感じ悪いと思う」
「……苦手なんだよ」
 そう言いながら校門を越えて、校舎へと入っていった。
 僕たちのクラスは二年A組だ。
 優羽は教室の扉を越えた瞬間「おはよ~」と言いながら、クラスメートに挨拶していた。僕は無言のまま自分の席へとむかう。僕の席は窓側の一番後ろなんだけど、違和感があった。隣に机があるのだ。昨日までなかったはずなのに……
「あれ? プーちゃん、この机どうしたの?」
 優羽は僕の二つ前の席だ。鞄を置きながら、怪訝そうな顔で僕の隣の席を眺めている。
 転校生が来るには、五月ってすごく中途半端な気がする。首をひねって考え込んでたら、誰かが近づいてきた。
「なあ、シロガネ、相談があるんだけど」
 その声に視線をむければ、黒髪オールバックの男子生徒が立っていた。
 制服を着崩し、ズボンの裾を折り上げたりしているけど、こいつがするとオシャレ感は皆無で野暮ったい。名前は真田吏一(さなだ・りーち)、通称リーチ。
「おはよう、リーチ……」
「おはようリーチ君」
 優羽のニコニコ笑顔に「おう、沙藤おっす」と返しているが、リーチの眉間には深いシワが刻まれたままだし、目にもクマがあった。
「随分と眠そうな顔だけど、また深夜アニメでも見てたのか?」
 確か『まじかるプリンセスMOMO』というアニメにはまってるって言ってたっけ?
「MOMOちゃんの放映日は水曜だから違う。そんなことより重要な相談があんだよ」
 そう言って、リーチは更に眉間のシワを深くし、真剣な目で僕を見つめてくる。
「あのさ……どうしたら合法的に女子のスカートのなかに頭をつっこめると思う?」
 こいつのあだ名はリーチ、将来、なにかしらの罪を犯しそうという意味でリーチ。
 あと一歩で人として逸脱しそうという意味を込めてリーチ。
 成績的にも留年リーチ……僕の友人リーチはそういう男だ。
「……俺さ、昨日の夜、寝ないで考えたんだけど、答えが出せなくてさ」
 目がマジだった。冗談じゃなくてガチで言ってやがる。僕が昨日、大変な目にあってた時に、こいつは、こんな下らないことを考えてたのか……リーチの人生って楽しそうだな。
 僕と優羽が絶句していたら、前の机に鞄が置かれた。
「――ラッキースケベ狙い」
 ボソリと抑揚のない声をあげたのは優羽の親友、上杉愛望(うえすぎ・まなみ)。通称センセイだ。
 センセイは校則にギリギリひっかからない程度に髪の毛を染めているので、微妙に茶色い髪の毛をしている。そんでもってメガネっ子だ。メガネって、それだけで野暮ったいイメージがあるんだけど、センセイはオシャレメガネ。全体的に洒脱で、リーチとは違う。
「愛望ちゃん、おはよ~」
「センセイ、おはようございます」
「――優羽たん、おはよ~。山田死ね」
 センセイは、優羽に甘い反面、なぜか僕に対する当たりがきつい。
 そんななか、考えるダメ人間リーチはセンセイに対してため息をつく。
「あのな、センセイ、ラッキースケベは俺も考えた。でもさ、俺、偶然に頼りたくねぇんだよ。ほしいものは勝ち取りてぇんだよ。なんつーか、もっとアグレッシヴに狙っていきたいんだよ。ほら、俺、生粋のストライカーじゃん?」
「――得点力不足という日本サッカー界の救世主発見」
 とりあえず二人そろってサッカー部のみんなに謝ってほしい。
「――では助言を一つ」
 そう言って、センセイは人差し指を立てた。
 センセイはこうしてまったくありがたくないアドバイスを僕らにくれる。そして、そのアドバイスは、まったく役に立たないことでも定評がある。
「――今日から雷嫌いを吹聴すべし。今は五月。そろそろ梅雨も近い」
「雷嫌ったらスカートのなかに頭つっこめるのかよ! そんなわけねぇだろ!」
 空気を読まないことに長けるリーチは、こういう問題発言を簡単にシャウトしやがる。
「――吏一、想像しろ。雷嫌いの少女が怯える。お前に抱きつく」
「持ち帰る」
「さらりと言うな、つかまるぞ」
 とりあえずツッコミを入れるのが僕の仕事だ。
「――雷嫌いの少女は抱きついてきても許される。ならば、吏一もまた然り。普段から雷嫌いを吹聴し、実際に雷が鳴ったところでスカートに頭をつっこみ、こう言うのだ『ぽっくん、雷、怖いんですぅ』」
「なにそれ、超完璧に合法じゃん! まさか、こんな近くに天才がいたなんてな。国はセンセイを手厚く保護すべきだぜ!」
 こいつら、バカだと思う。そんなバカ二人に僕はジト目を投げつけた。
「……そうだね、お前らそろって保護監察とかされたほうがいいと思うよ」
「――安心しろ、その時はお前らも一緒だ」
「さりげなく優羽にまで前科をつけるな。ダブル犯罪者予備軍」
「えっ!? 今の流れで私まで仲間にカウントされるの?」
 こいつらと会話をしているとツッコミで忙しい。
「なあ、ところで知ってっか? 俺に新たな恋の予感警報発令中なんだぜ」
「知らんし」
「――興味もない」
「セクハラはダメだよ、リーチ君」
 リーチの恋はいつでも失恋で終わる。だって、こいつ、アグレッシヴだけどバカだもん。
「おいおい、そんなこと言っていいのかよ? これはお前らにも関係あることなんだぜ」
「関係あるってなにがだよ?」
 鞄のなかの教科書などを机に移しつつ僕はリーチの話に乗っかる。
「転校生が来るんだよ、転校生が!」
 僕は、隣の空席に視線を投げた。
「……ふ~ん、ま、事実っぽいけど、それ、誰から聞いたんだ?」
「オッピーちゃんが教えてくれた」
 オッピーちゃんというのは、風紀委員長のオピスさんのことだ。ちなみにクラスは隣のB組で、リーチは『オピスふぁん倶楽部』の名誉顧問らしい。
「あ、そうだ、シロガネ。オッピーちゃんが、放課後、風紀委員室に来いってさ」
 正直、迷惑な話だった。
 聞こえないふりをしたところで予鈴のチャイムが鳴り、リーチも自分の席へと戻っていく。しばらくすると、担任の江田島先生がやってくる。黒髪ショートカットの英語教師。美人だけど、教師を仕事と割り切っているタイプだ。その江田島(えだじま)先生が教壇に立ち、出席簿を出したところで一つ咳払いをした。
「出席を取る前に連絡があります。うちのクラスに転校生が来ました」
 その発言にクラスがザワついた。一際リーチの声が大きかった。うざかった。
「では、入ってきてください」
 扉が開いた瞬間、男子のほとんどが「お~」と声をだした。僕は声まで出さなかったけど、自然と目を見開いていた。
 キラキラ光っていたのだ。
 金髪である。でも、染色や脱色の人工的なものではなく天然のブロンドだ。歩調に合わせてゆれる髪の毛は、火の粉が舞うように輝いている。そして、胸を張って歩く姿が、これまた様になっていた。こういう歩き方ができるのは自信に満ち溢れているからだろう。
 ていうかさ、肩にフクロウがとまってるんだけど、なにあれ? 人形? あ、動いた。あれ、生きてるな。生きてるフクロウが肩にとまってるんだけど、先生はそこにツッコミを入れないのだろうか?
 などと疑問を感じていたら、その金髪美少女は江田島先生の隣に立った。
 パッチリ二重の大きな目。瞳の色は見慣れぬ灰色だった。背は低いけど、袖のあまった制服を着ていた。胸が大きいからだ。体格にあった制服がないからワンサイズ上のものを着ているのだろう。ああ、これが世にいう……
「金髪ロリ巨乳ゲットだぜぇぇぇぇぇぇぇ!」
 どっかのバカが叫んでいた。僕がボソリと「お前はマサラタウンに引きこもってろ」と言ったら、前に座るセンセイの肩がピクリと動き「――サトシ君も性を知る年齢か」って感慨深げにつぶやいた。誰だっていつかは大人になる。サトシ君だって大人になるのだ。
 当然のことながら空気を読まないリーチのシャウトは、教室内を凍らせるという大惨事を巻き起こしている。さすがのリーチも察したらしく、咳払いして机に突っ伏していた。やっぱりバカだ、あいつ……
 そんな絶対零度の空気のなか、超弩級の美少女が言葉を失ってる僕らを流し見た。
「……パラス・アテナだ」hpm2
 ボソリとつぶやかれた名前に、思わず「え?」と声がもれてしまう。
「アテナさんはギリシャからの留学生ですので、みんな、いろいろと気にかけてあげてね」
 そう言って江田島先生が僕へと視線を投げてくる。
「特に隣の席の山田君はお願いね☆」
 面食らった僕を、転校生がにらんできた。
 銃口のように相手の気勢を殺ぐ眼光だ。ゾクリと背筋が毛羽立ち、カタカタと体が震えだす。視線をそらし、呼吸を整えても体の震えがとまらなかった。荒ぶる雷光、竜巻、大時化、噴火、抗えない自然の暴威を前にした時に感じる必殺の未来予知。見た目は美少女なのに存在そのものが、なぜか暴力的。
 そんな怪物がゆっくりと確実に僕へと近づいてくる。
 本当に僕が面倒を見るの?
 え? しかも、パラス・アテナって言ったよね? 
 パラス・アテナって……
 混乱している僕の横にアテナが座った。
「貴様が山田白金(やまだ・ぷらちな)か……」
 キラキラネームな本名を呼ばれてカチンときたけど、僕の理性ちゃんをフル動員してへつらうように笑う。度胆を抜かれるくらいに美少女だった。顔ちっちぇし、体もちっちぇ。身長は150センチくらいかな? いや、まあ、胸は大きいみたいだけど……
「……話は父上から聞いている」
「お、お父様から話を?」
「我が貴様を鍛えることになった、死ね」
 流れるようによどみなく「死ね」とか言われたけど、文脈的に唐突すぎる殺害予告だ。
 いや、きっと聞き間違いだよ、気のせいだよ。
 不意に肩にとまっていたフクロウがなにやら耳打ちするようにアテナの耳元で嘴を動かしていた。アテナは「うむ」と小さくうなずき、僕をにらんでくる。
「そのふぬけた面を見てると反吐が出る。今すぐ呼吸をとめろ、クソマラ野郎」
 気のせいじゃなかった。ものすげぇ毒舌だった。思いきりにらまれたけど、僕が目をむけるとプイッとそっぽをむき、そのまま黙り込んでしまう。スッと背筋を伸ばして前を見る姿は、それだけで神々しかった。まるで、僕の部屋にある聖槍みたいに……
 その上、ギリシャで、父上で、アテナでしょ?
 ああ、やっぱり認めたくないけど、この子、人間じゃねぇ。

 江田島先生にアテナの面倒を見ろとか言われたけど、全力でごめんこうむった。これだけの美少女だから、そりゃ誰だって気になるとは思う。でも、雰囲気がアレすぎて、誰も近寄りたがらない。僕だって近寄りたくない。でも、そんななか、我らが特攻のリーチは物怖じしない。バカって雑に生きていけるからうらやましいよね。
「アテナさん、結婚を前提に俺の童貞をもらってください!」
 予想外に雑すぎた。怖れ知らずの大暴投だ。お前、そんな告白しかしないから、女子に毛嫌いされるんじゃないか……あと、それでOKな子、もれなくビッチだぞ。
 けれども、アテナはリーチがなにを言っているのか理解できないかのようにキョトンとしていた。ふと肩のフクロウがボソボソと耳打ちするように嘴を動かし、アテナのぽけ~とした表情が一転して剣呑なものになる。
「よくわからんが、貴様が我を愚弄していることはよくわかった。ミネルヴァの言うとおりだ。やはり、我の見た目では侮られるらしい。犬蝿には教育が必要である」
 不意に胃がしめつけられるように痛くなる。
 意味がわからず、テンパっていたら、今まで笑っていたリーチの表情も真っ青だった。それどころか、リーチの膝が生まれたての仔馬のようにガクガクと震えだす。直感的に原因はアテナだとわかった。だって、アテナの周囲にいる人がみんな怯えてるんだもん。
「ひざまずけ」
 小さな体から発せられたとは思えない圧倒的な威圧感に、リーチはビクッとビビりながらその場に膝をついた。ブルブルと震えながらアテナを見あげる。アテナは冷然とゴミでも見るような目でリーチを見おろし、肩のフクロウがボソボソとアテナに耳打ちする。
「貴様ハ蛆虫以下のクソだ。この世でモットモ価値のない存在ダ。ソノ下劣な魂、性根から鍛え直してくれる。これカラ? 我に話しかけられた時以外口を開くな! 口からクソ垂れる前と後にサーをつけろ、ふぁっきんぱんぷきんへっど二等兵!」
 言ってることはひどいけど、ところどころ微妙に片言……
「サー、イエッサー!」
 リーチが軍人みたいに敬礼した。そしたら、なぜか僕までアテナに指さされた。
「連帯責任だ」
 殺気のこもった眼光には、さからえませんでした。
 気づけば、僕とリーチは教室の後ろで腕立て伏せをやらされていた。授業がはじまってもだ。だって、先生がとめようとしても「そのクソマラ野郎どもは我の管轄だ」と、アテナが無表情で言う。誰もがアテナを前にするとガクガクブルブル震えだし、逆らうことなんてできなかった。しかも、僕とリーチだけではなく、クラスの男子がどんどんと筋トレ地獄へとブチ込まれていく。理由は特にない。目が合ったところで「貴様も戦士にしてやる」とか言うのだ。全力でありがた迷惑だった。最終的にクラスの男子全員がアテナによって二等兵に仕立て上げられた。なんか、授業中なのに校内を走らされたりしたよ。
 さすがに異常な状況だったので、そこでクラスの良心こと沙藤優羽がアテナを諌めようと動いてくれた。
「あのね、アテナさん、腕立て伏せとか、もうやめさせてあげたほうがいいんじゃないかな? さすがに、みんな、かわいそうだよ」
「うむ、そなたの心遣い、確かに承った。連中への訓練は昼で切り上げるとしよう」
 優羽が文句言わなきゃ一日中、しごき地獄だったってことだ。
 そんなこんなで、どうにか昼休みには教室に戻ることができた。
 僕は、こんなエキセントリックな子にかかわりたくない。でも、クラスの連中は違った。
 男子は全員二等兵としてアテナに忠誠を誓ってるし、女子は女子でアテナのフクロウとかアテナ自身を「かわいい」とか言って騒いでいた。で、アテナは僕たち男子に見せない微笑みを女子に対しては浮かべるもんだから、女子でも見蕩れちゃう。女子の一部で『アテナ様親衛隊』が作られてたよ。
 たった一日で、ここまで人心を掌握するなんてムチャクチャだ。しかもデタラメな方法でだ。どう考えたって異常だった。
 昨日のこともあって全力でかかわりたくなかったんだけど、終業のチャイムが鳴ったところで、アテナが僕の腕をガシリとつかんだ。万力のような力だった。
「……サー、なんでしょうか? サー」
「喋るな。黙ってついてこい」
 有無をいわさぬ雰囲気に逆らえず、引っ張られていく。逃げたくても、この握力からは逃げられる気がしない。僕が腕を振ろうとしても微動だにしないのに、アテナは簡単に僕の体を振り回す。小さい女の子が怪力無双とか、現実だとかなりホラーだ。おっかねぇ。だって、人知越えてっから。そんな具合に振り回され、僕は屋上へと連れてこられた。
 屋上にはひと気がなかった。
「ボサっとするな。気をつけ!」
 ビシッと体を硬直させる。午前中のしごきの時に、一連の動きは叩き込まれている。体を硬直させた僕を、アテナが下からにらみあげてくる。ものすごい美少女だけど、灰色の目が鬼のように怖い。一瞥されただけで泣きそうになる。
「貴様はなんだ、山田二等兵」
「サー! 蛆虫以下のクソであります! サー!」
「聞こえん! 大声出せ!」
「サー! 蛆虫以下のクソでありますっ! サー!!」
「うるさい!」
 ビンタされた。思わず「戦争コントかよ」と言ったところで、フクロウがアテナに耳打ちする。次の瞬間、僕はお腹を殴られた。膝から崩れ落ちた僕の首根っこをアテナがつかみ、そのまま持ち上げる。目の前にはアテナの怒った顔があった。
「ブルシット! 口答えをするとは、貴様、いい度胸だな! 貴様の優しいママなら、その上等なクソを口カラ垂レタトコロデ許してくれるだろう? えっと、ん? だが! 我は貴様のママではないっ! 上官だ! いいか、腐れまざぁふぁっかぁ、覚エテオケ。上官が『さかったセイウチのケツにど頭、つっこんでおっ死ね』と命じたら、貴様は『サー、イエッサー』と口からクソ垂レテ嬉々トシテ命令に殉ジロ。それが軍隊というものだ!」
 ここ学校だし、軍隊じゃねぇし……PTA! はやく僕を助けてPTA!
「我ガ助力した者は、全て勇者として……歴史? に名を残している! 貴様のようなクソマラ野郎も同様、英雄になってもらわねば困る。できなければ死ね?」
 いや、疑問形できょとんと小首をかしげられても僕が困る。
「ブルシット! 返事!」
「サー、イエッサー!」
 アテナはフンと鼻を鳴らして僕を放り投げた。
「……こんなヘタレなメス豚様ガ英雄ノ器とは、世も末? だなっ!」
 罵倒されてるんだけど、アテナ自身、探り探りな感じで喋ってるので、どうにもエッジが効いていない。
「まあよい。よくわからんが、我が貴様を鍛えてユウチャ……勇者にしてやる!」
 今、絶対、噛んだ。
「光栄に思え、犬蝿野郎! よし、では、腕立て姿勢……」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!」
 勢いよく屋上の扉が開いた。
 そこに立ってたのは、リーチを筆頭にしたクラスの二等兵たちだ。
「サー! 山田二等兵だけずるいであります! 自分たちも同様にしごいてください! 違う意味でもしごいてほしいのであります、サー!」
 あいつ、よくアテナ相手に下ネタぶっこめるよな。バカだけど、すげぇと思う。ただ、おそらくアテナは下ネタという概念を理解していないようで、きょとんとしていた。
 でも、すぐにポンと手を叩く。
「よくわからんが、やる気があるのはいいことだ。では走ってこい」
「サー、イエッサー! いつまででありますか? サー」
「知らん、走ってこい」
 天真爛漫に丸投げしていた。おそらくだけど、この子、なにも考えてないんじゃないだろうか? でも、リーチは頬を赤らめながらビシッと敬礼する。
「サー、イエッサー!」
 リーチの敬礼に合わせて後ろのバカどもも敬礼していた。流れ的に、僕もついていかないといけない感じだったので、その後ろについていく。そしたら先頭のリーチが「ファミコンウォーズが出~るぞ」とか歌いだした。それに合わせて走る僕ら。完全に異常者の集団だ。その先頭を走っていたリーチが、ふと僕へと近づいてきた。
「なあ、シロガネ、お前、もう逃げちゃえよ」
「え? いいの?」
 他のみんなにも尋ねる。いい笑顔で「行けよ」とか「気にすんな」とか言ってくれた。こいつら、いい奴だな……
「……でも、どうして?」
「よくわかんねぇけど、アテナ教官殿、お前のことばかり気にかけてんじゃん。ここで、お前が逃げだしたら、お前の評価が落ちる。俺らの評価は相対的にあがる」
 リーチを筆頭に、みんな、いい笑顔でサムズアップしてた。
 アテナ狙いの皆さんは、どんな手を使ってでもライバルを蹴落としたいらしいです。
 なるほど、そうですか……うん、みんなして微妙にクズい☆
「それに、ほら、お前、オッピーちゃんに呼び出しくらってただろ? アテナ教官殿には俺からうまいこと言っとくから安心しろ」
 オピスさんからの呼び出しは、完全になかったことにしてたけど、アテナのしごきにつきあわされるよりはマシ……なのかな? う~ん、どっちも嫌だ。
「……まあ、とにかく、ありがとう、リーチ。じゃ、僕、行くよ」
 バカで変態で異常者の集団は「闘魂、闘魂、闘魂」言いながら廊下を走っていった。そんな彼らを尻目に、僕は教室へと戻って鞄をつかむ。そして、風紀委員室へとむかった。
 風紀委員室は教室のある棟とは別の棟にあり、ひと気がない。その閑散とした雰囲気が、僕の不安を色濃くさせる。
 どうか、風紀委員室でオピスさんと二人きりになりませんように! と願いながらドアをノックした。「どうぞ」と静やかな声が返ってきた。僕は「失礼します」と扉を開く。
 風紀委員室にはホワイトボードと事務用の机が四つほど置かれており、パソコン完備。壁際にはスチール製の棚と、会議で使うのであろう長机が折り畳まれて置かれていた。だが、カーテンの閉め切られた室内は薄暗い。黒髪の少女が、そっとカーテンに手を触れ、クリーム色にカーテンが静かに波打った。オピス・O・アルカイオスは僕へと振り返り、くすりと笑う。そして、さり気なく舌なめずりをした。
「やあ、山田プラチナ君、待ちわびたよ」
 下の名前を呼ばれて、かちんときた。男だったら突発的に殴ってるところだ。
「あの、下の名前で呼ぶの、やめてもらえますか?」
「ところで、君はいつになったら私をレイプしてくれるんだい?」HPm3
 一瞬、耳を疑った。ナチュラルな流れで、わけわかんない言葉を放っ てきたよ。
「あいかわらず頭おかしいですね。
 風紀委員がムチャクチャなこと言わいでください」
 やれやれと言いたげにオピスさんがため息をつく。
「君はわかってないね。私は風紀委員長で学校の風紀を取り締まり、
 みんなの前では一端の淑女として振る舞っている。
 その外面に校内の連中は騙され、お熱をあげている。
 そんな私がだ、実は淫乱でド変態だというのがいいんじゃないのかい?」
 オピス・O・アルカイオスは、風紀委員長で学園のカリスママドンナ。 人前ではお嬢様然とした言動で、男女問わず人気がある。
 そんな人に僕は日常的にセクハラされている。
 現に今もいきなり自分のスカートをめくりあげようとしやがったので、大急ぎでその手をつかんで制止した。
「……あの、オピスさん、いい加減、セクハラで訴えますよ?」
「私はかまわないけど、この私が君にセクハラをするなんて、
 校内の誰が信じると思う? そんなことを吹聴したところで
 君の評判が悪くなるだけだ」
 オピスさんの言うとおりだ。
 だから、こうして二人きりで会いたくなかったのだ。
 誰かの目があれば、さり気ないボディータッチ程度の被害ですむからね。
 僕はスカートをめくらせまいと必死になり、目の前でオピスさんが唇をすぼませてキスしようと口を近づけてくるから、のけぞるしかない。しばらく無言の攻防が続いたところで、オピスさんの手から力が抜けた。
「据え膳を食わないなんて……君は三次元より二次元が好きなタイプかい? そういえば、『まじかるプリンセスMOMO』というアニメが最近流行ってるんだろ? ヒロインが毎回触手で大変なことになるらしいじゃないか」
「いくら深夜アニメでも、そういう話じゃないと思いますよ」
 少なくともリーチは、愛と正義の新感覚系魔法少女アニメだって言ってた。
「ほんとに、これだから童貞は面倒くさいね。私の魂はド淫乱だが、肉体は処女なんだぞ。そんな乙女がこんなにもがんばってるのに……」
 泣きボクロのある目で悲しげにうつむかれると、その罪悪感の喚起力たるやすさまじい。
 これだから美少女はおっかない。内面が怪物でも、外面は子猫ちゃんだから抱きしめたくなってしまう。でも僕の働きものの理性ちゃんが「流されたら、らめなのぉ」って言ってるから、断固として流されない。
「セクハラするために呼んだってんなら、帰りますから!」
「つれないなぁ。まあ、プラチナ君を呼んだのは、君を欲情させるのが目的だったけど、他にもいくつか用件があってね。ほら、春の球技大会が近いだろ?」
 そういえば、そうだ。
「毎年、熱心なのはいいけど、体育館やグラウンドの使用権でイザコザが多くてね。生徒会にも、いろいろと取り締まってくれと頼まれてるんだ」
「まあ、わかりますけど、それ、僕に関係なくないですか?」
「君の友人、真田吏一君は去年も暴走してただろ? 彼の手綱を握れるのは君くらいだし、ムチャをしないようにしてほしいんだ」
 確かにリーチはお祭り騒ぎが大好きだし、その手のアジテーションが得意だ。去年も球技大会の時は、三年の先輩とぶつかり、因縁の対決みたいな構図を作り上げ、クラスの団結力を強めていた。そういうこと、あいつ、狙わずやるからな。
「まあ、やれる範囲でならやりますけど……」
 警戒しながらうなずく僕に、オピスさんは「助かるよ」と微笑んだ。
「プラチナ君、もう変なことはしないから放してくれないかな」
 僕がオピスさんの手を放し、オピスさんは事務机の引き出しを開けた。
「それと、君に手作りのプレゼントがあるんだ」
 オピスさんがなにかを差し出してくる。DVDらしきものを受け取りながら僕は「なんですか?」とパッケージを見た……瞬間、放り投げた。
「なんてことをするんだ、プラチナ君!」
「それはこっちの台詞ですよ! あんた、なんつーもんを!」
 抗議する僕を尻目にオピスさんが、投げ飛ばされたソレを拾う。
「風紀委員会のみんなで作ったんだぞ! シナリオと原画は私の担当だ!」
「風紀を取り締まる集団がエロゲー作るな!」
 そう、パッケージではオピスさんをモデルとした女の子が触手で大変なことになっていた。パッケージだけなら普通の商品と遜色ねぇし、やっぱり、この人、頭おかしい。
「ちなみに主人公はある日、悪徳に目覚め、体から触手を伸ばせるようになるという設定で、君がモデルだ」
「肖像権の侵害だっ!」
「しかたがないだろ! 君の触手で調教されるのが、私の願望なんだから!」
「聞こえないし、聞きたくないし、そもそも僕に触手はないっ!」
「どうかこのゲームをプレイしてプレイを勉強してくれ、プラチナ君。そして、このゲームのようなことを私にしてほしい。君の触手で」
 オピスさんは「はあ、はあ」と息を荒げて、ねっとりとした視線で僕を見あげていた。
「私のことを知ってくれぇ、理解してくれぇ。そして、同じ暗黒へと堕ちてきてくれぇっ!」
「断固として断わるっ!」
「私は両親ともに日本人じゃないから君の言ってる意味がわからない。とりあえず脱ぐよ」
 いきなり服を脱ぎ始めたオピスさんに僕は貞操の危機を感じ、脱兎のごとく風紀委員室から逃げだした。
「プラチナ君、待ってくれ! 腹を割って裸のつきあいで話し合おうじゃないか! セクハラしたことは謝る…って、別に嫌がらせしてる気はないぞ! これが私の愛情表現だ!」
 学園のマドンナが発したとは思えない言葉を背中に受けつつ、僕は全力ダッシュでその場を後にした。
 しばらく走って、渡り廊下にまでやってくる。棟と棟を結ぶ渡り廊下は閑散としていた。いろんな意味で火照った体をクールダウンさせるため、深呼吸をする。
 そりゃ、まあ、僕だって男の子だ。綺麗な女の子に迫られて嫌な気はしないさ。
 そもそも僕は思春期のチェリーボーイだし、性的なことに興味は尽きない。ぶっちゃけ、オピスさんに性的魅力を感じるし、僕が普通の男子だったら、絶対に流されてエロ漫画みたいな生活になってると思う。でもね、僕の理性ちゃんは働き者なんです。その理性ちゃんがオピスさんはダメだって言うなら、ダメなんだよ。拒絶するしかないんだよ!
 僕の生涯設計における高校生活では男女交際は禁止だ。高級官僚になるためには、学閥まで考えて東大の法学部に進学する必要がある。これは、天才でもなんでもない僕には、かなり高い目標であり、勉強以外のことに無駄なリソースを割いている余裕はない。
 だから、ここでハニートラップにひっかかるわけにはいきません。
 あと、リーチが姫カットの女の子はメンヘラ率が高いって言ってたしね。まあ「童貞のお前が女を語るなよ」と思った僕も童貞だったから、その時はなにもつっこめなかったよ。
 とにかく、誰にも僕の夢である安定した未来の邪魔はさせない。当然、美少女にだって邪魔はさせないし、それが、たとえ神様であっても同じだ……
 そんなことを考えていたら、いきなり窓が消えた――

 驚いて辺りを見回せば、たくさんの柱が立ち並ぶ白い神殿のなかにいた。
 そして、一段高くなっている場所には玉座がある。
 そこにヤンキーみたいな人が頬杖をつきながら座っていた。
 髪の毛はアテナみたいな金髪だけど、ホストがやるようなスジ盛りって髪型だ。顔つきは端正なもので瞳は空のように青く、かなりのイケメン。
 毛のあるフードつきのジャケットの下にシャツを重ね着し、ジャラジャラしたチョーカーを首からかけている。まるでロックシンガーのようにタイトなシルエットの黒いパンツ。更にトーキックで人を刺し殺す気ですか? と問いたくなるような尖がりブーツの色は雲のように白い。耳にはピアスがたくさんあって穴だらけだし、手にはゴツゴツした喧嘩指輪をいっぱいはめている。どこの部族の方ですか? と問いたくなる装飾だった。
 男は不機嫌そうに眉根を寄せつつも、僕を見る目は不遜全開で、他人を完全に小馬鹿にしているような感じだった。でも、逆らえない。腹を立てたってしかたがない。
「よお、またちぃとばかし頼みがあんだけどよ?」
 もうね、喋り方が完全にチンピラですよ。
「おい、てめぇ、聞いてんのか?」
 ああ、やっぱりまた呼ばれるんだ。昨日だけで終わりじゃないんだ。
「……はい、なんでしょうか、ゼウス様」
 僕の日常がぶっ壊れたのは、昨日、このギリシア神話の主神とであってからだ。


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モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)6 Gess2

人気の「モテ泣き」シリーズ、

8月(6巻)・9月(7巻)の

連続刊行&完結です!

いよいよクライマックスゥ!!!!
!!!!

な、6巻冒頭をちょっと公開!!
6巻表紙CMYK



























                              著:谷 春慶/イラスト:奈月ここ



地獄の蓋フルオープン! 死者の霊が溢れだし、街はパニック状態に!! 
だがゲス男・望月砕月はそんな中でもビョーキ全開! 
迫り来る死者、ハルマラ率いるウィザード軍団、
そして事件の黒幕・オピウムと激しい攻防を繰り広げながら、
修羅場を発生しながら、砕月は事件の真相に迫る! 
が、明らかになっていく真実は、ベリーハードなものだった……。
けど、ゲス男・望月砕月はそんな中でもビョーキ全開なんですけどね!!


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Prologue【善良なゲスは公僕である】

 雲霞のような影がけぶって、周囲の見通しは悪かった。その上、空では紫がかったドス黒い雲が幾重にもわだかまり、おまけに僕らがいるのは森のなか。うす暗くて、いろんなものの輪郭だって曖昧だ。
 ええ、はい、現在進行形で世界がピンチだったりします。現実逃避の意味も込めて内心で「世界が滅ぶとか、なにそれ超ウケるんですけど?」とぼやいてみた……うん、僕こと望月砕月はメンタル的にそろそろ限界かもしれません。
「ゲツ君、後ろ!」
 金髪美少女ウバタマことタマさんの声に、僕は背後も確認せず後ろ蹴りを放つ。羽毛の塊を蹴り抜いたような感覚。勢いのまま振り返れば、黒い物体が綿埃のようにボロボロと崩れ落ちていく。ほんと、もう、こいつら、倒しても倒してもキリがない。
 次から次に襲いかかってくるのは質量をもった影の化け物だ。
 黒い影が人の輪郭を持ち、その影の濃淡で目と口くらいは判別できる。基本的には真っ黒なんだけど、こちらをつかんだりする時だけ体の一部が実体化する。動きは遅いし、殴れば崩れる程度にもろい。でも、油断はできない。さっき足首をつかまれた時にわかったことだけど、こいつら力が強いのだ。それ以上に厄介なのは、この数の多さ。木々の間にユラユラと立っていて、ゆっくりと、でも確実に包囲網をせばめてくる。
 この影の化け物を黄泉醜女というらしい。ちなみに黄泉醜女というのは、日本神話でいうあの世、黄泉の国に出てくるゾンビみたいな鬼なのだとか、僕の義父である望月大和が教えてくれた。その義父さんも、僕らと一緒になって黄泉醜女をボコっている。
 不意に後ろから肩をつかまれた。
 とっさに反転しながら振りほどいて、背後の気配と距離を取る。黒い影がうめきながらよろける。そいつは他の黄泉醜女とは違って、剣のような武器を持っていた。だが、動きは緩慢だ。剣をもった黄泉醜女は、その武器を使わずに僕をつかもうと手をのばしてくる。ハイキックをこめかみにブチ込んでやった。顔がサッカーボールのように飛んでいき、体のほうはあっというまに霧散する。
 ええい! きりがない! 負けるとは思わないけど、スタミナにだって限界はある。それなのに、下山できてる気がしない。タマもどうやら同じ気持ちだったらしく……
「もう、うっとうしい!」
 癇癪を起こしたような声をあげ、タマが大鎌を脇構えに構えた。一呼吸置く。大鎌の刃がうっすらと青白い光を帯びた。
 すごく嫌な予感がする。
「……ゲツ君、伏せて!」
 タマが放射状に衝撃波を放った瞬間、僕は勢いよく倒れ込んだ。自然と土下座の上位概念である五体投地のような姿勢。そんな僕の上を青白い閃光がすっ飛んでいく。バサバサと葉っぱの音が聞こえるけど、どうやらその辺の木々ごと敵を一網打尽にしたみたい……
 あいかわらずタマはムチャクチャなことをする。さすがはウィザードだ。世界をオワコンにしちゃうバグをサーチ&デストロイするスーパーナチュラルなソルジャーなだけある。
「……タマちゃん、僕も射線上にいたんだけど?」
 五体投地状態の義父さんが抗議の声をあげていた。実父じゃないけど、とっさに伏せた時の姿勢が同じものになってしまうとか、やっぱり僕らは親子だと思う。ちなみに僕はバグを倒す才能を持つデバッガという人間らしい。で、義父さんもデバッガなんだってさ。
「生きててよかったね☆」
 今日もキラキラスマイルを浮かべるタマさんだった。
 癖一つないサラサラの金髪に紫色の瞳、見た目だけなら天使が空から降ってきたような絶世の美少女だけど、性格がドSであり、基本的にオールレンジで当たりがきつい。
「兄ぃ、大丈夫ですか!」
 その声の主にむけて僕は顔をあげた。
 猫耳ミニスカ和服姿のロリっ子少女、ハピ子が僕を見下ろしていた。ちなみにハピ子はバグであり、本来ならウィザードの討伐対象なんだけど、実害がないということでスルーされている。その辺は僕の政治力(土下座外交)のたまものだ。
 そんなハピ子は背中にロリっ子少女を背負っていた。背中の女の子に意識はないけど、死んでいるわけではない。彼女の名前はアルルーナ、ウィザードのなかでも特別に偉くて強くてかわいいノーブルウィザードという存在らしい。とはいえ、今は無防備状態だからハピ子が背負いながら守らざるをえなかった。最初は義父さんが背負ってたんだけど、戦えないからってハピ子が背負うことになったのだ。
 立ちあがって体についた土を払う僕のもとに、タマも駆け寄ってきた。
「ほら、ボケッとしてないで逃げるよ」
 タマが僕の右手を取ろうとする前に、もう一人の金髪ツインテールロリ美少女が僕の左手をつかむ。
「タマさん、この人はあたしがいやいや責任もって守るので、足手まといで使えない上まったく必要ないこの人の心配なんて一切しなくていいよ。むしろ忘れちゃっていいから、タマさんは逃げ道確保に勤しんでください」
 僕の左手を力強く握って放さないのはウィザードのカンナちゃんだ。
 カンナちゃんはタマのかつての相棒で、昔はタマと一緒にバグ退治をしていたらしい。でも、いろいろあって西行法師っていうバグと同化して暴れ回っていた。そんな彼女を野生の日本男児である僕が救ってみせたのだ。だからこそ、こうして僕の手を握っているのだろう。でも、勘弁してほしい。
「カンナちゃん、手を放してくれないか?」
「え? どうして?」
「それはね、僕の骨がミシミシ言ってるからだよ」
 もっというと、笑ってるカンナちゃんから明確な殺意のような視線を感じるからだよ。
「だいじょぶだいじょぶ、自分を信じてください☆」
「ちょっ! 力が増した! これ絶対砕ける!」
 半泣きで叫んだ僕の前でタマがため息をついた。
「カンナ、ゲツ君は私の道具だから壊しちゃダメ。それに、ゲツ君の護衛は私の役割でしょ? カンナは前衛だって中年ホストに言われたじゃん」
 ちなみにタマの言う中年ホストとは僕の義父さんのことだ。
「はい、わかりました、タマさん❤」
 満面の笑みを浮かべたカンナちゃんは僕の手を放してくれた。それにしても、カンナちゃんからは、タマに対する好き好き大好き光線が放たれている気がしてならない。
 そんな僕らのところに義父さんも駆け寄ってくる。
「仲いいのはかまわないけど、今のうちに囲みを突破しよう」
 義父さんとカンナちゃんが先行し、タマと僕とハピ子がそれに続く。
 城址のある山は、山道を外れると雑木林になっている。しかも、場所によっては崖のような急こう配なので、とにもかくにも走りにくい。その上、暗いから、ちょっと気を抜けばなにかに足がひっかかるし、無造作に伸びる木の枝が腕や顔に小さい傷を作っていく。でも、気にせず走る。それにしても……
「これから、どうなっちゃうのかな?」
 木の枝をつかんで傾斜をおりながらつぶやいた。後ろから軽(かろ)やかに下りてくるタマが「そんなの、どうにかするしかないよ」と返してくる。
「兄ぃ、心配なさらなくても、兄ぃならきっと大丈夫です!」
 前を行くハピ子の言葉には、まったくなんの根拠もないんだけど、彼女はガチに本気で言ってるから不思議と元気が出てくる。
「ありがとう、がんばるよ」
 とはいえ、今がピンチなことに変わりはない。
 バグが暴走して自分好みに世界を創り変えることを神蝕という。
 で、この神蝕ってものが起きると、世界はその狂ったルールを許容できなくなって自家中毒に陥り、崩壊してしまうらしい。よくわかんないけど、神蝕が起きたら世界はオワコンということだ。そんでもって、現在、その神蝕が起きちゃってるわけです。
 で、その神蝕を起こしたのが元ノーブルウィザードのオピウムという女の人で「ついカッとなって殺った、今も反省してない」とか言い出しそうなプッツン系。こんなことは言いたくないけど、ウィザードって人格的にアレな人が多い気がする。
「痛いっ!」
 となりを走るタマに肩を殴られた。非難まじりの視線をむけたら、ジト目で返される。
「なんか、今、すごく失礼なこと考えてたでしょ?」
「考えてないよ。タマはいつもかわいいなとは思ってたけど。なあ、タマ、この戦いが終わったら僕と結婚してくれ」
 女の子と見れば、意志に反して口説いたりセクハラしてしまう僕のビョーキに、世界の危機とか関係ない。そんなんだから日常的に修羅場になるんだよ。
「バカなこと言っ!」
 タマが大鎌ぶん回した。木の上から黄泉醜女が落ちてきたのだ。足をとめたところで、再び黄泉醜女に囲まれる。先行していた義父さんやカンナちゃんも立ちどまって迎撃していた。僕も目につく奴を片っ端から殴って蹴ってはっ倒す。
 ふと肩をつかまれた。振り返りながらハイキック。
「またお前か!」
 なんか一体だけ剣を持って武装した奴がいるんだよね。まあ、武器持ってるのにそれ使ってこないから余裕で倒せるんだけど……さっき倒したのと違うのかな? それとも同じ奴なのかな? うーん、こいつら消してもすぐに復活するのか?
「全員伏せて!」
 タマの声にすぐさま五体投地。タマはその場で一回転、大鎌を振り回す。ピシュンと音を立て、青白い閃光が周囲一帯を横一文字に薙ぎ払う。大量の黄泉醜女も木々やらなにやらも、まとめてぶっ倒れた。それにしても、タマがムチャクチャ強くなってる気がするんだけど気のせいかな? 僕と出会ったころは大鎌を具現化するだけで精一杯だったのにね。
 五体投地から立ちあがった義父さんはすぐに「敵の数がどんどん増えてるから、すぐに移動を開始!」と叫んだ。僕もすぐに立ちあがり……

「ほう、どこへ行くと言うのだ?」

 そのハスキーボイスに誰もが動きをとめた。
 振り返る。タマが伐採した木々は折り重なるようにして倒れてるんだけど、その樹木のむこう側に人影があった。
 神蝕を起こした張本人で黒幕、オピウム……
髪のポニーテールに気の強そうな整った顔立ち、更には露出の多いチューブトップとホットパンツのようなウィザードの制服。こぼれんばかりの巨乳なんだけど、こういう危機的状況下においても、女の子の胸とかヘソとか太ももに目が行ってしまう僕ってほんとにダメ人間だと思う。それを周囲にバレたくないから、あえて眉間に皺を寄せて「今、シリアスです」アピールを忘れない。でも、谷間を凝視してしまう。男に生まれてごめんなさい。でも、僕が悪いっていうよりオピウムの格好が悪いんだと思う。
 真剣な顔してアホなことを考える僕を置いて、義父さんがオピウムへと大剣を投げ飛ばした。緑色の大剣は一条の光となってオピウムへと迫る。だが、いつのまにか異形の剣がオピウムの手の内にあった。諸刃の直刀からは木の枝のように互い違いに小さな刃が伸び、剣から剣が生えているような形をしている。七支刀だ。
 オピウムは飛来する義父さんの大剣を七支刀で斬り払い、粉みじんに打ち砕いた。
「大和、貴様のイメージでは……」
 オピウムが嘲笑を浮かべた瞬間、義父さんがパチンと指を鳴らした。コナゴナになった剣の欠片が一斉に赤く輝いた。火花が一気に弾ける。大爆発。オピウムは紅蓮の炎に周囲の木々ごと飲み込まれた。遅れてやってくる爆音と衝撃の余波に、僕も顔を伏せる。
「この隙に撤退。急げ!」
 義父さんの声。反応しようと意識を傾ける。
 噴煙のなかから稲妻をまとった青白い閃光が放たれた。
 雷鳴は義父さん目がけて飛来し、地面を穿つ。大爆発が大地を巻きあげる。先行してた義父さん、カンナちゃん、ハピ子が粉塵のなかへと消えていく。遅れてやってきた衝撃波に僕はふっ飛ばされた。舞いあがる煙や土埃に、僕は這いつくばったまま目を細める。まったくなんにも見えない。みんなは大丈夫?
 ふと、足音が聞こえた。
「……砕月、約束どおり、お前を迎えに来た」
 オピウムが煙のなかから現れた。義父さんの起こした爆発の被害なんて、まったく感じられない綺麗な顔。そして優しい微笑み。くそぅ、極悪人のくるくるぱーだってわかってるのに……どんなにがんばっても、おっぱいの大きい綺麗な女の人にしか見えない。
「愛の言葉ほど無力なものはない。なぜなら、僕とあなたは、こうして敵同士。まるでロミオとジュリエットのように、この世界が二人を引き裂くんだよ。ああ、愛しい君よ、どうか悲しまないでおくれ」
 僕のビョーキが、なんかわけのわからないこと言ってる。なんで、ひざまずきながら胸に手を当て「愛しい君よ」と手をのばしてるんだろう? 役者気取りか?
 ふと視界の斜め下から光る牙が跳ねあがり、オピウムへと迫った。
 タマの大鎌だ。タマは僕の横からオピウムへと踏み込み、大鎌を斬りあげる。
「砂利が」
 忌々しげにつぶやくオピウム。逆袈裟に斬りあげられた大鎌は、片手でなんなくつかまれる。バキリと音が鳴った。大鎌がガラス細工のように砕け散る。だが、白い影はとまらない。得物を失おうとも闘争本能は枯渇せず、その細い肢体をフルに使って鋭い打撃を叩き込む。ブルース・リーのジークンドーみたいにタマが拳を乱打していく。顔や胸を狙う打撃、膝を押さえるような蹴り。その全てをオピウムはさばき、受ける。不意にタマの構えが変わった。直線的な攻撃が一転、体が開き、縮み、腕がぶん回る。フック軌道のレバーブロー。文句ない一撃がオピウムをとらえる。でも、オピウムはピクリとも動かない。
「蠅(はえ)だな」
 僕には初動がつかめなかった。握られた拳が無造作にタマの横っ面へと叩き込まれている。その一撃でタマの体幹から力が抜けた。タマの姿勢が崩れる。オピウムの手には、青白く輝く七支刀がいつのまにか握られている。ふりかぶった。
 僕は、とっさにタマの体を引いて巻き込むように抱きかかえ、回転しながら倒れる。背中を熱いなにかが通り過ぎる。尖った熱さは鋭い痛みに変わる。
 斬られた。
 肩甲骨の当たりから斜めに痛みが奔っている。倒れたおかげで、骨までは断たれてはいない。でも、痛くて立てそうもない。思考が混線し、軽い瞬時のパニック。けど、僕も慣れたもので、すぐに状況を把握……タマは守れた。
「タマ……」
 呼びかけたけど反応がない。僕の体の下敷きになったタマは目を開いているけど、焦点が合っていなかった。どうやら裏拳のダメージがまだ残っているようだ。僕は僕で痛みにうめき声が漏れてしまう。でも、デバッガの僕なら背中の傷は治せる……はずだ。現実世界でどこまでその力が反映されるのかは知らないけど……
「砕月、なぜ邪魔をする? なぜ庇う? なぜ私の言うことをきかない?」
 背後で困惑しているような声が聞こえた。それがわからないってのは、やっぱりオピウムはプッツン系女子だってことだ。背中は痛むけど首だけ振り返り、後ろに視線をむける。
「僕とあなたは敵同士。これでいい……もう、これであなたが誰かを傷つける姿を見ないですむ」
 なんかよくわかんないけど、僕のビョーキが既に死を覚悟しちゃってた。
「本当は敵も味方もない。全ては僕が愛すべき対象。ああ、愛しい君たちよ、どうか、もうこれ以上、誰も傷つかないでおくれ」
 今回のビョーキがなにキャラなのか、僕にもよくわからない。オピウムはなにか信じられないものでも見たかのように顔面蒼白になっていた。怒りのせいか口元が震えている。
「……砕月、お前はまた私の邪魔をするというのか? また行くなと私をとめるのか? 泣き叫んで私を惑わすのか? これはお前のためでもあるんだぞ!」
 いきなりシャウトされたって、なに言ってんのかわからない。
「愛に国境も常識も過去も関係ない! ラブ&ピースの精神は、まず男女の間から育(はぐく)んでいくべきじゃないだろうか? そりゃ互いに仇敵同士、すぐに心を開くのは難しいさ。でも、とりあえず体は開いていこう! いや、なんなら心は開かなくていい! 体だけでも開いていこう!!」
 すいません、誰でもいいので、僕のビョーキを殺してください。
 ふと、オピウムの瞳から輝きが失せた。
「……愛しき我が汝妹の命を子の一つ木に易へむと謂へや」
 かすれ震えるその声は、それまでのオピウムのものとは違っていた。その異常な変化と雰囲気に、痛みさえ忘れる。明確な殺気に、ゾクリと背筋が毛羽立った。
 あ、僕、殺される。そう悟った僕は、とっさにタマを抱きしめた。
「タマ! 僕はいつだって心も体もフルオープンだからね!」
 今際の際に出てくる発言がこれじゃあ、死んでも死にきれねぇ……

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モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)6 Gess1


人気の「モテ泣き」シリーズ、

6巻、8月10日発売です!

いよいよクライマックス!!!!
!!!!

(いろんな意味で)
6巻表紙CMYK



























                              著:谷 春慶/イラスト:奈月ここ



地獄の蓋フルオープン! 死者の霊が溢れだし、街はパニック状態に!! 
だがゲス男・望月砕月はそんな中でもビョーキ全開! 
迫り来る死者、ハルマラ率いるウィザード軍団、
そして事件の黒幕・オピウムと激しい攻防を繰り広げながら、
修羅場を発生しながら、砕月は事件の真相に迫る! 
が、明らかになっていく真実は、ベリーハードなものだった……。
けど、ゲス男・望月砕月はそんな中でもビョーキ全開なんですけどね!!


8月10日の6巻、9月の7巻の連続刊行に先駆け、
「モテ泣き」シリーズについて、一挙解説!

まずは、前巻
『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)5』では、
いったいどんな事になっちゃってたのか、一部紹介します!


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「兄ぃ、お見事です」ハピ子
 横に立つハピ子の頭をぽんぽんと撫でた。
「ハピ子、ありがとう。体は大丈夫?」
「ぜんぜん平気です。兄ぃのためにゃらウチはたとえ火のにゃか水のにゃかです」
 ピコピコ猫耳が動いていた。ああ、もう抱きしめたいな、この子。
 けれども、僕が暴走するより先に足音が近づいてきた。
 ホミカ及びミドルウィザードの面々だ。彼女たちはそれぞれ武器を携え、警戒を解いていない。その後ろからハルマラが現れる。
「攻撃目標だったバグの排除を確認しました。状況は終了ですわ」
「しかし、ハルマラ様……」
 ここまで来てもホミカの敵意は消えないようだ。僕は苦笑を浮かべてホミカにウィンク。ホミカは舌打ちを鳴らし……
「……了解しました。各自武装を解け。こいつらはボクらの敵ではない」
 ホミカの言葉にミドルウィザードたちは武装を解く。
「作戦を第二フェイズへ移行しますわ。ホミカ、部隊を連れてアルルーナ様との合流ポイントへと向かいなさい」
「……了解しました。行くぞ」
 ミドルウィザードたちは軽やかに空へと飛び立っていく。見上げたらホミカのパンツが見えそうで見えない。いや、そんなことじゃねぇ。
「ホミカ、ありがとう」
 勢いよくこちらを振りかえり、ホミカは忌々しげに僕をにらむ。僕のとなりでハピ子が威嚇していた。
「ボクがいつかお前らまとめて削除してやるからな!」
 それだけ言ってホミカは飛び去っていった。
 ハルマラはため息をつきつつ「もうしわけありません」とだけ言う。
「まあ、いいさ。それよりハルマラもお疲れ様。ありがとう、助けてくれて」
「当然のことですわ、砕月様」
 寝転がっていたタマがカンナちゃんごと起き上がる。
「……砕月様?」
 やっぱり反応するよね? 僕だってする。ハルマラは悠然とタマの前に立ち、微笑みかけた。
「あなたを認めましょう、ロウアー……いえ、ウバタマ」ハルマラ
「今、ゲツ君のこと砕月様って言わなかった?」
「ええ、敬愛する殿方に尊称をつけるのは当然のことではなくて?」
 くすりとハルマラは笑う。
「ウィザードとしても女としても負けるつもりはなくてよ」
「なに、いきなりわけのわからないこと言ってるのかな?」
「わたくしは砕月様をお慕いしております」
 ハピ子が「さすがは兄ぃです」と感激したような顔で僕を見ている。その反応の意味がわからない。
「ウバタマ、あなたには負けませんわ」
「勝手に喧嘩売られても困るんだけどな。奴隷の所有権争いなら買うけど?」
 道具から奴隷にランクアップ……って言っていいのかな? 判断に困る。
「気づいていないのならかまいませんわ。こちらとしても、それならそれで好都合ですもの。あとで後悔なさらぬように」
 くるりと踵を返し僕へと視線を向けてくる。
「それと砕月様……」
「あの、その呼び方は……ちょっと慣れないというか」
「わたくし、こう見えても多忙ですの。ですから今のところ会うのは十日に一回ほどのペースでかまいませんわ」
 さり気なく僕の抗議は受け流される。
「ですが、今後は時間を作っていけるようにしますわ。その間に身辺整理はつけておいてください。それまでは多少の浮気は黙認しましょう。あなたのそばにいられないわたくしにも非がありますものね」
 艶然とほほ笑みながら詰め寄られた。
 そこはかとなく静流先輩と同じ雰囲気がするんですけど、僕は大丈夫だろうか? あのね、重すぎる愛を支えきれるほど僕は強い男じゃないよ?
 チュッと頬に唇が添えられる。
「では、砕月様、また後ほど」
 そう言って歩み去っていくハルマラは景色に溶け込むように消えていった。僕はハルマラにキスされた頬っぺたに手を添える。ピンクのルージュが残っていた。呆気にとられたのも束の間で、重い沈黙がみんなを支配してるんですけど、僕、なにか悪いことした?
「さすがは兄ぃです!」
 いきなり叫ぶハピ子ちゃん。君のハイテンションぶりがよくわかりません。
「敵だったメスさえメロメロ。兄ぃは強いオスですにゃああ。にゃああああああ!」
 猫の遠吠えとか、初めて見たよ。
 しかしですね……問題は僕を白眼視で見る女の子です。
「タマ、まあ、これでみんなうまくやってけるんじゃないかな?」
「そうだね、砕月様☆」
 笑顔だけど、プレッシャーを感じてしまう。
「いや、その……なんか、怒ってる?」
「別に怒ってないし。砕月様は自意識過剰なんじゃないの? ていうか、タマさん的には問題なし、むしろ奨励かな。だって、当初の予定どおりハルマラ口説き落とせたんだしさ」
 そう言って立ち上がる。カンナちゃんも立ち上がり、僕とタマの顔を何度も往復するように見た。そして、ポンと手を叩き、えいっと僕の脛を蹴ってくる。
「え? なんで? カンナちゃん、なんで?」
 そのキックの意味がわからない。
「砕月様はこれからハルマラの相手で大変だと思うけど、がんばったら? タマさんには関係ないことだもんね。行くよ、カンナ」
「はいは~い☆ タマさんタマさん、手、つないでいいですか?」
「ほんっと、うっとうしいよね」
 悪態つきつつもタマはカンナちゃんの手をつなぐ。カンナちゃんは嬉しそうに手をブラブラとゆするように歩きだす。
「えへへ……タマさん、えへへへ。タマさ~ん」
 嬉しそうに笑いながらカンナちゃんはチラリと僕のほうを見る。タマに見えないようにあっかんべぇ、と舌を出してきた。
 よくわかんないけどカンナちゃんには敵だと認識されたらしい。
僕、がんばったのに……
「にゃおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」
 唯一味方のハピ子は、猫のくせに遠吠えするだけだった。


◆Epilogue【夏草や つわものどもが ゲスの跡】◆
 
 僕らのいた二の丸や、さらに上にある本丸までの道は舗装されておらず、木々の間を縫いながら小道へと出なければならない。そこから神社まで下り、やっと帰れるというわけだ。なので、僕ら四人は獣道を歩いている。
 前を歩くタマに僕が声をかけようとすると、カンナちゃんがタマに話しかけて僕の発言をつぶしてくる。カンナちゃんの瞳には僕への対抗意識が灯っており、言外に「タマさんは渡さん」と言っていた。もうしかたがないからカンナちゃんに話しかけよう。
「あのさ、カンナちゃん、オピウムってなにしようとしてるか訊いてる?」
「詳しくは聞いてないよ」
 無視されなくてよかった。
「夢のなかにいたようにおぼろげにしか覚えてないんだけど、オピウム様は反魂香を使ってなにかを生き返らせようとしてるみたい。でもでも、反魂香だけじゃあうまくいかないって知って、別の方法をやるしかないって言ってた。それで、新條市に反魂香をバラ撒けって言ってきたんだ」
 その辺は鬼子ちゃんも言ってたことだ。問題は目的だ。
「バラ撒いてどうするつもりなの?」
「なんか生と死の境目を曖昧にするとかなんとか言ってたけど、それでどうするかまでは……あっ!」
「どうしたの?」
「この山を中心にしてなにかとつなげるとか言ってた! 山は異界の入口だとか……」
 獣道を抜け、小道へと出た。舗装されていない道はそのまま本丸のほうにもつながっている。
「誰っ!」
 タマが道のほうへと視線を向ける。その手には大鎌が握られていた。タマの見てるほうを僕も見る。誰もいないと思っていたけど、虚空から滲み出るように人が姿を現した。
 アルルーナさんを背負ったボロボロの義父さんだった。
「ああ、ゲッちゃんたちか……そっか、うまいこと救ってみせたんだね。やるなぁ、ゲッちゃん。それでこそ、僕の息子だ」
「どうしたのさ、その怪我!」
 駆け寄ってみれば、アルルーナさんも血だらけだった。
「アルルーナさん、大丈夫なの?」
 義父さんは苦笑を浮かべる。
「復旧作業をしてるだけだ。命に別状はない。それよりハルマラちゃんたちは?」
 タマが大鎌を消した。
「ハルマラたちなら合流ポイントに向かうとか言ってたよ」
「なるほど……いや、結果としてはそっちのほうがいいか」
 この人にしては珍しく真剣な顔をしていた。普段はヘラヘラ笑ってちゃらんぽらんとしてるけど、こうやって黙ってると凄みのようなものさえ感じてしまう。僕の視線に気づいたのか、義父さんはヘラリと笑う。
「いやいや、オッピー強くてさぁ。悪だくみをとめようとがんばったけど、逃げ帰ることしかできなかったよ。ありゃ、チートだな」
 口元はゆるいけど、目は笑ってなかった。
「ゲッちゃん、少し厄介なことになりそうだ。君に大切な人がいるなら、すぐにその人のもとに行きなさい」
「どうしたんだよ、いきなり」
「香織と莉子は僕が守るから気にしなくていい。ここでポイントを稼ぎ、冷えきった家族関係を再構築してみせる! そう、僕はピンチをチャンスに変える男、望月大和!」
「発言内容がゲツ君とかぶりまくるね、この人」
「それはものすごく心外だよ、タマ」
「ゲッちゃん、マジな目で言わないでよ。お父さん、地味に傷つくぞ☆」
 辺りが不意に暗くなった。空を見上げれば暗雲が立ち込めている。
「なに、これ?」
「あーあ、はじまっちゃったねぇ」
 小道の上、本丸のほうから人影が歩いてくる。一人じゃない。わらわらと押し寄せる波のように。あれは……
「幽霊?」
 新條市にあふれかえっている死者たちだ。でも、おかしい。あれは完全に実体化している。
「え? ディレクトリ? まさか、カンナちゃん?」
 カンナちゃんは必死になって首を横に振る。けれども、その顔は幼いながらも戦士のように引き締まっており、いつのまにか大槌を具現化していた。
「これ、ディレクトリじゃないよ」
 タマは沈痛な面持ちだ。その手には大鎌が握られている。
「じゃあ、現実世界だって言うの!? だって、あんな化け物が……」
 わらわらと死者たちが近づいてくる。タマが大きく深呼吸をして、真剣な顔で僕を見すえた。
「神蝕だよ。現実を塗りかえる狂った幻想。世界の破壊……大規模神蝕」
「……どういうこと?」
 義父さんが肩をすくめる。
「オッピーが黄泉路を開いたんだ」
 黄泉路? それってあの世への道ってこと?
「西行法師の反魂香で生と死の境界を曖昧にし、この山を異界の入り口に見立てた。ほんと、健気に暴走してくれちゃって、まあ、困ったちゃんだよ」
「それって、どうなるの?」
「どうなるもなにも神蝕ってのは望みどおり世界を描きかえることだ。描きかえられた世界は、それまでの秩序を維持できず、場合によっては崩壊する」
 言ってる意味がよくわからない。
「今のところ範囲はこの山の本丸だけ。でも、すぐに広がってくんじゃないかなぁ?」
 その言葉と呼応するように、うめき声のようなものが森のなかから響いてくる。
「これは思ってたより早いな。さっさと降りたほうがいい。ここもすぐに呑み込まれる」
 そう言って義父さんは歩きだした。
「どこ行くんだよ?」
「家族のもとだよ。さっきも言ったろ? 大切な人のもとに行けってさ」
「だって、このままじゃあ」
「対抗するにも駒も策もない。今は撤退したほうがいい。それに、これからが大変だ。黄泉醜女っていう死人さんたちが生きてる人を襲う。ゲッちゃんだって街中に幽霊みたいなのがいっぱいいるの知ってるだろ? アレが実体化してゾンビパニックだよ」
 ボコリと音がする。足首をなにかにつかまれた。青白い手が僕の腕をつかんでいる。その手を義父さんの靴が踏み砕いた。
「僕はもうゲッちゃんを一人の男だと思ってる。だから束縛はしない。でも、一緒に来るなら家族として僕が守る。そうじゃないなら、あとは自分の判断で行動しなさい」
 僕は山頂を見上げた。
 死者の群れはまるで洪水のように折り重なって迫ってきている。
 呆然と立ちすくむことしか僕にはできなかった。

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(世界崩壊の危機です! 立ちすくんでる場合じゃないぞ! 砕月!)
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モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(妄想)の女の子

motenaki
ノンストップ・ハイテンション修羅場ラブコメ!
3連発!!
「モテ泣き」シリーズ初の短編集
<日常修羅場編>登場!


世界の危機より目先の女難! 女と見ればオートで口説くゲス男・砕月の、ビョーキ炸裂な<日常修羅場編>登場だ! どんどん増える女の子たちと加速する修羅場、そして悪化(?)するビョーキ。砕月のライフはラストまで持つのか!? 「僕だって、苦しいんだよ!」「「黙れゲス!!」」。なんだかんだでモテモテな砕月君には今回、ノンストップで修羅場っていいただきます!!  公式サイト掲載「エピソード0」も同時収録!
「ゲツ君の日常って、見てて飽きないね☆(タマ)」



『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(妄想)』
著:谷 春慶/イラスト:奈月ここ


moteso_soukan_c
ちなみに主人公・望月砕月(種族人種を問わず女と見れば口説きまくるビョーキ持ち)を取り巻く状況はこんな感じ→(相関図参照)。女キャラ多すぎ!とかつっこみが怖いので、ここで「モテ泣き」をぞんぶんに楽しむための、「モテそう」登場の女性キャラクターを攻略データ付きで一挙紹介!!
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